044.ハルモニウス

 納税の日と言ってもあまり関係はないだろうと、クラレットは散歩に出ていた。
 アルク川の方へと向かい歩いていると風に乗って、柔らかな音色が耳に届いた。
(なんでしょう……)
 音の方へと誘われるように近づいていく。
 元々の目的地も、向かう理由も変わっているが、クラレットは気付かずに音色に惹かれるままに進んだ。
 音は川岸の木陰から発せられていた。
 正確にはそこに座る少年が奏でる楽器から発せられていた。
 それは森で出会った少年―――スウォンだ。
 スウォンは目を伏せ、笛のような楽器を奏でている。
(綺麗な曲)
 箱庭のような場所での生活の中で音楽と触れ合う事等なかったクラレットの心を揺らす曲。
 少し寂しげな曲ではあったが、それはとても綺麗なものだとクラレットは思った。
 何となく声が掛けづらくて、クラレットはその曲に聞き入った。
(触れれば消えてしまいそう)
 ゆっくり目を閉じ、小さくほうと溜め息を零した。
(静かな夕暮れ時みたいに寂しい……)
 不意に曲が途切れて目を開くと、スウォンと目があった。
「クラレットさん?」
「すいません、声、掛けづらくて」
「いえ、構いませんよ」
 スウォンの方へと歩み寄ると、スウォンの手の中にある小さな四角い楽器を見下ろした。
 クラレットの記憶にはないものだ。
 もともと楽器自体詳しくないのだが、これがどういった楽器なのかクラレットにはさっぱりわからなかった。
「さっき吹いていたのはその楽器ですか?」
「ハルモニウスって言うんですよ」
「ハルモニウス、ですか?」
 クラレットは名前を知ることの出来たその楽器をじっと見つめた。
 鈍い輝きを放つ古い楽器だ。
 恐らく長い間使っているのだろうことが見てわかったし、きっとスウォンはこれをとても大事にしているのだろう。
「初めて獲物を仕留めた時、父さんからお祝いにもらったんです。あまり上手には演奏できないんですけど」
「そんなことないですよ。綺麗な曲でした」
「そうですか?」
 クラレットが小さく拍手を送ると、スウォンは照れたように笑った。
「今度、子どもたちにも聞かせてあげてくれませんか?私もまた聞きたいです」
「ええ、わかりました」



⇒あとがき
 み、短いけどスウォクラも入れたかったんです〜。ごめんなさーい><
20040530 カズイ
20101123 加筆修正
res

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