◆お星さまにお願い

※アンケート御礼。その他のコメントより派生。一いも書いて下さいとしか言われてないのにうっかり現パロ

〜六月の放課後〜

 楽しかった小学校生活の終わりと同時に新しい町へと越してきた小春の最初の友達、それが彦四郎だった。
 のんびりとした小学校の頃と違い、算数が数学に変わったり、今までなかった英語が加わったり、社会が地理・歴史・公民三つに分かれたりとで小春には友達を作る余裕などなかった。
 それでなくとも小春が所属する一組は成績上位者の多いクラスで、殆どの生徒が100点近い点数を獲得するのが当たり前だった。
 そこまで馬鹿ではないつもりだが、努力しなければ小春はその成績を維持できない。
 新しい生活に慣れるのにも必死だったこともあり、小春が気付いた時には教室の中にはある程度グループが出来ていた。
 教室でぽつんと一人きりの小春を見かねて声を掛けてくれた彦四郎は小春にとって憧れだった。

「小春って本当金平糖好きだよね」
 小さな硝子瓶に入った色取り取りの金平糖が中で揺れてしゃらしゃらと音が鳴る。
「……一平も食べる?」
「いや、食べるけどさ」
 手を差し出してきた一平の手の上に数粒乗せた小春は再度口の中に金平糖を放り込んだ。
 小さな粒を口の中で転がせば甘い砂糖の結晶がじんわりと解けていく。
 この硝子瓶は小春が引っ越すときに友達がお別れにとくれたものの一つだ。
 星のような形をした甘い金平糖が小春には似合うとくれたものだが、小春はこれがお気に入りだったし、金平糖も嫌いじゃなかった。
 貰った金平糖は疾うに無くなっていたが、今は学校の近くにあるショッピングセンターの中にある駄菓子屋で買い足している。
 最初は伝七がこの金平糖の存在に気づき、無くなることに気づいた佐吉が買い足してくれた事がきっかけで、それがなければこの瓶はきっと空のままだっただろう。
「あ、佐吉くんがゴール決めたよ」
「え?嘘、見てなかった!」
 窓の外、部活動に勤しむ佐吉を見下ろしていた小春の声に、だらだらと机に肘を付いて俯いていた一平が身を起こす。
「今から見たって見えないよ」
 くすくすと笑いながら、悔しがる団蔵と佐吉の口論する様子を見下ろす。
「あの二人本当仲良いよね」
「だよね。似た者同士……ま、僕らも似たようなものか」
 小春と同じように笑う一平は口の中に残っていた金平糖がガリガリと噛み砕く。
「私、金平糖も飴も噛み砕かないよ」
「ずっと舐めておくなんて無理だよ」
 一平はそう言うと、また机のに肘を付いて俯いた。
 放課後の教室に残っている生徒は少なく、小春は練習に戻っていく佐吉を見届けた後、一平と同じように再び目の前の日誌に視線を落とした。
「今日の出来事……なんて書こうか」
「今日は小春が渡り廊下で池田先輩見つけて追いかけようとして転びましたー」
「違うもん。転んではないもん」
 にやにやと笑って言う一平に小春は頬を膨らませた。
「そうだったね、彦四郎が助けたんだもんね。流石小春の王子様」
「なっ……ち、違……」
 頬を赤く高揚させる小春に説得力はなく、一平はくつくつと笑った。
 最初はただの憧れだった。
 それが一緒に過ごすうちに少しずつ恋心に変わっただけで、小春の片思いだ。
 それに気づいた一平がたまにこうしてからかうのだが、未だ慣れない小春はこうして何度も頬を赤く染めては一平を楽しませていた。
「でもあの時は本当可笑しかったなー」
「何が?」
「小春にはわかんない所でちょっとね」
「?」
 くすくすと笑う一平に小春は首を傾げた。

