◆彼女の我儘、彼の言分

※リク作品

 どうして判ってくれないんだろうと、いつも思う。
 それはとっても普通のこと。
 ぎゅって抱きしめて、キスをして。
 ただそれだけの我儘を彼は許容してくれないのだ。
「ちくしょう、ツンデレ男め」
 ソファの上に足を引き上げ、膝を抱える。

「ちょっと、小春。パンツ見えてるわよ」
「見るなオカマ」
「いや、恥を覚えなよ小春」
「だまれ赤ん坊」
「もっと可愛いの穿けば〜?王子から下賜してあげようか?ウシシ」
「おだまり変態王子」
 人が感傷に浸っていたと言うのに一々うるさい人たちだ。
 私はそこまで突っ込んだ後、深々と溜息をついた。
 私が所属しているのはボンゴレの独立暗殺部隊ヴァリアー。
 って言ってもボス曰く、私はまだまだ見習いなんだそうだ。
 後から入ったゴーラモスカより格下なんてひどいや。

 大体さっきから遠くで聞こえてたスクアーロの声が聞こえないんですけど!
 またボス?またボスなの!?
 ひどい、ひどいわ皆して!
「私には普通の女の子のような夢を見る資格はないって言うわけ!?」
「……誰もそんなこと言ってないだろ」
「態度がそう言ってるの!……ってボス!?」
 いつものようにボスが私の頭をぽんぽんと叩く。
 ああ、無言でレヴィが睨んでるよ!
「小春、あのうるさいの回収しとけ」
「うるさいのってやっぱりまたなの!?私の彼氏はどうしてこうも馬鹿なんだー!」
 うっかり涙が出そうにながら私はとりあえずソファから飛び降りて叫び声が途切れた場所へと向かって走り出した。


 小春と言う名前からわかると思うけど、私は生粋の日本人。
 それなのになんでイタリアンマフィアの暗殺部隊に見習いとは言え居るかと言えば、私のおじいちゃんがこれまた生粋のヤクザ―――所詮ジャパニーズマフィアと言うヤツだったのだ。
 なので悲しいかな、こんな可愛い私につけられるあだ名は決まって"組長"だった。青春時代すべてが台無しだよ根畜生!!
 運よく病弱に生まれたお母さんは難を逃れたけど、うっかり健康体の怪力娘に成長してしまった所為で私は現役組長であるおじいちゃんによって修行だとわけのわからない理由によってイタリアに送り込まれた。
 ……それが確か一年前の話のはずだ。
 同盟マフィアであるボンゴレの九代目・ティモッテオ様のお陰でどうにか今も無事で生きてるし、ヴァリアーにも入れたし、初彼も出来たし万々歳!……と言いたいところなんだけど、そうも行かない。


「声はこちから聞こえたんだけど……あ!」
 曲がり角の向こうに見慣れたサラサラの銀髪が見えた。
 床に散らばっているように見えるのは気のせいだろうか?
「スクアーロ見っけ!ってズタズタのボロボロ!略してズタボロじゃないのよぉ!」
「る゛せぇ、キンキン騒ぐなぁ」
 面倒くさそうに片手だけ動かして耳に当てる。
 そんな彼の横に私は膝をついた。
「任務でもないくせになんでこんなことなるのよ!毎回毎回……」
「う゛お゛ぉい、黙れつったろぉ」
「黙りません!誰が毎回手当してあげてると思うのよ」
「お前は俺の女なんだから当たり前だろうがぁ!」
「何よそれ!俺の女とか言うんだったらねキスの一つくらいしてみなさいよ!」
 私はすくっと立ち上がると、反撃できないスクアーロの身体に蹴りを一発お見舞いした。
「ぐおっ!?」
「スクアーロなんか知らない!」
 トンと地を蹴って走り出す。
「待て!小春!!」
 後ろでスクアーロが叫んでるのはまるっと無視して走る。



 赤い絨毯の敷かれた屋敷の中をぶっちぎって自分の部屋に向かう。
 別に私はそんなに我儘を言ったつもりはない。
 好きって言ったのも付き合ってって言ったのもそりゃぁ私だ。
 だけど俺もって言って付き合ってやるって言ったのはスクアーロだ。
 彼氏彼女の関係になったんだからぎゅって抱きしめてくれていいと思うし、キスの一つくらいしてくれてもいいと思う。
 そんなに私は魅力のない人間なんだろうか。
 自慢じゃないけどキャバッローネのボスに求婚されたことあるし、かの有名な最強ヒットマンには愛人にならないかって誘われたことだってある。
 でも私が選んだのはスクアーロだし、選んでくれたのもスクアーロ。
 なのになんで……
「キスくらいしてくんないのよぉ」
 閉め切った扉に背を預け、ずるずると私はその場に座り込んだ。
 胸がぎゅうって苦しくなって、服の襟もとを掴んでうずくまった。
「うっ……くっ……」
 涙がぼろぼろ溢れてくるけどわんわん泣くのも癪で、必死に歯をくいしばって嗚咽を凝らせる。

「う゛お゛ぉぉい!!」

―――ドンッ
「きゃっ!?」
 突然問答無用で開けられた扉に私は前向きにつんのめって転んだ。
「小春!」
「な、何よ!?」
 思わず身構える私にスクアーロが歩み寄る。
 突然手が伸びてきたかと思ったら、私の頭を引きよせて抱きしめた。
 目の前に一杯の黒。
 スクアーロの制服じゃんとなんだか間の抜けたことを考えながら、私は思わず身体を強張らせた。
「……これでなんか文句あるかぁ」
 ぼそっと言われた言葉に私は首を縦に振った。
「なっ!?」
「キスもしてよ」
 首を上にあげると、耳まで真っ赤に染め上げたスクアーロの顔があった。
 まるで白雪姫のように真っ白な肌は紅葉するとよくわかる。
「……ダメ?」
「う゛お゛ぉい、俺が男だって忘れてんじゃねぇだろうなぁ。それだけじゃすまねぇぞぉ」
「うん、いいよ。だって私スクアーロの彼女じゃん」
 むしろ願ったりかなったり。
 若干急展開な気もするけど、最近の子は早いからいいの。
 そりゃぁまぁちょっとは怖いかなっとは思うけど、相手がスクアーロなら、ね♪

 スクアーロは重々しく溜息をつき、何かブツブツと文句を言う。
 だけど結局私の我儘を聞いてキスをしてくれた。
 ああ、なんて幸せなんだろう!





 翌日、今までにないほどぼっこぼこにされたスクアーロの姿があった。
 ボスったらひどい!!
 って、は?ベルとマーモンも共犯?

「小春、お前今晩覚えてろよぉ」
「何でぇ!?いつものことじゃん!……ちょっとメンバーが違うけど」
「だから手ぇ出さなかったのにっ」

 意味が分からないわよスクアーロ!
 そうして二日連続の私の蹴りがスクアーロに決まった。



⇒あとがき
 ず、随分と遅くなってしまいましたがリクエストのスクアーロ夢、彼女の我儘的お話です。
 遅くなったお詫びに過保護XANXUSをおまけに添えてみました。←おいw
 下ネタに走らないよう気をつけてたのですが……全体的にキャラがころころ変わった挙句、若干お下品なヒロインになってしまい、本当土下座ものです。
 こんなのですがリクエスト(※)してくださってありがとうございました><
20080521 カズイ
※本館の企画リクエスト
res

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