047.アキュート

 悲鳴と歓声。そして同時に響く金属音。それをどこか遠くに聞きながら走った。
 ガゼルを先頭に地の理を知るレイド、エドスが追走し、その後を追いかけるようにリョウたちも続いた。
 工場区の狭い路地を右へ左へと駆け抜けるガゼルの足取りに迷いはない。
「へへっ、思った通り。連中はここらの抜け道には詳しくなかったな」
 得意そうなガゼルの言葉通り、ここに至るまでリョウたちは兵士にも召喚師にも反乱分子にも会う事は無かった。
 だが直後、爆音が響いた。
「召喚術だな。……イムランではないみたいだけど、騎士団に合流したかもしれない」
「時間はなさそうだな」
 リョウとエドスの言葉が皆の足を急がせた。
 しばらくして工場の奥まった場所に居るラムダたちを見つけた。
 側には市民広場で出会った男と、頭を剃り上げているらしい盗賊風の男が居る。
 そしてもう一人、金髪のメンバー唯一の女性が居た。
 その女性の姿を視界に入れたリョウは僅かに目を瞬かせ、それと覚られない程度にその女性の姿を確認した。
「ラムダ先輩!私です、レイドです!」
「レイドか……」
 レイドの呼び掛けに、ラムダはゆっくりと首を巡らせた。
 その表情がどこか楽しげに見えたことにレイドは気付いていないようだ。
「イムランたちが騎士団に合流しました。もう、これ以上の抵抗は無理です!!」
「分かっている」
 ラムダは事もなげに答えた。
「この暴動が失敗するのは、最初から予定通りだってことさ」
 盗賊風の男が腰の剣を軽く揺らした。
 この状況を楽しんでいるようにも見える余裕の笑みを交えた言葉に皆驚いた。
「人々を苦しめているのは領主の悪政です。では領主をそうさせているのは誰でしょう?」
 広場で会った男が丁寧な口調で問いかけてきた。
 温厚そうな人物だが、大柄な体と右手の槍が恐ろしげに映るのは気のせいだろうか。
「そんなもん、召喚師の連中だろうが!?」
 ガゼルが突っかかるように答えた。
「いいえ。本当に悪いのは、彼らの好き勝手を許してしまっている、この街の人々です」
 男は残念そうに首を振った。
「私たちはもう、何度もこうして人々を率いて領主達と戦ってきた。でもね、それだけじゃ駄目なのよ」
 女は悔しそうに言う。
「この街の連中はみんな、戦うことを諦めちまってんのさ。自分に火の粉がかからないんなら、他人はどうなっても平気ってな」
 盗賊風の男が、小ばかにしたような笑みを浮かべた。
「この街の人々が団結して戦わない限り、何も変わりはしないのよ」
「ちょっと待てよ!?だったら、どうして暴動なんか起こすんだよ!」
 掴み掛からんばかりの勢いでジンガが訊ねる。
「ひとつひとつの火の粉も集まれば、大きな炎を起こします」
「暴動を繰り返すことで、人々の危機感を煽るつもりか……」
 男が諭す様に返した答えにキールが忌々しげに呟く。
「じゃあ、この暴動に参加している奴らはどうなるんだよ!?」
「戦うことを決めたのは連中だからな。死ぬも生きるも、本人の運と実力ってこった」
 ガゼルが睨みつけるのを、盗賊風の男は飄々と受け流した。
「見殺しにする気か!?」
「必要ならば、な」
 冷酷に、ラムダがレイドの言葉を肯定した。
「ラムダ……どうして……。騎士は、弱き人々の楯となるものだと……。そう教えてくれたのは、あなたじゃないかっ!?」
 レイドの声が少しずつ大きくなる。
「俺はもう騎士ではない。お前もだ、レイド」
 静かにラムダがレイドに語りかけるように答えた。
 二人とも騎士を辞めたのだからラムダの言い分は間違いないだろう。
 だが騎士であったのならば騎士を辞めたからと言って騎士の心を捨てられるものなのだろうか。
 それは何か違うような気がした。
「なぜ、騎士を捨てた?人々の楯であることをやめたお前が、騎士を語るというのか!?」
 先ほどよりも大きな爆発音が辺りに響き、地面までも震えたような気がした。
「表の守りが突破されたようね……」
「ええ、潮時のようです」
「待ちやがれっ!」
 立ち去ろうとするラムダたちにガゼルが鞘から短剣を抜いたが、それをリュウは押しとどめさせた。
「止て置いた方が良い。敵わない」
「な」
「お前たちの言うことは、正しいかもしれない!でも、こんなの……こんなのって間違ってる!!」
 ハヤトの叫びを受け入れるラムダをリョウは静かに睨んだ。
「ならば、止めて見せろ。俺が見捨てようとしている者たちを、お前は救えるのか?犠牲なしで全てを変えられるというならば、それを証明して見せろ!!それが本当にできるかどうかを……」
 それだけ言うと、ラムダたちは引き上げていった。
「助けてやるさ、人が傷つけられるのを黙ってみてるのなんて嫌だ!」
 ハヤトは振り返らないラムダたちに向かって叫び、走り出した。
 それに呼応するように皆、走り出した。



⇒あとがき
 ラムダ……本当は相手キャラに選ぼうと思ったけど、セシルのほうにいろいろあって……
 というわけで、ラムダは相手キャラにはなりませーん!!
20040531 カズイ
20120402 加筆修正
res

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