―――ガラッ

「「あ、伝七お帰り」」
 不意に開いた教室の扉の先に立っていた伝七に小春と一平は声を揃えて返した。
 その事に伝七が僅かに眉間に皺を寄せたが、小春が気付くよりも早く何時もの呆れ顔を浮かべて教室の中へと入った。
「委員会どうだった?」
「別に伝達だけだったし大した事ないさ。と言うかお前たちまだ書き終わってなかったのか?」
「ちょっと休憩してたから。あ、伝七も金平糖要る?」
「……要る」
 ガタンと椅子を引き、伝七も二人の側に座る。
 硝子瓶の蓋を開け、一平の時と同じように伝七の手のひらに金平糖を乗せた。
「小春、僕にも頂戴」
「うんいいよ」
 また一平の手のひらに数粒金平糖を乗せ、小春は一粒自分の口の中に放り込んだ。
「相変わらずちまちま食べるな」
 呆れ顔の伝七に言われ、小春は苦笑を浮かべる。
「一粒ずつゆっくりお願い事しながら食べてるの」
「ふーん」
 伝七は金平糖を一粒摘まんで口の中に放るとカリッとすぐに噛んでしまった。
 上品と言っていい食べ方に小春は唇を尖らせる。
「伝七だってちまちま食べてるじゃない」
「俺は一粒ずつ口に入れてるだけで小春みたいにちまちま口に入れてじっくり舐めてない」
「確かに」
「むう」
 一平に強く頷かれ、小春はぷくりと頬を膨らませた。
 その頬を伝七は指で突き、ふっと綺麗な顔立ちによく似合った笑みを浮かべた。
「阿呆面」
「む!」
「それでどこまで書いたんだ?」
「後は今日の出来事だけ。今日転んだ時の話書けばって言ってるんだけど、小春書きたくないんだって」
「あー……書かなくていいだろ」
「失態は伝七もだもんね」
「うるせぇ」
 くすくすと笑う一平に、伝七はバツが悪そうな顔を背けた。
 意味が分からない小春はこてっと首を傾げて二人の顔を見比べるが、二人はそれ以上言う事がなかった。
「えっと……じゃあ、佐吉くんが部活でゴールを決めてました」
「それ授業と関係ないだろ。もうちょっと授業と関係あることにしろよ」
「うーん……あ、伝七が授業中に安藤先生に褒められてました!」
 小春がにこりと笑みを作ると伝七は大きく目を見開き、ばっと顔を反らした。
「……はっそんなのいつもの事だろ」
「でもあそこまで褒められてたのは久しぶりだよ。ね、一平……一平?」
 口元を片手で多い、俯いて肩を揺らす一平に小春は首を傾げた。
「だー!笑うな一平!!」
「だ、だって……ひっ、く……っ」
「ああもう笑うならはっきり笑えよ畜生!!」
「……何してるんだよお前たち」
 呆れ顔で教室の入り口に立つ彦四郎と、庄左ヱ門の姿に小春はばっと教室の入り口を見た。
「ひ、彦四郎くんっ」
「相変わらず仲が良いね」
 呆れ顔の彦四郎の隣で庄左ヱ門がくすくすと笑う。
「当たり前だろ」
「っ」
 当たり前のように返す彦四郎の言葉に小春はきゅっと緩みそうになった口元を引き結ぶ。
「ま、3組の仲の良さに比べたら負けるけどね」
「言ってればいいさ。僕たちの方が絶対仲良いから。ね、小春ちゃん」
「う、うん!」
 いきなり話題を振られ、心臓が口から飛び出そうになりながらも小春は勢いよく返事をした。
「あ、そうだ。二人も金平糖食べる?」
「……好きだね」
「う、うん……」
「彦四郎は要らないみたいだけど僕は貰おうかな」
「誰も要らないなんて言ってないだろ!小春ちゃん、頂戴」
「は、はいどうぞ!」
「ふふ……本当仲が良いね」
 硝子瓶ごと思わず差し出すような姿勢を取れば、くつくつと庄左ヱ門が笑いながら彦四郎の肩を叩いた。
 彦四郎にいきなりどうしたと言うように視線を向けられても庄左ヱ門は特に何も言わず、ただ笑って返した。

 この時はまだ仲の良い五人の輪が崩れ始めてるなんて思いもしていなかった。
 そんな、六月のある日の放課後。



⇒あとがき
 伝七→夢主→彦四郎を見守る一平(友達)と佐吉(兄貴!)書きたかったんだけど佐吉ほとんど出てこなかった!!←
 代わりにまさかの庄左ヱ門が最後出て来ちゃいました。うっかりさん☆
 こう友情と恋心の間で揺れる女の子って可愛くないですか?
20110617 カズイ
res

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