◆本能的衝動

―――ダムダム……
 木目の上にペンキで描かれた長方形の中で、バスケットボールを片手に操る男がいる。
 同じクラスの鈴鹿和馬だ。
 鈴鹿は数度そんな音を立ててボールを弾ませる。
 真っ直ぐに射抜くのは身長よりも高い位置にある壁に取り付けられたバスケットゴール。
 慣れた動きでボールを構える。
 目標を定め、軽い手首のスナップでボールを放つ。
―――トスッ
 実に軽い音を立てて、ボールはリングを潜った。
 壁なってる部分にもリングにも当たることのない実に理想的で美しいシュートだった。
「っし!」
 投げた当の本人は連続記録の自己ベスト更新にガッツポーズをしていた。

 私はそのシュートに目を奪われた。
 いや、正確にはそのシュートにではなく、シュートした彼自身に、なのだが。
 だけど私はそれを口にすることなく、心の中で留めておくことにした。
「飯島、今の見てたか?」
 機嫌よくにかっと笑う鈴鹿は、お前本当に高校生?と言いたくなるほど子どもっぽかった。
 体つきは確かに逞しいのだけど、中身は子どものまま大きくなったのね。
「ちゃんと見てたに決まってるでしょ。ほら、早く次投げて」
 私の課題が終わらないでしょ。
 と、自分の心を紛らわすようにぼやく。
 もちろんその間も手はスケッチブックに鉛筆を走らせている。

 美術部としての新しい作品の題材探しとして校内をうろついているとき、私はこの体育館の前を通った。
 たまたまドアの開いていた体育館の中に見えたのは、バスケ部の何気ない練習風景だった。
 その中で何よりも目を奪われたのが、ただのクラスメートであったはずの鈴鹿のシュート姿だったのだ。
 あの時沸き起こったこの人を描きたい!と言う強い衝動は忘れられないくらい強く胸に焼き付いて離れない。
「……ったく、可愛くねぇの」
 文句を言いながらも鈴かは素直にボールを構え、真剣な顔でリングを見上げる。
 ああ、私はコイツが好きだな……


 あの時私の中で溢れ始めた本能的衝動。
 それが恋と言う名なのは、このニブニブ少年・鈴鹿にはまだ内緒だ。



⇒あとがき
 何故珠ちゃんが怖くて攻略すらしたことのなかった鈴鹿を書いた、私w
20080228 カズイ
20080622 加筆修正
res

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