◆xxx
「コハルー」
「なに?ってか、私のこといつから名前で呼ぶようになったのかな? や ま も と く ん ?」
「今から」
あっけらかんと言い張る山本に、コハルはあっそうと言って肩を落とした。
今の時間は放課後。
コハルは日直のため教室に残っていた。
山本はおまけである。
部活の休憩時間に抜け出してきたのだろうか、教室では普段見れない練習着だった。
「でさ、お前俺に何か言うことあるだろ?」
笑顔からまじめな顔。
その表情の変化にコハルは戸惑う。
「……何もない、けど?」
何故そんなことを聞くのだろう。
コハルには首を傾げるしかできない。
「本当に?」
「……本当に」
しばらくじっと見合っていたが、不意に山本が目を逸らした。
「……お前だったらよかったのに」
小さく囁かれた言葉にコハルは問い返すように「へ?」と呟いた。
席から立ち上がった山本は綺麗なタオルを机の上に置いた。
タオルの隅には小さく『to武From』に続いて自信と同じイニシャルと刺繍されていた。
コハルのイニシャルは確かにそれであっている。
だが生憎コハルはそれに見覚えはない。
別の誰かが山本に送ったものだ。
「私じゃないよ?」
「もうわかったって」
俯いた山本の顔をのぞき込む。
「やまも、と?」
絡んだ視線になんだか心臓を鷲掴みされたような気がした。
そのまま見ていたはずなのに、視線は近づいていた。
気づく頃にはもう元に戻っていた。
「今……何か、した?」
わからない。
戸惑うコハルの唇を山本の少し荒れた無骨な手が撫でた。
「キス」
「は?」
「だから、キスした」
開き直ったような台詞。思わずぽかーんとしてしまう。
「暗くなるなんて俺らしくないよな」
いつもの笑顔に戻った山本は、にっと白い歯を見せた。
「なんてことしてくれんのよ!」
顔を真っ赤にしてコハルは山本に詰め寄った。
「だってしたかったし」
笑ってもう一回。
軽い笑みじゃなくて、ほんの少し真面目さが滲み出て見える笑顔。
「……最悪」
コハルは俯いて、ギュッと山本の練習着を強く握った。
「満更じゃないくせに♪」
真っ赤な耳を撫でる山本の頬をコハルは摘んだ。
「だから最悪って言ってるんじゃん」
「大事にするぜ。多分」
「多分が余計。捨てたら殺す」
「殺されたらたまらないな。大事にする」
白いタオルはさようなら。
始まりの深い×××。
⇒あとがき
メールから生まれた物語。
ちなみに元ネタはアキから貰った絵。うっかり削除しちゃったので挿絵が消えてしまいました\(^o^)/
20061218 カズイ
20111123 追記