◆可愛いよ

 今日は英語と数学を間違って準備して来ていた所為で授業で当たると言うのに予習をして来てなかった。
 藤内は予習をしっかりして来ていたみたいだけど、時間があるんだから自分で解きなよと、冷たかった。
 ……自分が彼女と喧嘩中だからってやつあたりは酷いと思うな、僕。
 と言うわけで必死に孫兵から借りた教科書を片手に問題に取り組んでいるとくるりと前の席に座っていた小春ちゃんが振り返った。
「時に数馬」
「な、何、小春ちゃん」
 幼稚園からの付き合いでもある小春ちゃんは幼い頃のガキ大将のイメージが強すぎて僕は一瞬思わず身構えてしまった。
「女の子ってキラキラ輝いている生き物だとは思わない?」
「……は?」
「いやさ、あそこの集団やけに張り切って化粧してるからさ」
 そう言ってすいっと指差したのは教卓の辺りで固まっているクラスでもちょっと派手な女の子のグループだ。
 派手と言えば派手なんだけどクラス行事とかが好きな人たちらしく、行事ではクラスを盛り上げてくれるし、授業が不真面目かと聞かれればそうじゃない。
 きゃぴきゃぴしていると言うかなんというか……うーん。元気いい人たちの集まり?
「教育実習の先生がかっこいいからじゃない?」
「あ、なーる……」
 授業でしか教室にやってこない教育実習の先生は僕たちとすれ違いで高等部を卒業していった大学部三年の立花先輩だ。
 中等部と高等部は委員会活動を合同で行うから藤内とは確か仲が良かったはずだ。
 綺麗どころが集まることで有名な風紀委員会の長を務めただけあって立花先輩はかなりの美形でファンクラブが未だに高等部に残ってる辺り伝説の人的な存在だと思う。
 僕は一応男なのでそういう事に興味はないんだけど、そこまで有名だと噂って耳に入るもんなんだよね……はあ。
「……小春ちゃんは張り切らないの?」
 思わずそう問えば小春ちゃんは目を瞬かせた。
「数馬は私が化粧するキャラだと思う?」
「ううん、全然。まったく!」
「……そこまで強く否定されるのも辛いと言うかなんと言うか……」
 小春ちゃんは最後に溜息を吐くと、机の上のノートを僕に差し出してきた。
「そのペースじゃ間に合わないわよ」
「ありがとう小春ちゃん」
「……別に」
 お礼を言うと小春ちゃんはふいっと視線を逸らした。
 長い黒髪の間から見える耳が赤く染まっているのが見えて僕は思わずくすくすと笑った。
「小春ちゃんも十分可愛いよ」
「はあ!?」
「昔に比べたら、だけど」
「やっぱノート返して」
「えー?」
「……私なんかより数馬の方が可愛いし」
 挫ける。私挫ける!と小春ちゃんは両手で顔を覆って泣きまねをする。
 うん、でも小春ちゃんの方が絶対可愛い。
 昔っから不運の僕をなんだかんだ言いながら助けてくれるし、女の子らしくないとこも結構あるけど、でもやっぱり女の子なんだなってすごく思う時がある。 
 そういう時僕は改めて思うんだ。
 小春ちゃんが好きだなあって。
「……なんでそんなに微笑ましい目で見るのさ」
 ちらりと顔を上げた小春ちゃんが恥ずかしそうにまた両手で顔を覆ってくるりとまた前を向いてしまった。
 ああ本当に可愛いなあ。
 思わずだらしなく笑ってしまいながら、僕は小春ちゃんのノートを広げた。

―――次の授業まで後五分。



⇒あとがき
 現パロに挑戦してみた。……挫けるのは私だ畜生っ。
 数馬みたいに可愛い男の子が居たらきっと常に挫折を味わう気がするのは私だけでしょうか?
20101005 カズイ
res

×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -