◆涙

 目の前で遺跡が崩れ行く。
 僕が経験した四度の大きな戦いの中でもっとも辛い敵の命と共に。
 最終パーティはまだ幼い炎の英雄―――ヒューゴを中心に六人。
 その中には僕とブライトは入っていたけど、今、目の前で遺跡をじっと見上げる小春は加わらなかった。
 正確に言うと、加われなかった。
 遺跡の中には炎の英雄を中心に四人の継承者が紋章を取り戻すために向かう。
 つまり、外の攻防戦の主力戦力が減る。
 それを補うべくは外に残って、彼を看取ることはなかった。
 僕、ブライト、アップルさん。この二人と一匹以外で二人が恋人だったと知っている人はここにはいない。
 ビッキーはただ二人が兄弟弟子の関係にあったと知っていただけ。
 軍の士気を乱すことはできない。
 だからアップルさんも誰にも言わなかったし、僕も言わなかった。小春本人も。
 小さく震える手をぎゅっと握り締め、小春は僕をじっと見据えた。
「殴っていいよ」
 そういうと、小春は困ったような表情に歪めた。
 小春と僕の周りに次第に人が集まる。
 ヒューゴが、クリス殿が、ゲド殿が、ササライ殿が、みんなが。
「最後に止めをさしたのは僕だ」
 ヒューゴが何か言おうとしたが、ゲド殿がどうにか止めてくれた。
 彼女はそこでようやく涙を流した。
「……馬鹿ねぇ、フッチ」
 涙を流しながら笑う姿は痛々しい。
「そんなの嘘だってわかるんだから」
「嘘じゃない」
「嘘。……わかってるんだから。レックナート様から石板の守人の任を受けたから全部わかってた。……全部わかってたのよ」
「!?」
「……早く、言えたらよかった。言ってしまえばよかった」
「なんで?レックナート様は?」
「……レックナート様に頼み込んだの。運命に介入しない代わりに、ルックの最後を見届けるって……」
 肩を揺らし、本格的に泣き出した小春の肩を抱き寄せた。
「埋まらない天間星のところを見てて、つらかった!なんで……なんで?どうしてルックなの!?」
「ごめん」
「フッチに謝られても困る!」
「止められなかったから」
「私も止められなかった!!本当は私が死ぬはずだった……私の役目だったのよ!!」
 叫び声と泣き声と、悲痛な悲鳴。
 聞き届けて、さっさと来いよ。ルック……昔みたいに何も言わず、ただ抱きしめてやれよ。
 僕じゃ支えきれないんだからな。
「私だけ救われたってうれしくないよぉ……」
 弱々しい体を抱きしめながら、気がつかないうちに、僕も涙を流していた。



⇒あとがき
 シリアス?
 シリアス??
 しりあすぅ〜?
 本当は涙の外国語単語をネタにつかいたかったけど、こうなってしまった。
 本当はサスケも出したかったけど、書き終わってから思い出した。
 本当はササライに目立ってほしかったけど、やっぱり役目なしだった。
 ちょっと後悔しながらあとがきを締めます。
20040925 カズイ
20070329 加筆修正
res

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