056.まずはアキュートへ

 薬を飲んだ事でソルもラミも、ラミの側にずっと付いていてメスクルの眠りが移ってしまったらしいアルバとフィズも容体が落ち着いた。
 看病で神経をすり減らして疲れ切ってしまったリプレを寝かせて夕食を食べた後、リョウはこっそりフラットを抜け出そうとした。
「何処に行くんだ?」
 ふと掛けられたレイドの声にリョウはぎくりと肩を揺らした。
「えっと……」
 リョウが振り返ると、レイドだけでなくエドスも一緒に立っていた。
 他には誰も居ないようだが、リョウは理由を口にして良い物か迷い、口を閉ざした。
「怒る気はないさ。お前さんのやりたいようにしてもいい。だが、何も言わんで出て行かんでもいいだろう」
「……オプテュスと、アキュートの所に」
「オプテュスはカノンがいるからわかるが、アキュートは駄目だ」
 レイドの言葉にリョウは目を見開いた。
 言外に心配していると言った雰囲気に、気まずさからリョウは視線を落とした。
「レイド、そこまで断言せんでも」
「危ないだろう。一人で行かせるのも反対なのに、ましてやアキュートなんてラムダが……」
「ラムダに会いに行くわけじゃない。ラムダと一緒に居た女の人に用事があるんだ」
「セシルに?」
「その人がメスクルの眠りにかかってないか確かめてくるだけだから」
 必死の表情のリョウにレイドは腕を組んで考える。
「……出来る事なら行かないでほしいが、どうして名前も知らなかった彼女の所へ?」
「あの人は……母さんに、似てるんだ。……女々しい理由で格好悪いんだけど」
 リョウは苦笑しながら頬を掻いた。
「俺を産んでくれた母さんは、俺にこの世界の記憶をくれてすぐに死んじゃったけど、俺は確かに母さんの事を覚えてる。……外見が凄く似てるから重ねちゃって、悪いとは思ってるんだけど、さ」
「そう言う理由があるなら止めないよ。但し、どんなに遅くても明日の朝食までには帰ってくる事。これが条件だ」
「わかってる」
「いってらっしゃい」
 レイドとエドスに見送られ、リョウはフラットに再び背を向けた。
 シオンから余分にと貰った薬がポケットの中で揺れる。
 アキュートのアジトはローカスから以前聞いたことがあったので場所は知っていた。
 北スラムに行くよりも近いので先にアキュートのアジトである告発の剣の方に向かう事にした。
「よぉ、坊主。こんな時間に出かけるのはちょっと早いんじゃねぇか?」
 告発の剣の近くまで来たところで不意に声を掛けられ、リョウは足を止めた。
 声の主を確認すれば剃りあげた頭の盗賊風の男。
「お前はアキュートの……って、そう言えば名前知らない」
「おいおい。……スタウトだよ。お前さんは?」
「リョウ。……あんた、酒臭いよ」
「そう言う時間なんだよ」
 にやりと笑うスタウトの顔はほんのり赤く染まっており、酔っ払っている事がわかる。
「で?リョウはどうしてこんな所に来てるんだ?ガキの来る時間じゃねぇぞ」
「わかってるよ。あのさ、あんたの仲間、全員元気?メスクルの眠りに掛かってない?」
「別に?全員ピンピンしてるが?」
 リョウの問いに困惑している様だが、その言葉に裏は無いようでリョウはほっと胸を撫で下ろした。
「ならよかった」
「用事はそれだけなのか?」
「悪いか?」
「いや。お前、妙なヤツだな」
「……まあ、完全な人間じゃないし。当然だろ」
「は?」
 わからないと言った様子のスタウトを見て、リョウはくつりと笑った。
 だがスタウトの後ろにある告発の剣からラムダが姿を現し、リョウはレイドの事を思い出してその笑みを消した。
「じゃあな」
 そう言ってスタウトに背を向けるとリョウは直に北スラムの方へと走り出した。

「……あいつ、フラットのヤツだよな」
「ああ」
 スタウトの側に歩み寄ったラムダも不思議そうにリョウが去って行った方を見つめた。
「あっちは北スラムだよな」
 本当に変な奴だとスタウトは首を傾げた。
「でもなんで突然元気かとかメスクルの眠りに掛かってないかとか聞きに来たんだ?」
「それは確かに気になるな」
「後……」
「後?」
「いや、なんでもねぇよ」
 スタウトは後ろ頭を掻き、妙に引っかかったリョウの言葉の真意を上手く伝えられる気がせず目を伏せた。



⇒あとがき
 スタウト微妙です。酒飲んでないときは好きです。
 あ、セシルは激ラブです。公式で人目お姿を拝見したときから美人だなぁっと……(関係ねぇ(汗))
20040612 カズイ
20130518 加筆修正
res

×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -