◆大好き宣言

※リクエスト作品

 私の好きな人は、すごーく人気がある。
 強くて、かっこよくて、その上地位も確か。
 六番隊副隊長・阿散井恋次くん。
 一応同期なんだけど、エリート組の彼と違って、私は落ちこぼれ組。
 親友だと思ってたルキアちゃんも朽木の養子に入って貴族の仲間入り。
 本当……恥ずかしくて、自分から声もかけられやしない。
「小春、茶」
 ぶすっとした顔で湯飲みを私に突き出す。
「なんで私が……」
「例え姉貴分だろうと、今のお前は俺の部下」
「ぐっ」
「わかったらさっさと茶ぁ淹れろ」
 後から入って来た冬獅郎には追い越されるし、こんなんじゃ恥ずかしくて顔も合わせられないってのが私の勝手な心境。
 ていうか、私書類届けに来ただけなんですけどー
「松本副隊長は?」
「……サボりだ」
 かなり不機嫌そうな声に納得がいった。
「はいお茶」
 淹れたてのお茶を机の上に置くと、冬獅郎はすぐには口をつけず、もくもくと書類に目を通す。
 小さいのに本当よく頑張るよ。
 桃への想いだけでここまで上り詰めたシロちゃんに拍手。
 ……おっと、シロちゃんって言ったら怒られるんだっけ?
 ま、心の声だしいいよね。
「おい」
「はい!?」
 まさか心を読まれた!?
「?……なに慌ててんだ?」
「べ、別に」
 慌てて首を横に振った。
 ばれてないならいいや。
 お仕置きは今やイコール修練だから、半殺しに合う。
 私、弱いし。冬獅郎、強いし。
「これ六番隊の隊長のとこに持って行ってくれ」
「いいけど、重要な書類じゃ……」
「松本いねぇし、別に小春ならあっちも安心だろ?」
 確かに私はある意味六番隊係りになってますよーだ。
 皆、朽木隊長カッコいいけどなんか怖いっていってるけど、話してみると案外優しい人なんだよね。
 この間お駄賃代わりに葛餅くれたし。
 そして美味しかった〜……
「ヲイ!」
「葛餅美味しかったなんて考えてないよ!?」
「………………」
「ご、ご、ごめんなさいぃぃぃぃ!!」
「はぁ……ったく……。さっさと持っていって来い」
「はいはい」
「はいは一回でいい。ちゃんと本人に渡せよ」
「分かってるよ」
 私は書類を受け取り部屋を後にすることにした。
「あー……後、戻ってくるのはのんびりでいいから」
「了解」
 慌てて付け加えられた言葉。
 なんで笑ってるんだろう、冬獅郎は。
 それにしても“のんびり”ってなんだ?
 ……………ん?
 ……もしかして……バレてる?
 私が阿散井くんのこと好きなこと。

