◆物好き
「結構物好きですね」
にっこりと微笑む吟遊詩人ことソラにリディアはきょとんとした顔をした。
「どーしたの?」
首を傾げ、ハテナという顔。
どこか子供っぽい動作にソラはくすくすと笑う。
少し離れた椅子に背を預けるミリアンも同様に首を傾げる。
二人ともソラが言いたいことがわからないのだ。
「なんでもないですよ」
ソラがそう言うのだから、答えは望めないだろう。
リディアは諦めて扉をじっと見つめた。
彼女は待っている。
誰をと聞かれれば答えは簡単だ。この場に居ない一名の名をあげればいい。
薬師で病弱と言われるのが大嫌いなカナギ=サンスイ。
リディアが求めてやまない人物。
……というと語弊があるかもしれない。
「リディアのあれは刷り込みだ」
きっぱりとカナギが言うほどリディアはカナギに懐いている。
懐くというのにもちろん恋愛感情は含まれていない。
刷り込みというだけあって、どちらかといえば親子に近いかもしれない。
しかも性質が悪いことにリディアの方がカナギより年上だ。
それには事情がある。
唯一の肉親であった兄を目の前で殺されたショックからリディアは心を閉ざしていた。
偶然その現場に立ち会ってしまったのがカナギだったらしい。
心を閉ざした上に記憶を失ったリディアは心を幼児化させることで自分を守った。
縁者の居ないリディアは町を追い出されカナギの後をつけた。
最初はカナギもどこかに預けて別れるつもりだったらしいが、何をしても無駄だったそうだ。
今こうしてカナギを大人しく待っていられるのはここにソラとミリアンがいるからだ。
そうでなければ今ごろ、リディアはカナギの後を追いかけているところだ。
二人といれば必ずカナギが迎えに来てくれる。リディアはそう思っている。
確かにその通りだが、もし彼が帰ってこなかったら彼女はどうするのだろう。
ソラは時折そう思う。
結局のところ、懐いたリディアも、懐かれたカナギも離れられることは出来ないだろうとは思うが。
「楽しいのか?」
ミリアンが扉をただ見てるだけのリディアにそう問い掛けた。
その言葉にソラははっと我に返った。
「たのしい!」
にっこりと邪気のない笑顔で笑う。
ソラには一生かかっても真似できないだろうとカナギは言ったことがある。
もちろんソラは失敬なと返事を返した。
「リディア、カナギ大好き」
にぃと笑う。
黙っていればどこか良家の妙齢の娘だろうに。
子供っぽい笑顔。
そのギャップが
―――イトシイ
じんわりと温かくなる。
胸。
ソラは笑みを浮かべる。
「物好きは私の方でしたか」
中身は子供とはいえ、年上に懐かれたカナギ。
その胸の内に生まれつつある父性か恋か今は判別できない想い。
その意味での物好き。
だけど本当の物好きは自分だ。
そのギャップに抱くのは、憧憬。そして恋情。
人に恋をするなんて、カナギよりよっぽど物好きだ。
カナギに懐いているリディアよりもきっと……
「「?」」
首を傾げる二人にソラは笑顔を浮かべる。
カナギ曰く胡散臭い笑顔で。
「なんでもありませんよ」
この気持ちを育ててみるのも悪くない。
飛べない鳥は一人心の中でそう思うのであった。
⇒あとがき
カナギ夢を書こうとしたのに失敗した。ていうか短い!!
前回とは違うヒロインさんで、飛べない鳥のお話☆
続きでないかなー……今度はどんなタイトルなんだろう……(ドキドキ)
20060427 カズイ
20070507 加筆修正