053.シオンのお蕎麦食べてみた〜い

 子どもたちと遊びつくして疲れた身体を引きずって、リョウは昼食に誘ってくれたシオンの元を訪れていた。
 シルターン風の家にシルターン風の食事。
 思わず梁山泊に居た頃を思い出し、リョウはほうと小さく溜息を漏らした。
「気に入ってもらえたようでよかったです」
 シオンが打ったと言う蕎麦を飲み下し、リョウは久しぶりに口にする和の味に気が緩んだ笑みを浮かべた。
「こんなにうまい蕎麦は初めてだよ。蕎麦屋でもいけそうだよな」
「光栄ですよ」
 にこりと笑みを返しながらシオンも同じ様に蕎麦を啜った。
 ちなみにシオンの弟子であるアカネはシオンに代わって店番をしているそうだ。
「そう言う笑みを見ると年相応にちゃんと見えますね」
「なんかそれ俺が年齢詐欺でもしてるみたいに聞こえるんだけど」
 ぷくりと頬を膨らませる様は子どものもので、シオンはますます笑みを深くしたのだった。
「違いますよ。13歳と言う子どもらしい面もちゃんとあるんですねと思っただけです」
「なんだよそれ」
「いつも冷静でいようと気を張る。それで年相応に見えないんですよ。ローカスさんも驚いていたようですし」
 そんなこともあったっけと当の本人は薄い認識しか持ち合わせてなかった。
 再び蕎麦を啜り、咀嚼しながら首を傾げる。
「……驚く程の事か?」
「私も聞いた時は流石に驚きましたよ。幾ら下に見てもアカネ位かと思っていましたからね」
「ふぅん……まぁ、成長期だから勘違いしても仕方ないかな」
「成長期?」
「らしいよ。前に倒れた時に知り合いだって言う人がそう言ってた」
「倒れたんですか!?いえ、もう起きていると言う事はメスクルの眠りとは関係ないんですね」
「……メスクルの眠り?」
 ほっと息を吐いたシオンにリョウは首を傾げた。
「ええ。死の眠りとも呼ばれる伝染病です。薬を城の召喚師が買い占めている所為で街ではすでに何十人も亡くなっているそうです」
「俺のはそれと関係ないよ。……ん〜……昔、ロレイラルにも人が居たって事は知ってる?」
「ええ。機械の文明が進み、今は人が住めないそうですが」
「実はその人間がこっちで生きてたんだ。……もう世界には三人くらいしかいないらしいんだけどさ。その一人が俺」
「こちらに召されて生きながらえていたと言う事ですか?」
「一人はそうだ。もう一人は冷凍凍結していた所をこちらに召喚されてきた。俺の母さんもそれだったから俺は中間、かな?……ロレイラルの人間は他の世界の住人達みたいに丈夫じゃない。だから倒れたんだ」
「そうだったんdねすか」
「あ、これ皆には内緒な?まだ心配かけたくないからさ」
 シオンが口外するようには思えなかったが、念のために口止めする事を忘れずに、リョウは両手を合わせて空になった膳にぺこりと頭を下げた。

  *    *    *

 フラットの前まで戻って来た所で、リョウは首を傾げた。
 出かける前と違い、フラットの中の雰囲気が妙に沈んでいるのを感じたからだ。
(バノッサ……じゃないな。どうしたんだろう)
 眉根を寄せ、敷地内へと入るといつものように何事もなく扉を開いた。
「あ、リョウ……」
 扉の先にはどうしていいのかわからないと顔に書いてあるようなソルが立っていた。
「ただいま。……なにかあった?」
「ラミが熱出して……」
「熱?……風邪?」
「あ、ああ。……さっき眠った所で……」
 何も出来ないと言う自責の念がソルを中心に渦巻いていた。
 その人には見えないだろう黒い影をリョウは吸い取る事が出来ず、ソルの身体を侵食していくように中心へ向かっていく。
「ソル!」
 普通はそうならないと知っているリョウはそれを引き留めるように一喝したが効果は無かった。
「なんだよ、突然」
「えっと……ソルも休んだ方がいいんじゃないか?」
「平気だよ。俺、自慢じゃないけど、風邪引いたことないし」
「そうじゃなくて……」
 リョウはソルの腕を掴み、はっと目を見張った。
 いつもなら少しひんやりとしているソルの腕が奇妙な事に熱かったのだ。
 余っている左手でソルの額に手を伸ばしその温度を確認すれば、異常な程熱かった。
「ソル、熱あるじゃん!」
「そうか?」
 熱があると言われた所為か、それともただ熱の所為かは分からないが、ソルの身体がふらりと少しよろめくのを見て、リョウはソルの膝裏に手を差し入れるとソルの身体を軽々と持ち上げた。
「うわっ、やめろよ。トウヤじゃあるまいし」
「トウヤ?なんでトウヤが出てくるんだ?」
「うっ」
「……ま、いいや。熱あるんだから運ぶんだよ。少し大人しくしてろよ」
 更に赤みを増した顔で詰まったような返事をしたソルに首を傾げながらもリョウは廊下を出来るだけ早足で歩き、階段を上った。
「あれ?リョウとソル?」
 部屋を出てきたらしいキールが首を傾げてリョウたちを見やる。
「キール。ソルも風邪」
「ええ!?」
 静まった建物の中にキールの驚き声が良く響いた。



⇒あとがき
 やだ、奥さん聞きまして?
 召喚師のソルさん、同じフラットに住んでるトウヤさんにお姫様抱っこされてるんですって!
 なーんて、近所のおばさん風に語ってみたり(笑)
20040611 カズイ
20130517 加筆修正
res

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