◆僕の好きなもの

 薄暗いじめじめした場所が好き。
 それがろ組の性だと言われてしまえばそれまでだけど、斜堂先生と出会えたからこそ味わえた心地よい感情だと思う。
 ひんやりと冷たい地面を感じながら木の根元で蹲っていると、目の前にのろのろと白く細長い物体が現れた。
 僕と同じく薄暗いじめじめした場所が好きなその生き物は、は組の山村喜三太くんが好きなナメクジさんだ。
 斜堂先生の嫌いなばっちい物に該当するそれはあまり得意ではないけれど、見かける分には問題ない僕はじっとその動きを観察していた。
 これが喜三太くんのペットなのかそれとも自然で生きるナメクジさんなのかはわからないけど、見ている分には微笑ましい。
 細長い触角がふいよふいよと動いたり、地道に這って進む姿を見ていると思わず頑張れえと声を掛けていた。
「何してるの?春哉」
「あ、怪士丸」
 僕と同じく日陰ぼっこをしに来たのであろう怪士丸の声に半身を起こすと、怪士丸がとことこと近づいてきた。
「ナメクジさんを応援してたの」
「ナメクジさん?」
 怪士丸はちらっと僕の傍を動いていたナメクジさんを視界に入れると目を一杯に見開き大きな身体を硬直させた。
 僕と平太は喜三太くんと同じ用具委員にいるから割とナメクジさんが平気だけど、怪士丸と伏木蔵はナメクジさんが苦手。
 孫次郎は生物委員で慣れてるからか僕と平太よりもナメクジさんが平気なんだって。すごいよねえ。
「なんで笑うの」
「えっとね、怪士丸が可愛いから」
「……ええ!?」
 僕の言葉が一瞬理解できなかったらしい怪士丸はようやく言葉を飲み込むと大きな声を上げて顔を真っ赤にした。
 うふふ、耳まで真っ赤ー。
「怪士丸も日陰ぼっこ?」
「う、うん」
「じゃあ一緒に日陰ぼっこしよ?」
「ナメクジがいるのに?」
「ナメクジさん可愛いよ?」
「……僕、苦手」
 引け腰の怪士丸は今にも逃げ出しそうだ。
 薄暗いじめじめした場所が好きだけど、怪士丸がナメクジさんが苦手ならしょうがない。
「しょうがない。じゃあ、あっちで日陰ぼっこしよ?」
 僕は起き上がると制服に着いた湿った土を払って怪士丸の手を引いた。
 一つ木を移動するだけだけど怪士丸は再び困ったようにへにゃりと眉根を下げた。
「え?でも……」
「なあに?怪士丸」
「春哉は……ナメクジさんと日陰ぼっこしたいんでしょう?」
「うーん……ナメクジさんは可愛いけど、触れないもん。だったら怪士丸と一緒の方が僕はいいなあ」
 そう言うと怪士丸はまた顔を赤くして僕と繋いでいる手と反対の手で顔を覆って俯いた。
 うふふ、怪士丸ったら可愛いー。
 僕は怪士丸の手を引いて場所を変えると、怪士丸と一緒に地面に蹲った。
「冷たくて気持ちいいね」
「……うん。ちょうどいいかも」
 怪士丸と繋いだままの手があったかくて僕は笑った。
「うふふ……怪士丸大好き」
「あ、う……うん……僕も……春哉が好き、だよ?」
 照れながら返してくれる怪士丸が本当に、大好きだよ。



⇒あとがき
 かわいいろ組が書きたくてやってみた。
 怪士丸は女体化サイトばっかり漁っていた所為かどうしても受受しいと言うか女々しいと言うか……うんまあ私の中の怪士丸はこうなんですよ、って話です。
20101005 カズイ
res

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