 …………………うそーん。

「え、えーっと……十番隊のー……」
「なんか挙動不審ですよ?小春さん」
「え……えへ」
 誤魔化すように笑い、私はとりあえず中に入った。
「またお使いですか?」
 同期じゃなくて、むしろ思いっきり後輩の理吉くんは、立場的にはある意味同期だ。
 まぁ強いて言うなら私に進歩が無い?
 ……自分で言ってて悲しくなるー。
「そう。朽木隊長はいる?」
「いま少し出てるんで、待ってもらっていいですか?」
「大丈夫だよ」
 廊下を進んでいくと、声が聞こえ始めた。
 どうやら執務室の方へ阿散井くんが通っていった後らしい。
「相変わらずだね」
「恋次さんはカッコいいですから!」
 ……ここにもファン一名。
 まぁ理吉くんは男の子だから許そう。
 それに純粋な憧れだし。
 でもさ……
「今日も副隊長かっこよかったーv」
「私、茶菓子でも差し入れしようかな〜」
「あ、ずるーい」
 こういう子たちの声聞くとさ、なんかムカムカするんだよね。
 うー……嫉妬なんて、私がしていい立場じゃないよね。
 あうう、空しい。
「理吉か、入れ」
「失礼します」
 はっとして私は意識を元に戻す。
「お、小春じゃん」
「えへへ……またお使いです」
 苦笑しながら書類を片手に執務室に入った。
 もちろん出来るだけ早く。
 六番隊のお嬢さんがたの視線がちくちくといたいからね。
「理吉、茶。二人分な」
「はい」
 理吉くんはさっさと外へ飛び出してしまった。
 十番隊と違って給湯室が執務室の隣に無いんだよね、ここ。
 理吉くん頑張っ!
「今日は?」
「朽木隊長にです」
「そうか。まぁ座れよ」
 そう言われて、とりあえずソファに座る。
 うおう今日もカッコいいよ阿散井くん。
 皆も着てるはずの死覇装の胸元がまぶしいと思うのは私の目の錯覚?
 っていうか私は変態か!?
 落ち着け心臓ー!!!
「小春、どうかしたのか?」
「な、なんでもないよ!」
 私は赤くなった顔を書類で隠した。
 初めて阿散井くんに会ったとき、私は恋をした。
 見た目カッコイいところも良いけど、ぶっきらぼうな優しさが好き。
 ルキアちゃんを大事にしてるとこも好き。
 私の大親友ルキアちゃんとくっつくなら私は許せる。
 許せないのは他の女。
「阿散井副隊長〜」
 理吉くんが持ってきたお茶を飲みながら待っていたのは朽木隊長。
 決して甘ったるい声の女じゃない。
 阿散井くんに触らないで!
 ……と、思わず叫びそうになった時。
「阿散井ー!」
 障子が勢いよく開かれる。
 突然の来訪者は修兵先輩だった。
 実は私、シロちゃんが隊長になる前まで実は九番隊だったのです。
 そういえばなんで十番隊に移動になったんだっけ。私。
(答え、シスコン弟の仕業)
「お、小春じゃねぇかv」
 私は胸おっきくないです。
 だから気に入ったとか言う理由で構わないで下さい。
 阿散井くんに誤解される!!(泣)
「えっとここのとこよくわかんなくて〜」
 こっちもまだ居やがった!
「阿散井くんから離れろー!」
「え?」
「は?」
 阿散井くんと女性死神は驚いて私を見る。
「……私」
 思わず理吉くんを見る。
 私が言った。
 言うつもりのなかった醜い欲。
「し、失礼しました!」
 腰にくっついてる修兵先輩を引き剥がして、私は執務室を飛び出した。
「シロちゃーん!」
「誰がシロちゃんだ!!」
 執務室に飛び込み私は扉を閉めた。
「冬獅郎、お姉ちゃんはついにやらかしてしまったよ」
「あ?なんだ?勢い余って告白しちまったのか?」
 なんて鋭いんだ我が弟は。
 好きなことも告白しちゃったこともバレちゃうなんて。
「うわーん!どうしよー!!」
 へたりと座り込み泣き出した私の頭をぽんぽんと冬獅郎が撫でてくれた。
 だめなお姉ちゃんでごめんよ。
「で、なんて告白したんだ?」
「告白は告白でも愛の告白じゃなくて独占欲を告白してしまいました」
 思わず正座。
「は?」
 冬獅郎はただただ呆れるばかり。
 呆れ顔の冬獅郎にことの次第を説明。
 思い出しただけでむかむかと羞恥心が!
 悶える私の頭を冬獅郎が殴る。
「いったーい!」
「書類持ってかえってどうする気だ。自分の仕事くらいきっちり片付けろ」
「あ」
 言われて気づいた。
「ただいまー」
「ちょうどいい」
「はい?」
「松本、後は任せた」
「任せたって……」
 ひょいっと私はシロちゃんに首根っこを掴まれる。
