◆紫色の空

 ゆるゆると夜の帳が下りてくる。
 空は夕焼け色と闇色が上手く混ざり合って美しい紫色を作り出していた。

 紫、つまりは王族のみが身に纏うことを許された禁色。
 連想するようにあの方の優しくて残酷な最後の微笑が胸を過ぎる。
 紫清苑―――私が愛したお方。


「下僕一号、何を見ているんだ?」
「っ!?」
 不意に声を掛けられて私はぱっと後ろを振り返る。
「……何だ、龍蓮様ですか。と言うか私の名前は泉黎華であって、貴方の下僕になった覚えはありません!」
 私は何度も同じことを言っている。私は下僕ではなく家人なのだ、と。
 だけど龍蓮はいつもどこ吹く風。
 まったくと言っていいほど私の話など聞いちゃいないのだ。
 確かに私は『龍蓮』に使える泉家の血を引いている。
 仕えるとはいうけど、一応それなりの家柄だ。
 流石に紫を除いた七つの色を許されている一族たちほどではないけれど。
 一時期は後宮に上がることも許された一端のお嬢様だ。
 だけど今は年も性別も偽り―――違和感があるけど名がそのままなのは未練だ―――このくそガ……こほん。基唯我独尊なこのお坊ちゃんと二人旅の最中である。
 それもこれも清苑が流罪となったから。
「……だー!」
 感傷なんかに浸ってる場合じゃない。
「龍蓮様。とっとと宿に戻りますよ」
「いや、まだだ」
 きっぱりと言い切った龍蓮は笛を取り出した。
「ちょっと……やめっ」
 私が止めるよりも早く、龍蓮は笛に息を吹き込んだ。
 そして辺りに音が鳴り響く。
 あの怪音波が……

  *  *  *

「……うむっ」
 曲が終わったのか、満足したのか、私には今だ理解できないけれど、龍蓮は笛を離した。
 私は耳を塞げない代わりに意識を軽く手放しかけていた。
 一応仮にも家人ってことになってるからね。意識飛ばしたら失礼だ。
 だがはっと正気に戻って立ち上がった。
「何考えてるんですか!」
「風流な景観が私に笛を吹いてくださいといわんばかりに美しかったからに決まっているだろう。黎華にはわからないのか?」
 龍蓮は何を聞いているんだと当たり前のように返した。
「夕日なんかもう沈んどるわぁ!」
 がーっと怒鳴りあげた後でふと気づいてしまった。
 これは嬉しそうに笑った龍蓮の不器用な優しさだと言うことに。
「……龍蓮様、慰めてるつもりですか?」
「なんのことだ?」
 けろっと答える龍蓮がちょっと憎らしいけど、嬉しかった。
「それよりさっさと帰るぞ、下僕一号」
「だーかーら!泉黎華!下僕じゃないくて家人です!!」
 さっきは名前を呼んだくせに、またそう呼ぶ。
 小憎らしいこの主人が彼の人との再会に一役買うことになるのはまた別のお話。
「あ、ちょっと、置いていかないでくださいよ龍蓮様!」
 私は龍蓮の後を追って走り出した。



⇒あとがき
 初彩雲夢は龍蓮でしたー
 口調がわからんし上手く書けんです。ま、いっか。
20060922 カズイ
20080323 加筆修正
res

×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -