◆やっぱりキミが好き

 もう十年も前の話だけど、私は初めて恋をした。
 出会ったのはそれよりももっと前だったはずなんだけど、恋に落ちたのは割と遅かった。
 恋に落ちたのが遅かった所為で出遅れて、うっかり彼氏いない歴イコール年齢になってしまったのは言うまでもない。
 シスコン鬼道くんの所為で中々恋人として側に人を置けないだけであってキープくん状態の立向居くんが居る春奈ちゃんと比べちゃいけない。
 私の携帯に登録されている男は、男女の間ではありえないと言われる友情に安定性のある奴らばっかりだ。
 半田はリア充爆発しろ!とか言いながら稲妻KFCの練習の時にたまにまこちゃんの可愛さに頭抱えてるらしい。お前が爆発してしまえリア充!
 マックスはその性格から彼女が絶えた事なくて、高校時代なんて好きでもなんでもないのに嫉妬されていい迷惑だった。
 今はイタリアに居るらしい染岡は強面過ぎてマジでない。って言うか染岡の場合女の子より野郎のブロックが怖かった。
 鬼道くんや豪炎寺くんに至ってはイケメン過ぎて観賞用にしか思えないし、向こうからしたら私なんかその辺のぺんぺん草以下だ。
 どうせ私は半田並の平凡さしか持ち合わせていない……あー自分で言ってて切なくなってきた。
 とりあえず今日は久しぶりに春奈ちゃんと飲みたくなったので久しぶりの母校に足を踏み入れた訳だけど、どうやらまだ練習中だったようだ。
 幼馴染二人がプロサッカー選手であり、友人たちの多くがプロだったり監督だったり顧問だったりと活躍している中、私は一人サッカーから遠ざかっている。
 精々半田の愚痴を聞くぐらいで試合は絶対見に行かないし、サッカーが見たくなくてニュースはPCか携帯で軽く確認するくらい。テレビは殆ど見なくなった。
 家を出て一人暮らしをしているから新聞も取っていなくて、たまに電車の中の広告でその姿を見てああ頑張ってるんだなくらいにしか思っていなかった。
 中学高校とサッカー部にその人生を捧げていた私がそうなったのには訳がある。
 最初に話した出遅れた初恋の所為だ。
 私が大学生になった頃、私の初恋の相手は私の友人にプロポーズして婚約。
 ニュースでも取り沙汰されたけど、現在は夫婦になっているはずだ。結婚式には適当に理由を付けて行かなかったから知らない。
 あの鈍感大王が所帯持ちなんて正直ありえないって感じなんだけどね。
 フィールドの中を走り回る少年たちの姿に懐かしい姿を重ねながら私は人の居るベンチ側へとゆっくりと歩いた。
 カツカツと音を鳴らすヒールを今すぐ脱いで一緒に走り回りたい気がする位、彼らはサッカーに夢中になっている。
 彼と同じキャプテンマークを付けた少年は、彼と違って優しそうな雰囲気を持った可愛らしい少年だった。
 誰よりも楽しそうな少年と鋭い視線でゴールを目指す少年。彼ら二人を中心に何かの練習をしているようだった。
 全体練習でやってるなら必殺タクティクスだろうか。
 個人技が強い雷門に居たからこそ必殺タクティクスなんてFFIに関わるまで知らなかったなんて事があったのが懐かしい。
 ぱっと見る限りFFI中に一気に部員が増加した頃程人数が居ないようなので、取り敢えず差し入れにと途中のコンビニで買ってきたアイスは無事に足りそうだ。
 ほっと溜息を零しながら階段を下っていると、フィールドの外でパス練習をしている二人が此方に気づいた。
 少しひょろっとした可愛い顔立ちの少年が軽く会釈しながら「こんにちは」と私に声を掛けてきた。
 それを見て慌てた様子で恐らく一年生なのだろう少年が「こんにちは!」と元気よく挨拶をしてくれた。
「こんにちは」
 中学生らしい可愛さに思わずくすくすと笑ってしまいながら挨拶を返せば、「小春さん!?」と言う春奈ちゃんの驚き声が聞こえた。
 連絡を入れずに来てしまったから驚いたらしい。
 ちょっと驚かせたいと思って連絡を入れずに来たので私としてはしてやったりである。
 思わずにやっとなりながら声のした方を向けば、ぽかんとした顔の彼が居た。
「……小春?」
 昔よりも低くなった声が私の名を呼ぶ。
 戸惑ったような声音が私の胸を抉った。
「守?」
 なんで?どうして?
 頭の中を締めるのはその言葉だった。
 だって彼は―――円堂守は海外のプロリーグで活躍しているはずだ。
 驚き過ぎて私はアイスの入った袋をドサッと落としてしまった事にも気付かなかった。
「落としたよ、飯島さん」
 突然掛けられた声にはっと我に返った私が横を向けば、にこにこと嬉しそうな笑みが私を見下ろしていた。
「はい、どうぞ」
 そう言って渡されたコンビニ袋を一度見て、再び横を見た。
 あの頃と変わらない甘いマスクは健在であったためにすぐに気付いた。
「吹雪くん!?」
「久しぶりだね、飯島さん。元気にしてた?」
「し、してた!え?なんで吹雪くんが雷門に居るの?試合で近くに寄ったとかそう言う?」
「飯島、お前はテレビを見ていないのか?吹雪は今期試合に出ていないぞ」
 鬼道くんの突っ込みに私は慌てて口を押えた。
