046.暴動報告
「……という訳だ」
全速力で走って戻って来たにも関わらず唯一息切れ一つしていないリョウがトウヤとジンガに変わって簡潔に説明をした。
「ローカスの話は、ワシも知っとるぞ。貴族の屋敷から財宝を強奪しては、人々へと配っていったって話だ」
「リィンバウム版ねずみ小僧?」
「……ナツミ、ボケるのはまた今度にしろよ」
「まじめに言ってるんだよ」
ナツミとハヤトの漫才のようなやり取りは聞かなかったことにしてリョウは話を促した。
「ねずみ小僧ってのはよくわかんねぇけど、気前いいなぁ」
「ケッ!単に善意を押し売りしてるだけじゃねぇか。そういうのを偽善者ってんだよ」
「まあまあ、ガゼル」
さも気に入らない様子のガゼルをエドスが宥めた。
「それよりも、暴動を扇動した連中が気になるな」
ソルが難しい顔をして腕を組んだ。
「ああ。僕たちだけでクレーターを調べに行ったときに荒野で会った、あの剣士がリーダーだったんだ。確か、アキュートの……ラムダっていう名前だったと思うよ」
「ラムダだって!?」
トウヤの言葉に今まで黙っていたレイドが、突然声を上げた。
「知ってるのか?」
「ああ、よく知っている。私が騎士団にいたときの先輩だよ」
「騎士団と戦っているのは、レイドの先輩なんですよね?助けに……行かないんですか?」
「……行ったところで、どうしろと言うんだ。先輩でもあるラムダと共に戦えというのか?後輩である騎士たちを敵に回して、戦えと君はいうのか!?」
レイドの声が徐々に大きくなって、最後には怒鳴るような声になった。
その声と気迫にアヤはびくりと肩を震わせた。
「おい、レイド。落ち着けよっ!」
ガゼルがレイドの言葉を遮るように制した。
レイドははっとしたように言葉を切り、浮かしかけていた腰を椅子に下ろした。
「……すまない。君に当たってしまって」
弱々しくアヤは首を横に振った。
「正直、私は今、自分がどうしたらいいのかわからないんだよ。どうするべきなのか、わからないんだ」
こんなに気弱なレイドを、アヤは知っていた。
アルバを叱っていた時に、ほんの一瞬だけだが見せていたのだ。
「ラムダは、お前さんにとって大切な先輩だったようだな」
「ああ……」
エドスの言葉にレイドは頷いた。
「ラムダという人間ほど、騎士の名が相応しい人間はいなかった。剣技に優れ、高潔な心を持ったあの人に、私は憧れていたんだ」
「そんなすげえヤツが、どうして騎士団を辞めちまったんだ?」
ガゼルにそう問われたレイドは顔をしかめた。
「辞めさせられたんだ。……召喚師たちにとって、あの人は邪魔な存在だったからね。ある任務の失敗の責任をとって、退役させられてしまったんだよ」
ハヤトたちはこっそりと、同じ召喚師であるキールたちを見ていた。
自分と同じ召喚師をこんな風に言われて、どんな気持ちなんだろうと。
「ラムダがいなくなったことで、召喚師たちはますます力を強めた。絶望した騎士たちは次々と城を去った。……私も、その一人さ」
レイドの口元には自嘲的な笑みが浮かぶ。
「なるほど、な。それがお前さんが騎士を辞めた理由か……」
エドスが納得したように頷いた。
「あの人が立ち上がった理由はよくわかる。召喚師に頼るあまり、民衆のことを考えなくなった領主と……。それを止められなかった我々のことを、あの人は許せないんだろう」
レイドは拳を握り締めて、そこへ視線を落とす。
「なぁ、暴動はこのまま成功するのかな?」
「難しいんじゃないかしら」
「召喚師が出てくるかもしれないからね」
アヤとトウヤの言葉にジンガは眉根を寄せた。
「じゃあ、なんで暴動を起こしたんだ?」
「わからないのはそこなんだよ」
ジンガの言葉にトウヤは腕を組んで考える風を見せる。
皆、答えが理解できないため言葉を発するものは居ない。
リョウもその答えの正しい解を持っていないため、一度目を伏せて言葉を紡いだ。
「だからこそ行けばいい」
「リョウ?」
「何故、直に鎮圧されてしまうであろう暴動を起こしたのかって」
「それもありだよね!」
「うん、それを聞きにいくって言うのもありだよ、レイド」
「行きましょう、レイド」
ナツミとリプレとアヤの女三人に詰め寄られるように言われ、レイドはゆっくりと首を縦に動かした。
「じゃあ、行こう。ローカスも助けとかないとね」
「ん?知り合いだったのか?」
「前に盗賊襲ったときに賞金山分けしただけだよ」
リョウはにっと笑って席を立った。
⇒あとがき
わーい、レイアヤ書いたからレイアヤに見えないこともなーい。
さて、助けに行くか(笑)
20040531 カズイ
20120402 加筆修正
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