◆孤高の野の花

 死角のない優等生。
 小さな箱庭のいじめられっ子



 入学してしばらくすれば、誰もがスカートを短くする。
 でも僕らが呼び止めるほど短くする馬鹿はいない。

 ただ一人変わった女子生徒がいた。
 それが飯島小春。
 長い黒髪を二つの三つ編みにして、黒い縁の眼鏡を掛けた長いスカート。
 はっきり言って地味な委員長タイプの女の子。
 地味すぎて逆に目立ってる。
 長い前髪と眼鏡で顔を隠すだけじゃ足りないのか、毎日俯いている。
 彼女の幼馴染らしい明るい少女とは違う。
 まるで、広い野原に一輪だけの、孤高の野の花。
 そう例えたのは僕自身。

 衣代わりが始まって、冬服から夏服に変わる。
 その中でまた一人だけ違う。
 冬服のまま登校して、暑くないんだろうか。
 夏は夏服という規定がない以上、呼び止めることはしなかった。
 だから、接点は週一程度、服装検査の日に校門で通り過ぎるほんの数秒だけだった。
 なんとなく名前は調べてみたけど。

 ある日偶然に校内で会った。
 それは放課後の廊下で。
 彼女は夕陽を見ていた。
 何故か濡れた雑巾を片手に。

 逃げるように離れて行った彼女の後を僕は追いかけた。
 辿り付いた教室の扉から、つんと鼻についた匂い。
 それは精液と血の匂い。















 繋がるピースに、何故か頭が冷えていった。
 そうして気付いた。
 僕は彼女に恋をしていた。
 それは何時の間にか育っていた想い。
 下らないと思った想い。

 だから飯島の体だけでも手に入れられたら十分だと思った。
 心まで手に入れられたらもっと最高だね。
 そう思って復讐を持ちかけてみた。
 けど飯島はそれを受け入れなかった。

 やっぱり彼女は孤高の野の花。

 裸の飯島は予想以上にキレイ。
 黒縁の眼鏡の下も、予想以上のキレイ。

 それを見て、しかも僕より先に汚したヤツらを殺してやりたいと思った。
 一人じゃないことはなんとなくわかる。
 群れてるやつは嫌いだ。
 だから飯島を汚したヤツらを殺してやろうと思う。

「……恭弥」

 後少しという時に、不意に飯島は僕の名前を呼んだ。
 強制した覚えはない。
 無意識なのかよく分からないけど、僕の名前を呼んだ。
 そのことが熱くなった体にさらに熱を与えた。
 だから僕もほんの少し反則。

「小春」

 名を。
 飯島の達した声に重なるように呟いた。
 多分、飯島は覚えてない。
 それでもいい。
 僕は飯島が欲しいだけ。
 飯島の意思は知らない。
 貪欲な思いに、僕は案外忠実だよ?
 覚悟しなよ。

 帰り際にイエスと言わなければ帰れないように腕を掴んだ。
「明日、学校に来なよ」
 ボロボロになっていた制服は着れるような状態じゃない。
 でも、夏服くらい持ってるんだろう?
「……はい」
 ジャージ姿の色気のない姿。
 だけど僕は欲しいんだよ。


 孤高の野の花。
 汚したいほど愛してる。



⇒あとがき
 雲雀視点パート1。と言って、パート2はなかったりして(笑)
20060331 カズイ
20070405 加筆修正
res

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