 そしてずるずると引きずられる。
「行ってらっしゃーい?」
 ひらひらと松本さんに見送られ、私は再び逆戻りを果たした。
「お、いるじゃねぇか」
 ひぃ!逃げさせてぇ!!
「何か用か」
「こいつが仕事しねぇから連れてきた」
 犬猫を見せるかのように実に軽ーく、私を投げた。
「こ、こんにちは。朽木隊長」
 浮かぶのは苦笑い。
「書類を届けに来ました」
「視線を泳がすな」
 ぽかりと冬獅郎が頭をぶった。
「阿散井ならいない」
 ほっ。
「うわ、おもしろくねぇ」
「冬獅郎?」
 姉の不幸を楽しむなよ。
「兄は阿散井が好きなのか?」
「うっ」
 朽木隊長にもばれてらぁ……
「ああもう!好きです。阿散井くんが大好きです。……でも、ここだけの話ですよ?」
 朽木隊長は口が堅いとして、
「冬獅郎、も……」
 冬獅郎の後ろ。
 お茶ののった盆を手に立ち尽くす。
 理吉くんじゃなくて、
「阿散井くん……?」
「お、おう」
「今の……聞いてたりなんて……」
「わ、悪い」
 謝 ら れ た !
「阿散井」
 突然冬獅郎が殺気を放つ。
 な、何この展開。
「ご、誤解だ!聞いたことに謝ってるだけで……」
 なんだ、よかった。
 でも冬獅郎は何に怒ったの?
「朽木隊長、茶、ここに置いてきますね」
 阿散井くんは机にお茶を置いた後、私の腕を掴んで歩き出した。
「あ、阿散井くん!?」
「場所変えるぞ」
「あ、うん……??」
 首を傾げながら私は阿散井くんの後を追いかけた。
 手、大きい。
 離さないでほしいなぁ。
 ……って、自分変態ですか?
 人気のない場所。
 もしや……だから私は変態かっての。
 落ち着け!妄想が絶えない私の脳!!
「さっきのマジか?」
 キター!
「な、なんのことざましょー」
 往生際が悪いな、私。
「俺のことが好きってやつ」
 頬染めてカッコ可愛いです!
「なぁ、いつからだ?」
「い、いつって……」
 羞恥プレイ?羞恥プレイなんですか!?
 今なら私恥ずかしさだけで死ねると思う。
 ……とか誤魔化してる場合じゃない。
 阿散井くんはまっすぐに私を見ていて、私が言うまで待っている。
「……言わなきゃダメ?」
 頷かれたー!
 しかも即決!?
「……〜っ!」
「一回生の時。鬼道の授業を偶然見た時から」
 桃のクラスだって目で追った時、桃の近くで笑ってた阿散井くんに一目惚れ。
 桃から話を聞いて、どんどん好きになった。
 だけど私はおちこぼれ。あなたはエリート。
 釣り合わないって諦めた。
 偶然廊下でぶつかって、手を差し伸べてくれた。
 ぶっきらぼうな優しさが、それだけで私を幸せにしてくれた。
 親友のルキアの幼なじみだったと知って、見てるだけがほんの少し話せる関係に変わった。
 阿散井くんがルキアのこと好きだって知ってる。
 だけど、私には今の状態を保とうって言うだけで精一杯。
 それも今日で終わり。
 気持ちばれちゃったし、こうなったらちゃんと返事を聞いてしまおう。
 これからも同じ死神として立てるように。
「ぶっきらぼうなとこも優しいところも好き。かっこよくて強いところも好き」
 ルキアを大事にしてるところも好き。
「全部ひっくるめて、阿散井恋次と言う人が大好きです」
 決死の告白。
 後、ゆっくり深呼吸。
 どんな顔してるのか怖かったけど、私は阿散井くんを見た。
「え?」
 大きな手で隠された顔は、赤くなった部分を隠しきれていなかった。
「阿散井くん?」
「やべぇ、嬉しい」
 嬉しい?
「……ええぇぇぇ!?」 頭が理解するのに時間が掛かったけど、嬉しいって……嬉しい!?
「そそそそれって……」
「好きだったみてぇだ。日番谷のこと」
「嘘……」
「嘘じゃねぇよ」
 阿散井くんは私の体を引っ張って、腕の中に閉じ込めた。
 ぎゃーす!
 恥ずかしくて死んじゃうぅ!
 心臓バクバクですって!
 ほら!
「?」
 耳に聞こえるのは私じゃなくて、阿散井くんの心臓の音。
 阿散井くんも私と同じ?
「好きだ……小春」
 私は嬉しくて、ぎゅうっと阿散井くんの体を抱きしめた。
「私も大好き!」



⇒あとがき
 完成までに時間が掛かってしまいましたが、如何でしょうか満央さま。
 気にいって頂ければ幸いです。
 満央さまのみお持ち帰り可。
20060405 カズイ
res

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