◆オトメンと男前

 俺の一つ上の学年はアイドル学年と呼ばれるくらいに綺麗どころが集まってる。
 その分一癖も二癖もある灰汁の強い先輩たちだ。
 そんな中でも一番性質が悪いと思っていた同じ委員会の飯島先輩はどうやら俺の事が好きだったらしい。
「富松君!」
 今までの仏頂面が嘘のようなだらしない満面の笑みを浮かべ、ぱたぱたと飯島先輩が走ってくる。
 見た目がきれいだから似合っちまうんだけど、今はそれ以上の要因があった。
「飯島先輩……女装の授業ですか?」
「そうなんです!私、綺麗ですか?」
 くるりと俺の前に立ち止まって回った飯島先輩に俺は言葉を失う。
 まあ確かに綺麗なんだけど、似合いすぎだろ!?
 声聞かなきゃ普通に女だし!!
「今まで女装の授業でここまで気合をいれたこと無かったんですけど、他の忍たまとデートするのが課題なんです!」
 きらきらと輝く瞳に俺は思わず後ずさる。
「富松君……」
 なんかいやな予感がするから聞きたくない!
 思わず両手で耳を押さえると、先輩は嬉しそうな顔で俺の両腕を掴み、そっと耳元に囁いた。
「忍術学園の外でならいいですよね?」
 耳に息を吹きかける様に告げられる言葉に背筋がぞくぞくっと震え、思わずぎゅうっと目を瞑る。
 貞操の聞きなのはわかってんだけど、なんつうか反射?そう、反射だ!!
 目を瞑っちまったから接吻でもされるかと思ったら、俺の腕を掴んでる飯島先輩の手が震えてるのに気付いて俺は恐る恐る目を開く。
「か……」
「か……?」
「可愛すぎます富松くーん!!!」
 ぐわしっ!と擬音が付きそうなほど勢いよく抱きついてきた飯島先輩に俺は桃わず悲鳴を上げる。
「ちょっ、話せ助兵衛ー!!!」
「本当今すぐ犯してしまいたいっ」
「や、やめ……誰か助けてー!!!」
 なーんて叫びながら、実は心のどっかで飯島先輩にならいいかななんて思ったり。
 何だかんだで結局飯島先輩の中で完結しちまうから手ぇ出されてないんだよな……接吻したのってあの時くらいじゃね?
「富松君?」
 黙りこんじまった俺に飯島先輩は首を傾げる。
「飯島先輩」
「はい?」
 名前を呼ばれてぱあっと華やぐような笑みを浮かべた飯島先輩に俺は溜息を吐いた。
「と、富松君?」
「作兵衛」
「え?」
「まずそこからっすよ」
「呼んで……良いんですか?」
「つーか呼べ」
 俺から動かなきゃ話にならないんだろうなぁ。
「さ、作兵衛くん」
「くんいらねぇし」
「作兵衛……くん」
「だからいらねぇって!」
「作兵衛く……作兵衛は男前すぎますね。どうしよう私また惚れ直してしまいました。ちょっと、どうしたらいいんですかこの胸の高鳴り!心臓がはちきれそうです。ああああどうしたらいいんですか本当!!」
 きゃー!と格好に似合った可愛い悲鳴を上げる飯島先輩。
 駄目だこの人。飯島先輩じゃなかったら絶対関わりあいたくなかった位乙女だ。
 ああ、俺なんか変な奴の手に堕ちちまったなぁ、本当。
「とりあえず接吻してくれたらついていきます」
「……作兵衛が男前すぎて私死にそうですっ。ああでもそれも本望……」
「よーし。俺帰ります」
「いやあああー!しますします!!っていうかさせてくださいぃぃぃぃ!!!」
 あっさり踵を返した俺の背に張り付いた飯島先輩を少し引きずり、俺は振り返りざまに飯島先輩の唇を奪ってやった。
「男になれ畜生!」
「……作兵衛くんが漢過ぎます」
 呆然としながら返された言葉に、俺はなんか吹っ切れたので思いっきり飯島先輩の頭を殴った。
 飯島先輩……恋仲の相手に遠慮なんかして恋なんて出来るか馬鹿野郎!!



⇒あとがき
 饒舌不器用の後日談?
 若干ぐだぐだですが、オトメンな夢主はリードしきれなかったので作兵衛さんがリードすることになりました。
 わあ、作ちゃん男前!!
20110313 カズイ
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