054.……鈍い(汗)

 驚くキールにドアを開けさせて部屋の中へと入った。
 トウヤはハヤトたちと一緒に薪を拾うついでにスウォンに会いに行っているらしく、今フラットにいるのはリプレ、エドス、キール、ソル、モナティ、ガウム、ローカスの7人だけだったようだ。
 ベッドの上にソルの身体を横たえさせ、その上に布団を掛けた。
「風邪……か」
 リョウがぽつりと呟くと、キールはその隣で首を傾げた。
「どうかしたのか?」
「いや、何か忘れている気がして」
 リョウは腕を組み、首を傾げながら思い出そうとするが、すぐには思い出せず一先ずリプレに報告することにして部屋を出た。
 案の定、エドスとリプレも驚いたようだったが、病人が二人に増えただけで特に問題はなさそうでまた部屋へと戻った。
 熱は高いがあまり魘されていないようで取り敢えず絞った手拭きで汗を拭っていく。
「で、どうだった?」
「何が?」
「鈴をくれた人の事だよ」
「ああ。蕎麦を食べさせてもらった。久しぶりの和食って感じだったな」
「わしょく?そば?」
「和食は料理の種類。ご飯が主食で汁物、副菜と一緒に食べるんだ。こっちの料理は洋食って言われてるよ」
「へぇ」
「蕎麦は蕎麦粉って言うのから作られてる麺料理。汁に付けて食べるんだけど、食べたらわかるよ」
「なんか不思議そうな食べ物だな」
「おいしいんだよ。特にシオンのは向こうで食べたどの蕎麦より美味しかった。今度分けてくれるらしいから一緒に食べような」
「ああ」
 キールは子どもっぽくにこにこと楽しそうな表情で笑うリョウのお陰で落ち着いていく感情に気づいた。
 そして同時にシオンと同じ様な事を考えていたのだが、それを口にすることは無かった。

  *  *  *

「ソルも風邪引いた?」
 帰ってきたトウヤたちはきょとんと珍しい事を聞いたと言う様な顔をした。
 リョウもキールも苦笑するしかなく、その様子に思わず顔を見合わせた。
「リョウが帰ってきてすぐに倒れて、今は部屋で寝てるよ」
「ちょっと見てくる」
 話を聞く時間が勿体無いと言わんばかりにトウヤは廊下を走って行き、階段を慌てて駆け上る音が尾を引く様に残されていった。
「……愛ですね」
「そうですねぇ」
 ぽつりと呟いたアヤの言葉にクラレットがのんびりと同意を口にした。
「え?そうだったの?」
「カシス気づいてなかったんだ」
 結構あからさまだったよ?とナツミは続けた。
「まぁそんな感じはしてたけどな」
 ハヤトが頭の後ろで手を組みながら呆れたような声音で返すと、キールは苦笑しながら心配そうにトウヤの部屋の方に視線を向けた。
 ただ一人、理由も何の話をしているのかも分かっていないリョウは首を傾げた。
「何の話?」
「……リョウ、鈍いって言われません?」
「全然」
 リョウの答えにタイミングを合わせたようにリョウ以外の全員が同時に溜息を吐いた。
「まあまだ13歳なんだから仕方ないのかな」
「風林寺さんもそう言う噂、聞きませんでしたからね」
 苦笑するナツミとアヤにリョウは再び首を傾げた。

「うそっソルも!?」

 広間に入ろうとしたリョウたちにまでしっかり届く声が二階から聞こえた。
 何事かとエドスとローカスとモナティとガウムも広間から顔を出す。
 全員が声の元まで慌てて向かえば、力なく座り込んだリプレとどうすればいいのか分からないと言った表情で立ち尽くすトウヤが居た。
「何があったんだ?」
「……熱が引いてるのに目を覚まさないんだ。ラミも、ソルも」
 トウヤの言葉にローカスは黙り込み、腕を組んだ。
「それは不味いな」
「何が不味いんだ?」
「メスクルの眠りの症状だ」
「なに、それ……」
「死の眠りとも呼ばれる伝染病だよ。この街でもう何十人も死んでるらしい」
「……嘘でしょ?あの子が、どうしてそんな病気にかからなくちゃいけないの!?」
 呆然と呟いたリプレの声が荒ぶり、その背に慌ててモナティとガウムが走り寄り背を撫でる。
「リプレ……」
「治す方法はないのか!?」
「薬は城の召喚師たちに買い占められたって言ってた。あの時もう少し詳しく症状を聞いておけばよかった」
 リョウは舌打ちをし、話を思い出した。
「……そうだ!」
「リョウ?」
 縋る様なトウヤの視線にリョウはシオンを思い出していた。
「シオンなら何か知っているかもしれない」
「シオンって鈴をくれた人だろう?」
「俺、その人にメスクルの眠りの事を聞いたんだよ。それに、あかなべは薬屋だ!買い占められていても製造方法は分かるはずだろ!?」
「頼みの綱はそこだけってことか……。リョウ、教えてくれ」
「ああ」
 トウヤの言葉にリョウは強く頷いた。



⇒あとがき
 シオンさんとのお蕎麦ネタは2への複線のつもりでしたが、ここでも利用。
 1の相手役の一人としてもシオンさんにはもう少し出張ってほしいんですけど、うぅん……動かしづらい。
20040612 カズイ
20130518 加筆修正
res

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