◆私たちのプレリュード

「きょ〜うは久しぶりにみっくみくを〜いじってやんぞ〜♪」
 適当な音を合わせつつ鼻歌混じりに私はパソコンを立ち上げる。どこか音が外れておかしな方に飛んで行ってる時もあるがそれはご愛嬌と言うことにしておく。
 今日は久しぶりののんびりとした休みの日。
 弟のおかげで興味を持った初音ミクを始めとしたボカロのソフトがすでに入っている。
 弟が買ったのは初音ミク。
 私が買ったのはKAITO。
 鏡音リン・レンとMEIKOは二人で共同出資。
 いきなりKAITOに手を出すなんてなんて無茶なと弟はさげすんだ目で私を見てきたけどそんなの気にしない気にしない。
 愛があれば越えられる絆もあんのよ!(多分)
 と、頑張っていたけれど……たまにはミクを独占してみたいわけで〜。
 はっきり言っちゃうと、弟からミクを奪ってまいりました☆
 しっかりと弟のパソコンからはミクのデータを始めとしたボカロのファイルをアンインストールと言う暴挙に出て。うふふふふ……
 って、冗談だよ。
 本当は私のHDに移してる。後でちゃーんと戻してあげる予定だ。

 今日の目標はミク・リン・レン・KAITO・MEIKOの五人で合唱曲を一曲歌わせる予定。
 上手に四部合唱に出来たら他にも色々試してみようかなーって思ってる。
「さてさて、ミクちゃぁん。始めるわよ〜♪」
 立ち上がった画面を見ながら、マウスを動かそうとした多分、その瞬間だった。
 目の前から何かが突撃してきたのだ。

―――ドスンッ!

「みぎゃぁ!」
「きゃ!」
 ……今の音は決して私の体重が重たかった所為ではない。
 そして私の悲鳴は前者だ!!
「……"きゃ"ァ?」
 首を傾げたくなりながら、私は自分の上に馬乗りに乗っているそれを見つめた。
 髪と同色の緑色の瞳がきょとんと私を見つめている。
 可憐なその少女を私はよーく知っている。
「……初音、ミク?」
「はい、マスター」
 にっこりと少女は微笑んだ。

 確かに私は腐女子で、妄想は特技です。
 でも妄想を現実に変える力なんて物は一切ないわけで……でもだったら私の身体の上でニコニコしている少女は一体何なのだろう。
 両腕を伸ばしてむぎゅっと抱きしめてみる。
「わ!?」
 女子高で抱きしめなれた女の子のふかふかした身体だ。
 まかり間違っても冷たくなどない温かい人のような少女。
「……君、不法侵入したコスプレイヤー?」
「違いますよマスター!私、ミクですよ!?」
 わたわたと暴れる少女に私は「あー」と意味もなく言葉を吐き出してみる。
 妄想とか空想とかって所詮現実には起こりえないのが前提だ。
 そうあってほしいって言う願望があるくらいでどうあっても起こり得ない。
 でも目の前の少女は自分をミクだと言った。
 信じていない私に少女は「わかりました!私、歌います」と言って勝手に歌い始めた。
「……うそ、『プレリュード』?」
 それは私が最初に作ったオリジナルの曲で、私以外には弟とミクしか知らないはっずかしー駄作であった。
「ごめん、信じる。信じるからから……勘弁してちょうだい」
「じゃあ離してくださいよ。このままじゃ私……」
 可憐に頬を染めるさまに思わず心臓がとくりと跳ねる。
 だがただ一つだけ弁解させてほしい。
 私はずーれーではございません。そりゃぁBLは大好物だけれどもね。

「マスターのこと襲っちゃいそうv」

 きゃ、言っちゃった!
 少女はほっぺたを抑えながらおかしなスイッチが入ってしまったようで腕の中でもじもじしている。
 え?空耳?
 今の空耳?
 んなこと無いよね。
 なんかこの子目が怖い。
 変なスイッチ入っちゃってるよ!!

「あ、いっけない。ようやくこうして会えたんだから自己紹介しなくちゃ。自己紹介が遅れましたマスター。あなたの愛しのボーカロイド、初音ミクです♪」
「いやいや私の愛しのボーカロイドはKAITOだからね」
 だって中の人……いやいやこの場合は元の人か?とにかく彼の『大きな古時計』聞いた瞬間運命感じたんだもの!!
 平○堅なんて目じゃないわ。
 あの声聞いたら妊娠しちゃうのよ!?いや、実際しないけどさ!!
 そんでもって何故かKAITOはアイスが付属品に決まってるじゃない!?
 可愛いじゃんよーBAKAITO。
 あ、MEIKOの酒はありよ!グッジョブ☆MEIKO!
「ダメダメダメー!マスターはミクのマスターなんです!!」
 最初っから押し倒されてる姿勢だったけど、改めて腕を固定されると言うピンチな状況に陥ってしまった。
「ちょ……早まるな、ミク!現実を見ろ、私はどこからどうみても正真正銘女だ!まかり間違っても男に性転換した覚えはないし、ミクも女の子。はい今すぐどきましょう!」
「やです。マスターに判ってもらうまで、私頑張ります」
「何をぉ!?」
 神さま、私が何かしましたか?
 なんで私は女(しかもボカロ)相手に貞操の危機を感じなくちゃいけないんだ今すぐ答えやがれこんちくしょー!!!(泣)
 そうこう心の中で嘆いている間にもミクの顔が徐々に迫り、マジDEキスする5秒前!?


