◆"それ以外"の彼女

 リディア・クロウと言う少女は不思議な少女だ。
 初日から妙にベルトルトに肩入れをし、俺やアニ、それと一部の人間には声を掛けるが基本的に一人を好む。
 元々それほど口数が多いわけではなかったが、一ヶ月目を過ぎるころから極端に口数が減ってきた。
 それは気のせいではなく、最近ではリディアの通訳としてベルトルトが駆り出されているため目に見えて減っているのが分かる。
 どうしてかは分からないがベルトルトはリディアの言いたい事を理解し、リディアの代わりに喋る。
 ベルトルト自身もあまり口数が多くはないので妙に視線で会話している姿が見ていて非常に居た堪れない。
 そんなリディアを教官たちが怒るかと思いきや、リディアはアニと同じく教官の前では上手くやっているようで、怒られる姿を見たことがあまりない。
 体格的に劣る所為か対人格闘の成績は低いが、立体機動装置の扱いに関しては誰よりも非凡な才能を見せつけてくれる。
 まるで鳥の様にアンカーを操って木々の間を軽々と縫うリディアの身軽さと動体視力はそこだけを見るならばミカサを凌ぐ実力だろう。
 だけど力が無いから巨人の弱点であるうなじの辺りを上手く削ぐ事が出来ず成績としてはミカサよりどうしても劣っている。
 そんな彼女は暇さえあればベルトルトにじゃれついている。
 暇があれば勝手にベルトルトの手を取り好き勝手遊び、たまに背後を取ったかと思うとその背に持たれて楽しそうに身を揺らしている。
 公私は一応選ぶが場所は選ばないその行為に割と早い段階で諦めたベルトルトは困った顔をしながらもリディアを受け入れていた。
 その事に関しては良い傾向じゃないかと思ったが、ベルトルトはそれを否定した。
 まあリディアは"人"で、俺達はリディアから記憶を奪ったらしいあの日の"巨人"だからな。

「目で会話してんじゃねぇよ!やっぱりいちゃついてんじゃねぇか!!」

 不意に聞こえたジャンの苛立った声音に俺は首を傾げながらも声のする方へと向かった。
「別にそう言う心算じゃ……え?そうなの?」
「だーもうお前ら何でそれで付き合ってないんだ!?もういっそフランツとハンナみたいにくっ付いちまえよ!!」
 その場にはジャンの他に聞こえた声の主であるベルトルトの他に先ほどから声を一切発していないリディアの姿があった。
 最近では随分と見慣れてしまって当たり前のように感じるが、ベルトルトとリディアの指が絡み合う様に結ばれているを見ると、確かにジャンの言う通りフランツとハンナのようにくっ付いてしまえばいいのにと思ってしまう。
 一度既に二人が付き合っているものと思ってベルトルトに確認した時にベルトルトは違うと否定をしたが、なら何故そうやって手を繋いでいるのか俺は問いたい。
「お願いリディア。期待した眼差しで見ないで」
「……何騒いでるんだお前ら。教官に見つかるぞ」
「ライナー。お前からも言ってやれよ」
「何をだ」
「この面倒くさい二人の事だよっ」
「あー……」
 ちらりと横目で問う様にベルトルトを見れば、ベルトルトはぶんぶんと首を横に振った後、眉根を寄せてリディアを見た。
「……それは確かにそうだけど」
「あー……ベルトルト。お前はもういっそ観念すればいいんじゃないか?」
「え?」
「どう見てもお前たちはフランツとハンナ以上だ」
「まあ。ありがとうライナー」
 随分と久しぶりに直接聞くような気さえするリディアの声にベルトルトがリディアを睨んだ。
「どうしてライナーにはちゃんと話すの?」
 ベルトルトの言葉に俺はおいおいと内心でだけ突っ込んでおいた。
 意味がよくわからんが、俺にリディアが直接話しかけるのは他の訓練兵に比べればベルトルトに次ぐ程度だ。
 付き合ってないと言う割に嫉妬はきちんとするなんてベルトルトは無自覚なのか?
「いけな……く、ない」
「……犬も食わねぇぞ」
 溜息を零しながら去っていくジャンに俺も同感だと呟きその後に続いてその場を去ろうとした。
 だがその手をリディアが逃がさないとばかりに掴み、初めて俺に対して"声"を発した。
(一緒に話しましょう?)
 口は一切開いていないのに発せられたその"声"に俺は目を見開き、ベルトルトも大きく目を見開く。
 目が合うと、ベルトルトは拗ねたように唇を尖らせ、アニよりも小柄なリディアを見下ろす。
「……僕に話せって言った」
(でもベルトルトは自分から話してくれないんだもの。だったら強要するしかないわ)
「どう言う事だ?」
 その"声"とその言葉の意味に混乱しながらどうにかそう問えば、ベルトルトがむすっとした顔のまま答えた。
「……こう言う事」
「拗ねるなベルトルト。俺はリディアを取らない」
「拗ねてない」
(ベルトルト可愛い)
「止めて」
(可愛い。愛しい)
 "声"は不思議で、俺にも聞こえている筈なのにベルトルトに対する愛しいと言う感情に当てられるばかりだ。
「……お前、いつもこれ聞いてたのか?」
 俺の問いにベルトルトは頷き、顔を赤くしながらリディアの身体を抱きしめた。
「もう駄目かもしれない」
「……駄目だろうな」
 お前的には、な。
 思わず苦笑しながらも少しだけ自分の感情に素直に成ったらしいベルトルトの頭を撫でた。
 リディアは嬉しそうに微笑むと不思議な"声"で小さく鳴いた。
 それはまるで小鳥の囀りの様な美しい音色の様にも聞こえた。

(私は"ナイチンゲール"。"巨人"に愛を歌う最後の"翼手")



⇒あとがき
 ライナーがお兄ちゃんに見えて仕方がないです。
 と言うかライナーみたいなお兄ちゃんが欲しいです。私が。
 取り敢えず見切り発車なただの習作なんでここいらで終わっときます。
20130701 カズイ
res

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