◆マニキュア
白いシーツの海に男女が一組横たわっていた。
先に色の白い肌が中から飛び出し、ぐっと伸ばされる。
「ん……」
ベッドから先に抜け出したのは小春だった。
生まれたままの姿で、寝相によって絡まった髪を手で軽く梳きながら窓の外を見た。
朝日というには遅すぎる。
どうやら今は昼のようだ。
「卓人……はもう少し寝かしておいてあげるか」
くすっと笑いながら、彼女は静かにベッドを下りる。
ベッドの中には彼女と同じく生まれたままの姿の少年が居る。
彼は今年の春に高校を卒業したばかりの18歳である。
同年代ではない上に、彼は男子校出身。
二人が出会ったのはその男子校でだ。
卓人は生徒、小春は先生として。
きっかけは小春が通っていた美大に当時のベルリバティスクールの美術教師が来ており、たまたま彼女が小春と同じ担当講師の師事を受けていたことだった。
彼女は美術部の外部講師をしてくれる人物を探していたらしい。
現在ネイルアーティストをしている小春のセンスを買い、彼女は小春にベルリバティスクールの外部講師の誘いを掛けた。
たまには変わったことをするのもいいかなと軽い気持ちでその話を受け、小春は週三回、放課後の時間をそれに当てることにした。
教えることは難しかったが、それはとても楽しく、小春はネイルアーティストとして独立するまでそのままベルリバティースクールに通わせて貰った。
その三年間はとても楽しく、本当に充実していて、とても幸せだった。
そして今も、怖いくらいの幸せだ。
バスルームに向かって頭からシャワーを浴びる。
白い肌の上には鮮やかな花。
「卓人ったら……」
胸の上に絵を描くようなそんな配置だ。
嬉しいやら恥ずかしいやら。
小春は照れた笑いを浮かべる。
* * *
「……ん」
深く愛し合ったベッドで、目覚める。
ゆっくり目を開いて隣を見る。
だがそこには愛しい彼女の姿はない。
「小春?」
起き上がって見れば、寝室の扉が薄く開いていた。
リビングかと見当をつけ、ベッドから起き上がる。
下だけ服を着て、シャツを片手にリビングへ向かう。
「……小春?」
キャミソールに七部丈のパンツ。
そんな服装の小春が、コスメケースを広げた机の傍に座っていた。
「おはよう、卓人」
キラキラ。
笑顔。
「おはよう」
母親を見つけた子供のように、卓人の表情に笑みがさした。
「マニキュア?」
「うん」
「今日はどんな風にするの?」
「今日は花を描くわ」
「そう」
卓人は小春の正面に座り、じっとその作業を見つめる。
キラキラ。
光る指先。
輝く世界に小春は立っている。
昔から今まで、何も変わっていない卓人とは違う。
卓人に小春は少し眩しすぎる。
それでも互いを想い合う気持ちが強いから。
だから傍に居る。
「卓人が描いた花とお揃い」
きゅっと上がった唇。
キラキラ光る指先に赤い薔薇。
小春の胸に咲く花のように美しく誇らしく。
「小春、愛してる」
「私もよ、卓人」
重なる唇に幸せを感じる。
⇒あとがき
前半はすらすらかけたのにっ!!
後半がうまく紡げず……(泣)
20060709 カズイ
20070330 加筆修正