◆濃厚バニラ

 湿気が暑さに相乗して身体にだるさを与えている。
 だから目の前に見えたコンビニに滑り込んだ。
「……涼し」
 ぽつっと呟くと、後は黙って商品を冷やかすことにした。
 生憎私の財布の中には一円玉が2枚とお守り用の五円玉があるのみ。
 親のすねかじりの身分なので別に問題はない。

「あー、涼し」
「そーだな」

 ん?この声は……
 そっと棚の影から入り口をみると、大小二つの同じ制服を着た少年の姿。
 小さい方が一年の越前くんで、大きいほうが二年の桃城くん。
 二人とも同じテニス部に所属していて、よく一緒にいる姿を見かける。
 私は帰宅部で、桃城くんの1つ上の三年生。
 接点はないように見えるけど、越前くんと同じ図書委員だ。
 当番の日が一緒なのでよく話す。
「誰かさんが暑い暑い言うからすげぇ暑かったっすよ」
「そりゃぁ俺のことか?」
「桃先輩の他に誰がいるんすか」
 断言した越前くんに私は思わず噴出してしまった。
「あれ?小春先輩じゃないっすか」
 私に気づいた二人に、私は笑いを堪えながら片手を上げた。
「や、越前くん、桃城くん。部活帰り……じゃないよね。テスト期間中だったね」
「テストなんかよりテニスしたいっすよ、本当」
「勉強は学生の本分だよ、桃城くん。にしても本当仲いいよね」
「俺はパシりみたいなもんすけどね」
 あんまり話したことはないけど、人見知りしなくて明るいムードメイカーな存在の桃城くんは、苦笑しながら肩をすくめて見せた。
「小春先輩は?」
 桃城くんの嫌味をものともせず、越前くんは私に話し掛ける。
「暑さに負けて涼みに。二人も?」
「ジャンケンで桃先輩に買ったんでアイス奢ってもらうんです」
「アイスかぁ、いいね〜。私財布の中身空に近いからさ」
 それにアイスは自腹しなくても家に帰ればあるし。
 一応付け加えておいた。

「あ!越前、何二つも持ってんだよ」
 越前くんの手の中にはカップのバニラアイスが二つあった。
「小春先輩の分っすよ。こっちは俺が出すっすよ」
 はいっと越前くんは1つを桃城くんに持たせた。
「ちょっと、悪いよ」
「俺がおごりたいんす」
 きっぱりと言い切った越前くんはさっさとレジに向かってしまった。
 残された私の横を、桃城くんがくつくつ笑ってレジに向かって歩いていった。


「じゃ、俺先帰るな」
「おつかれっす」
 勉強しないとヤバイんすよと言って、桃城くんはさっさと帰っていってしまった。
 取り残された私は、そのまま帰るのもどうかなと思ってちらりと越前くんを見てみた。
「さっさと行きましょう、小春先輩」
 越前くんに手を掴まれて、私は歩き出した。
 暑いと思っていたけど、手を繋ぐくらいはそれほど暑くはない。
 むしろ越前くんの手、ひんやりとしていて、なんだか私の方が悪い気がしてくる。



 しばらく歩いて、近くのお寺までたどり着いた。
「越前くん?」
「こっちが俺の家っす」
 あれ?
 私、越前くんの家に何で来てるんだ?
「上がってください」
「え?あ……おじゃまします」
 とりあえず役得ってことで上がらせてもらいますか。

 廊下を突き進み、階段を昇る。
 越前くんは部屋に入るとクーラーのスイッチを入れた。
 涼やかな風が流れ出し、私は思わず目を細める。
「小春先輩、座ってください」
「あ、うん」
 私はとりあえず越前くんに勧められるまま、小さな机の前に座った。
「どうぞ」
 目の前には少し汗をかいたバニラアイスとスプーンが置かれた。
「いただきます……って、お金はまた今度返すからね!」
「別にいいっすよ」
 越前くんはなぜか楽しそうに笑い、カップの蓋を開けた。
 口の中のアイスは口内の熱でしゅっと溶けてひんやり気持ちいい。
「やっぱアイスはバニラに限るわ〜」
 別にチョコやストロベリー味が嫌いって訳じゃない。
 ただバニラ味が好きなんだよねぇ。

「……可愛い」

 ぽつりと越前くんが呟いた。
「は?」
 思わず聞き返してしまった。
「ねぇ、小春先輩」
 越前くんが猫のような動作で近づいてきて、私を見上げる。
 か、顔近いよ越前くん!
「キスしていいですか?」
「え!?」
 ダメっすか?と首を傾げる様は実に愛らしい。
 だけど私、ファーストキスなんだけど……
 それに何より越前くんのファンの子たちに悪い気がする。
「てゆーか我慢できないんで」
 すんませんと悪びれもなく言うと、越前くんは私の肩を押して床に押し倒す。
 運良くクッションがあって床にゴッツンって言う痛い状況は回避できた。

「え、越前くん?」
 つっと熱の篭った視線を向ける越前くんの指が唇を撫でる。
 びくっと身体を弾ませ、動けない私に越前くんの唇が重なった。
 軽く触れて一度離れると、もう一回。
 また一回。
 何度も重ねていくうちに、自然とそれは深くなっていった。
 ふわふわとした感じを覚えながら、私もそれに答える。
 濃厚バニラ味なキス。
 冷たくなんてなくて、むしろ暑いくらい。
 だけどまだ足りない気がして気がつけば私が求めている側になっていた。
「……小春先輩」
「あっ」
 はっとした瞬間、顔が赤くなるのが自分でも分かった。
 なんか急に恥ずかしくなっっちゃった。
「好きです」
「っ……えっと……私、も……」
 好きだよ?
「なにそれ」
 越前くんは何で疑問系なんすかとくつくつと笑う。
「だって……恥ずかしいじゃない」
「そういうところも可愛いっすよ」
 大人びた顔で笑って、啄ばむようなキスを1つ。
 私はそれに答えるように、越前くんの背に手を回して、お返しのキスを返した。
 


⇒あとがき
 突発的ドリーム。
 バニラアイスを食べていたら浮かんだネタ。
 最初は忍足にしようと思ったけどリョマたんが書きたくなった。
 本館青学少ないしね。
20050802 カズイ
20071126 加筆修正
res

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