 如何に自分がテレビを―――と言うかサッカー関係の情報を見ていないか鬼道くんにはバレてしまったと思う。
 春奈ちゃんとはたまにしか会わないし、サッカーの話はあんまりしないから情報は伝わってなかっただろうけど、多分あっさりバレた。
 信じられない顔で眉根を顰めて分厚い眼鏡越しに睨まれてはぐうの字も出ない。
 昔から勘が良かったけど、自分の墓穴掘りっぷりも変わってない所為もきっとあるだろう。
「その様子だと俺たちが革命に動き出している事も知らないんだろうな」
「革命?何それ……取り敢えずはい、差し入れ」
「ありがたくいただこう」
 吹雪くんから受け取ったコンビニ袋を鬼道くんに渡せば、練習を切り上げて集まってきた少年たちが何だなんだとコンビニ袋に視線を向ける。
「神童、悪いが皆で分けてくれ」
「はい」
 キャプテンマークを付けた少年―――神童くんが鬼道くんからコンビニ袋を受け取ると少年たちはわらわらと神童くんの元へと集まる。
 さっきの視線の鋭い少年と、警戒心を隠そうとしない少年の二人だけはすぐにその輪の中に入って行こうとせず、後から寄ってきたマネージャーに呼ばれていた。
「おい円堂。いつまで呆けている。飯島はお前の幼馴染だろ」
「!?……あ……えっと……久しぶり、だな」
「うん、久しぶり」
 鬼道くんと吹雪くん、そして差し入れに群がる子どもたちの様子を見て少し落ち着いた私は表面上は平静を装って久しぶりに会う守に微笑みかけた。
 私とは逆に平静を装えない守は完全に動揺しっぱなしだった。
 これはちょっと失敗だったかもしれない。
 守が居る事を私に内緒にしていた春奈ちゃんに恨みがましく視線を向ければ、春奈ちゃんはすいませんと言う風に両手を合わせていた。
「僕とも久しぶりだよね」
「え?あー、高校生の時以来?吹雪くん高校在学中にプロになっちゃったし」
「高二の時の全国大会が最後かー。随分会ってなかったんだなぁ」
 懐かしむ様に話しに割って入ってくれた吹雪くんには少しほっとした。
 うっかり墓穴掘って私の初恋は戸惑いを隠せないこの鈍感大王は知っているのだ。
 だからこそこんなにあからさまに戸惑ってますな態度をしてるんだろうけど。
 何となく守ならこう言う態度取りそうってわかっちゃいたけどショックが大きすぎる。
 私はそれを誤魔化す様に出来る限り明るい声で話し続ける。
「もう完全同窓会並の顔ぶれよね。半田とマックス辺りならすぐ捕まるから呼んじゃう?……って、吹雪くんはあんまり半田知らないよね。マックスは選考会で一緒のチームだったけど」
「そうだね」
「後はもうほぼ捕まらないメンバーだからねぇ。皆何してんだか」
「あの……秋姉と小暮さんなら同じ所に住んでますけど」
 そろりと手を挙げたさっきまで誰よりもサッカーを楽しんでいた子の言葉に私は目を瞬かせた。
「小暮くん!?うわあ懐かしい名前!今秋ちゃんの所に居るんだ!春奈ちゃんなんで教えてくれないの!?」
「え?あ、いや、でも……」
 ちらりと春奈ちゃんは視線を彷徨わせ、守を見る。
 守はぎょっとした顔で春奈ちゃんと私を見比べる。
「春奈お前知って」
「ます。この事に関しては私小春さん派なんで」
 すいませんと春奈ちゃんは守にぺこりと頭を下げる。
「大体話は読めたが……春奈が飯島派と言うなら俺は飯島派で居よう」
「鬼道の裏切り者!吹雪……」
「僕は元々飯島さん派だから」
「味方なし!?」
「ないです」
「あるわけがない」
「良くわからないけど円堂くんが悪い」
 三人の容赦ない突っ込みに、守はがっくりと肩を落とした。
 その手に指輪はないけど、守は夏未ちゃんのものなんだよね……あー畜生。やっぱり守が好きだ。この気持ちが十年経っても変わらない位愛してる。
「うん。飯島さん、今すぐ飲みに行こう!」
 ぽんと肩に手を置いた吹雪くんは次に私の腰を抱いて、校門の外を指差した。
 なんだこの手馴れ具合。流石昔っから女の子にモテてるだけある!
 でもこのタイミングで飲みに誘ってくれるなんて吹雪くんは天使か!
「そうだね!共に行こうじゃないか春奈ちゃん!」
「いや、小春さん……空気読みましょう?」
「あ、ごめん部活中だったね。子どもたちの前でする話じゃなかったわ」
「そうじゃないだろっ」
「小春さんったらっ」
 溜息を零して額を押さえる鬼道くんと、目頭を押さえる春奈ちゃんに私は首を傾げた。
 どういう事?って言うか吹雪くんは何時まで私の腰を抱いてるのかな?こしょばゆいよ?



⇒あとがき
 初恋こじらせて鈍感大王が移ったらしい夢主と報われない円堂&吹雪。
 ちなみに円堂さんは夏未さんと結婚した後に夢主の思いを知って、夢主への自分の思いに気づいたけど、夏未と結婚したしあわあわってなってたらいいな!
 そして吹雪は中々夢主に気付いてもらえなくて四苦八苦すればいい。不幸なイケメン万歳!
20120303 カズイ
Title by 確かに恋だった
res

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