「どっから侵入しやがった不法侵入のマニアックコスプレイヤーめぇぇぇ!!」
―――ドゴッ
「ふぐっ!?」



「今の声……」
 生まれて20年過ぎ。なっがい付き合いになる我が人生の中で最高に弄り甲斐のあるツッコミ男―――正しくは弟の声ではなかろうか?
 それと一緒に聞こえた撲殺音とうめき声は一体……
 隣の部屋から聞こえたその声にミクが気を取られた隙に私はミクの腕から逃れ、弟の部屋へと走った。

  *  *  *

「どうしたの!?」
 さっきまでのことは記憶の彼方へ吹き飛ばし、私は弟の部屋の扉を開けた。
 その扉の先にはこれまた衝撃な光景が広がっていたのだった。
 青い髪の青年が明らかに殴られて昏倒していたのだった。
「わお、人殺しの弟なんてお姉ちゃん嫌よ?」
「んな訳あるかぁ!」
 びしっと弟は青年を指差した。
「マニアックコスプレイヤーが突然俺の部屋に不法侵入したんだよ!」
 んま、さすが血縁者。言うことが私と一緒。
「……それってこう言う感じに?」
 とりあえずひょいっと私は廊下にいたミクの首根っこを掴んで弟に差し出した。
 会えて言うが持ち方は猫の首根を持つかのようでいて生ゴミを持っているような気分である。
「ミク!?」
「あーん、マスターひどいですよぅ」
「今更可愛い子ぶらないでよ、恐ろしい子!!」
 思わずミクから手を離し、私は腕を摩った。
「で、そっちはKAITOって訳?」
「……姉ちゃん。いくら頭が腐ってるからってKAITOや初音ミクが実在するわけないからな。こいつらコスプレイヤーなんだって!」
「頭が腐ってたって私は現実主義よ!腐女子つったって隠れ腐女子なんだから!そこは忘れないで。テストに出るわ!!」
「出てたまるかぁ!!つか意味繋がってねぇよ!」
「まぁそれはそれ。……いい?今すぐKAITOを起こしてお前の『プレリュード』を歌わせなさい。そしたら判るから。ちなみにミクは歌ってくれたわよ。あのはっずかしー私の『プレリュード』を!そしてお前も羞恥心に陥るがいい!」
「しゅーちしん♪しゅーちしん♪」
「おーっほっほっほ!」
「じゃかましい!」
 手を叩きながらそう言えば前に覚えさせた気がする羞恥心を歌うミクを気にせず、私は調子に乗って高笑いをしながら弟を蔑んでみた。
 そしたら、全力で殴られた。
 ワレは某オヤジか。
 ……とか言う私の喋り方が某バカ山賊だっちゅのw
「って……ちょっと待て。その調子でいくと」
「そうよお前の最初のはずかしー曲をKAITOに歌ってもらうのよ!」
 びしっと私は立ち直って弟を指さした。
「それって確かバラードですよね?」
 クソ寒いヤツ♪
 にっこりと天使のような笑みを浮かべてミクは言う。
 その背後には幻覚なのか現実なのか、黒い靄のような謎の物体が見える。
 ……いや、本当怖いからね、お前さん。
「あれ?気のせいかな?幻聴が聞こえた上に目からなんだかしょっぱい汁が」
「大丈夫、幻聴じゃないし、あんたの目からはしょっぱい汁が垂れ流れているわ」
 私はいい笑顔をしてぽんと弟の肩を叩いてやった。
 こうして私と弟の不幸な物語は始まる。

 ちなみに目覚めたKAITOはヘタレの大型犬タイプで、そのくせ弟狙いのもーほーでした。
 おいしいけど……なんだかなぁ……………はぁ、やるせねぇなぁ……(遠い目)



⇒あとがき
 衝動的にやらかしてみたボカロのミク&KAITO夢。GLなのかBLなのかそれともNLなのか……すべてが微妙過ぎて何と言っていいのかもわかりません。
 しかもKAITOほとんど出てきてないし。
 リアルタイムな気分ネタでTOLを混ぜたのですが、わからない人はすみません。
20080324 カズイ
20100418 加筆修正
res

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