050.約束

「おはよー」
 まだ眠いと言う表情のまま広間へと入ったリョウに全くと言った風の視線が集まる。
 広間ではリョウを除いた全員が既に揃っており、食事の準備ももう少しと言ったところだった。
「よかった。ちょうど起こしに行こうと思ってたんだ」
 リプレの言葉にリョウは欠伸を噛みしめた。
「まだ眠いの?」
 呆れたように言いながら近づいてきたフィズの頭に手を伸ばしその頭を撫でてやった。
「サーカスは楽しかったか?」
「うん!」
「空中ブランコがすごかったんだ!こーんな高いところから宙返りしちゃってさ!」
 今度は身体全体を使って一生懸命伝えようとするアルバの頭を頭を撫でてやる。
「あたしは断然手品のほうがすごいと思うわ。箱の中から一瞬で消えちゃったのよ?」
 それに張り合う様に語るフィズもそうだが、子どもたちはサーカスを十分楽しめたようだ。
「ふーん。サーカスってそんなところなんだ」
「え?」
「……行ったことないのか?」
「行ったことはあるよ。でもサーカス自体は見たことない」
「何しにいったんだよ」
「脱走した虎を捕まえに」
 控えめに自分の頭を差し出してきたラミの頭を最後に撫で、リョウは自分の席に座った。
「まだ眠いの?」
「眠い」
 欠伸を噛み殺しながら、リョウは視線を巡らせる。
「楽しんできたはずの割に浮いた感じじゃないけど……なにかあった?」
「サーカスにメイトルパの子がいたんだ」
「メイトルパ?」
 そう言えばハヤトや子どもたちから僅かに懐かしい匂いがするとリョウは目を細めた。
「モナティって名前で、ガウムって猫みたいなのと玉乗りしてたよ」
「へぇ……芸をするって事はレビットかな?」
「さぁ、あんまり詳しくないし」
「そう言えば、言ってなかったですね」
「キールは?」
「僕もメイトルパにはあまり詳しくないから」
 ナツミに話を振られたキールは苦笑を浮かべて首を横に振った。
「まぁ、近くまでいけば大体匂いでわかる」
「は?」
「そう言えば、前世はフバースだっけ。でも前世なのにわかるの?」
「わかるよ。魂が覚えてるから」
「へぇ……」
「まあ、そのモナティとガウムもサーカスに居る間は大丈夫だろ」
「どう言う事?」
「この街の召喚師は金の派閥に所属してる。イムランならいいけど、マーン三兄弟にはそう言うのが好きそうな奴が居るじゃないか」
「カムランの事か?」
「まぁ、何もないといいけどね」
 両手を合わせて食事に頭を下げたリョウに周りも慌てて昼食に意識を向けた。
「リョウって、マーン三兄弟の事詳しかったっけ?」
「……賞金稼ぎの時か」
 首を傾げるハヤトと違い、一人納得した様子のローカスがパンに噛り付く。
「そ」
「どういうこと?」
「城に賞金首を持って行ったときに色々と情報交換する場所があるんだよ。だから自然と詳しくなる」
「ああ、そう言う事か」
 どうにか納得したのを見て、会話が途切れた。
「なあ」
「ん?」
「リョウも明日一緒に行かないか?」
「どこに」
「モナティに会いに」
「……別にいいよ。メイトルパの話も聞きたいし」
「兄ちゃんたちだけずる〜い!」
「そうよそうよ」
 ハヤトとリョウの会話にアルバとフィズが抗議する。
「……ラミとあそぼ?」
 それにラミも加わるが、リョウは首を横に振った。
「明日はハヤトたちと約束したからまた今度な」
「俺とも!」
「私とも!」
「わかってるよ。賞金稼ぎはローカスがやってくれるだろうし」
「俺がかよ!」
「暇だろ」
「子どもは子ども同士遊んで居るのが一番だからね」
 うんうんと頷くガゼルやエドスにローカスは眉根を顰めた。
「リョウもハヤトたちと変わらねぇだろうが!」
 至極真っ当な発言をしたローカスではあったが、ローカスが未だ事情を知らぬことに気づいた他の面々が一瞬の間の後笑い出したのは言うまでもない事である。



⇒あとがき
 気づかないローカス。
 あぁ、こういうシーン大好き。
20040602 カズイ
20120425 加筆修正
res

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