◆制裁と弾丸
「ひっ」
「お、おなじ緑化委員だったろ?」
「すいません、先輩方」
にっこりと私は愛想良い笑みを浮かべた。
怯えあがった表情の三人は私と私の後ろの先輩たちに怯えている。
一学期に所属していた委員会の先輩とはいえ、
「手加減は無用です」
指示を出せば、それは始まる。
「恭弥先輩に……風紀委員長にたてついた罰です」
制裁。
私はそれをそう呼ぶ。
それに私が直接手を下すことはない。
私はあくまで書類の整理や女子の制服チェックなど、他の風紀委員ができなかったりしないほうが良いと思われる仕事を片付ける。
女子生徒への制裁はあまり機会がないが、少々あるらしく、その際は必ず私が付き添うことという決まりが私が委員に入ってから始まった。
多分、私への精神面の気遣いだと思う。
無理矢理男たちに犯されたことのある私への。
「終わったぜ、姫さん」
タバコをくわえへらへらと笑う。
だけど実際に火をつけているわけではない。
火をつけて銜えていれば彼もまた雲雀の制裁を受けることとなる。
それは風紀委員の暗黙のルールの一つ。
「では、私は雲雀先輩に報告してきます」
「うぃー」
「頼んだぜ」
くるっと制裁役の二人に背を向け、応接室へと急いだ。
「ヒバリのモノだとしても見てるだけで癒されるよな」
「姫さん美人だからな」
二人が笑いながら私の背を見ているのは知ってる。
よくあることだ。
私はこの容姿を利用する。
前だったらそんなこと考えられなかった。
長い前髪と眼鏡で顔を隠して俯いて。
夏なのにブレザーをかっちり着込んで隠れるように生きてきた。
可愛くて、誰からも愛されていた明るい表の顔を上手く操っていた幼馴染のあの子の下で。
でも今は違う。
私は変わった。
変えたのはあの子。
そして、恭弥先輩。
「お帰り小春。見てたよ」
「なら報告は不要ですか?」
「そうだね」
恭弥先輩は欠伸を噛み殺す。
「あの笑顔、結構あいつらの拳より効いたんじゃない?」
「そうだといいですね」
いたずらっぽく私は笑った。
一度覚えた快感が忘れられないんですもの。
あの子の苦々しいあの顔。
思い出すだけで、楽しい。
「おいで」
右手をさし伸ばされ、私は扉を閉めて恭弥先輩に歩み寄る。
体を引き寄せられ、唇が重なる。
最初は浅く。
だけどそれはいつしか深く。
「んっ」
唇が離れると、二人の間を糸が引く。
「小春」
「なんですか?」
「今日は放課後一緒に帰ろうか」
「?」
「仕事は無し。小春が昨日一気に片付けたからないんだけど」
そう言えば委員会の代表会議前だからって私一気に片付けたっけ。
「でも代表会議でまた書類増えたんじゃ……」
「それならさっき片付けた」
「あ、そうですか」
「帰りは小春の家寄るよ」
「はい」
再び唇が重なる。
ただ重ねるだけ。
優しいキス。
「へー、こんないい部屋があるとはね―――」
誰の断りもなく、扉が開く。
「君、誰?」
唇が離れ、私も彼らを見る。
同じ一年だ。
顔も名前も知っている。
1-A、山本武。
一年生でありながら野球部のレギュラーであり、クラスメイトたちからの信頼も厚い。
私のクラスでも彼を好きだと言う子は何人かいる。
「なんだあいつ?」
「獄寺、待て……」
斜め後ろにいる灰色の髪の彼も知っている。
一学期の途中、中途半端な時期に転校してきた帰国子女。
山本くん同様1-A、獄寺隼人。
彼は編入してきてから様々な問題を起こしている。
恭弥先輩の手を煩わせるほどのものでもなかったから今まで放置していたけど、タバコはいけないね。
しかも恭弥先輩の前で堂々と吸ってるなんて。
「小春」
小さく名前を呼ばれ、私は恭弥先輩から離れ山本くんたちの方へと歩く。
「な、なんだよ」
「邪魔」
私は彼らの横を擦りぬけ、応接室を抜け出した。
獄寺くんよりも更に後ろに不思議そうな顔の少年が居た。
1-A、沢田綱吉。
私と同じいじめられっ子という立場だったけど、微妙に立場の違った人物。
僅かに頬を染める彼と絡まった視線は、私が先に解いた。
不思議な予感に胸を押さえた。
なんだろう。
私は一度応接室を振り返った。
人を殴る音。
恭弥先輩が仕込みトンファーで三人に攻撃を仕掛けている。
なんだろう。
扉の奥。
沢田くんの後ろ。
窓の向こう。
黒いスーツのにやりと笑う謎の赤ん坊。
その手には拳銃。
銃口は沢田くんに向かっている。
「!?」
いぬかれた沢田くんはさっきとは別人の動きをしていた。
ぎゅうっと制服の生地を握り締めていた。
高鳴る鼓動。
恭弥先輩を好きになった時とはちょっと違う。
なんだろう。
始まる予感。
多分、そんなもの。
私は応接室に背を向け歩き出した。
ワクワクする。
「調べて見るか……」
あの赤ん坊。
沢田くんの変貌。
三人の詳しいデータ。
データを集めるのは私の仕事。
だけどこれはもうかなり個人的な事。
恭弥先輩には内緒かな?
本当……楽しくなりそう。
⇒あとがき
リボーンと視線だけ合う。あはは、どんなだよ。
原作だと二巻の内容ですね。ためしに書いてみただけで、これは続きません。
20060501 カズイ
20080622 加筆修正