055.騎士団瞬殺(哀)

「アカネ!」
「リョウ、どうかしたの?」
 店の前で掃き掃除をしていたアカネを見つけると、リョウは声を掛けた。
「どうかしたの?そんなに慌てて」
「ラミとソルが倒れたんだ。シオン居る?」
「大変だね。師匠なら中に居るよ」
 まさか二人がメスクルの眠りで倒れたとは思っていない様子のアカネに促されて中に入るとシオンが不思議そうにリョウを見た。
「どうかしましたか?」
「昼に話してたメスクルの眠りの薬ってある?」
「残念ですが、うちにはおいてませんよ」
「作る事は出来ない?」
「材料があれば。ちょうどアカネに取りに行かせようか考えていた所なんで」
「本当なのか!?」
「落ち着けトウヤ」
 暴走一直線状態のトウヤを宥め、リョウは再びシオンに顔を向けた。
「出来たら分けて欲しいんだ。ラミとソルが倒れて……」
「いいですよ。リョウにはアカネがお世話になりましたからね。……ただ、アカネと一緒に行って貰えますか?少し心配なもので」
「当然だよ」
 自分の意見は無視なのだろうかと、会話の流れを見ていたアカネは溜息を零しながら肩を落とした。
 エドスを伝言のためにフラットへ帰らせ、リョウ、トウヤ、キール、ナツミ、ガゼル、レイドとアカネの7人はスピネル高原までの道を急いだ。
 途中、アカネがうっかりくノ一だと明かしてしまい、ナツミは驚いたが、トウヤはそれほど驚きはしなかった。
 服装からそんな感じだと判断していたのか、それともソルの事しか頭にないのか、当の本人にしかわからない。
「何、あの人たち?」
 アカネの声に前方を見ると、どこかで見た事のある人物たちが居た。
「騎士団?」
 暴動の時に見たその騎士の名はイリアス。少女の方はサイサリスと言うらしい。
 イリアスは騎士団の団長で、レイドがそのイリアスと交渉を付けてくれた。

 "騎士団を全員倒せば、薬の原料を採っても良い"

 それは簡単に聞こえるようでとても難しい条件である。
 レイド一人に対して20人程度は居るだろうか。
「僕がやるよ」
 笑っているが、目が全く笑っておらず、人には見えない黒い靄の様な物を滲ませるトウヤが名乗り出た。
「トウヤ……いや、しかし」
「大丈夫。サクサク殺るから」
 笑みと共にその黒い靄の様な物を一層濃くさせたトウヤに、ナツミがこそこそと呟く。
「変換が間違ってると思うのはあたしだけかな」
「突っ込まない方が身のためだと思うぜ、ナツミ」
 ガゼルが同意しながらナツミと共にリョウとキールの後ろへと隠れた。
 キールはクラレットで慣れているのかまだ二人よりも無事なようだ。
 トウヤの怒りを吸い取りながら苦笑を浮かべて肩を竦めるリョウはもちろん論外だ。
「だったら頼む」
 レイドが言うが早いか、トウヤは剣を引き抜くのではなくポケットからサモナイト石を取り出した。
「来い、ヴァルハラ」
 騎士団の召喚師と思われる人物が何やら口をパクパクとさせ、キールも目を見開いてそれを見上げる。
 まだトウヤ位のレベルなら呼ぶ事も出来ないだろうと思われていた機界の召喚獣。
「破滅の引き金」
 ソルが教えたのだろうかはわからないが、トウヤはその一言で騎士団を一気に叩き潰した。
「さあ!さっさと採取しようか」
 ストレス発散の意味合いもあっただろうか、先ほどよりも気が紛れたらしいトウヤは呆れかえっているアカネを引っ張って行った。
 流石に開いた口が塞がらないと言った様子で、ガゼルもその光景を見つめている。
 レイドはレイドでここまでやるとは思って居なかった様で頭を抱えていた。
「……回復、しておいた方が良いよな」
「その方が、彼らのためだろう」
 ハヤトとキールは低レベルの召喚獣で、最低限だけ騎士団の回復をして行く。
 それを横目に、リョウはサイサリスとイリアスの方へと歩を進めた。
「悪い、トウヤの機嫌悪いんだ」
「みたいだな」
 二人の様に一々召喚獣を呼ぶのも煩わしく、リョウはイリアスの傷口に両手を近づけた。
「!?」
「ストラか」
「まぁそんな所。完全にストラだとは言い切れないからストラもどき?」
 ストラを習っているのだが、気功と言うよりもサプレス本来の力で回復力を促す様に力を変えた方が簡単に習得出来てしまったのだ。
 その為ストラと言うよりも、リプシーやプラーマの回復の様な物だと言った方が本当は良いのかもしれない。
「そうか」
「よし、オッケイ。そろそろトウヤとアカネも戻ってくるだろうし」
「すまなかった」
「気にしなくていいよ。騎士は嫌いじゃないんだ」
「?」
「騎士道って好きなんだ。まあ、頭が固すぎるのが難点みたいだけどさ」
 くつりと笑ったリョウにイリアスは小さく苦笑を浮かべた。



⇒あとがき
 愛ゆえ愛に、最強です(?)
 イリアスとサイサリスは仲間になる前に、もう一度コンタクトを取ります。
 ので、出番あり!
20040612 カズイ
20130518 加筆修正
res

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