042.絵本を読もう
今日はガゼルが月の中でも最も嫌がる納税の日。
その話を聞いたナツミはあまり出歩かない方がいいと言う事を教えてあげようとリョウたちの部屋の前まで来ていた。
―――コンコンッ
「はい?」
軽くノックをして返ってきたのはリョウではなくハヤテの相棒であるキールのものであった。
「入っていい?」
リョウはいないのかな?と思いながらもそう告げるとキールは「どうぞ」と返してきた。
どこか優しい声で同意されたのでナツミはそのまま扉を開いた。
部屋の中へと入るとキールが床の上に座り込み本を読んでいた。その横にはその本を覗き込んでいるラミの姿もあった。
「あ……ナツミおねえちゃん」
「ラミちゃん、ここにいたんだ」
ナツミは広間にいるフィズを思い出した。
そう言えばさっき居間で会ったフィズは見ていないと言っていた。
「本を読んでほしいって頼まれたんだ」
キールは広げたままの本を示す。
ナツミは部屋の中央まで歩み寄るとその本を覗き込んだ。
ところどころであれば読むことが出来るだろうかと覗き込めば、本当にところどころであればわかるのだが、完全に理解できなかった。
一応絵付の文章の少ない本であるので行けると思ったナツミは小さく眉を顰めた。
「ラミ、まだむずかしいじ、よめないの……」
「私もよくわからないなぁ……。どんな本なの?」
「『エルゴの王』って言う……リィンバウムに古くから伝わる伝説だよ」
「おねえちゃんも、おはなし、きく?」
ちょこんと首を傾げて問うてくるラミ。
ナツミはどうしようかと思ってこれからの予定を思い起こす。
リョウにガゼルの事を伝えようと思うくらいには間違いなく暇だ。
ナツミはならいいかとラミとは反対のキールの隣に座った。
「これも勉強よね!ラミちゃんくらいが読む本くらい読めるようになんなきゃ」
「良い心がけだね。続きからだけどいい?」
「……たぶんだいじょうぶ」
不安そうに笑ったナツミはラミと一緒にキールが読み上げる本を覗き込んだ。
* * *
「難しい〜!子ども向けの癖にぃ〜!!」
ラミは一度読んでもらったと言う事で部屋を後にしてしまっていたが、ナツミはラミにその本を借りてまだ本とにらめっこを続けていた。
必死に理解しようとするナツミをキールはくすくすと笑いながら見つめる。
キール自身はすでに絵本と言うレベルではない難しい本を手に読書をしていた。
「キール、これなんて読むんだっけ」
「それはメルギトス」
「……それってたしか、リョウのお祖父ちゃん……のなんだっけ」
「お祖父さんと同種の大悪魔」
「そうそれ。……大悪魔ってすごいんだね」
「まあ、メルギトスは史上最悪の悪魔だからね……」
「魔王はいないの?」
キールはその言葉にドキリと心臓が跳ねた等と言う顔を見せず、平静を装ってページを捲った。
「さあ」
「わからないんだ。キールはカシスみたいにサプレスの勉強細かくしてないの?」
「そう言う訳じゃないけど……まだだれも解明したことがないから、ね」
苦笑を浮かべるので、ナツミはそれ以上聞けずに唇を尖らせた。
「詰まんない」
「え?」
「キールが!」
「えっと……そう?」
「また壁作っちゃってさ……寂しいよ」
泣きそうな表情を浮かべたナツミにキールはどうするべきなのかわからず、動揺のあまり立ち上がって本を落としてしまう。
「あ、えっと……」
本を拾えばいいのに、どうしていいのか余計に分からなくなったキールはおろおろと周囲を見回してしまう。
「ぷっ」
そんなキールを見てナツミは思わず吹き出した。
「何慌ててるの?」
「どうしたらいいのかわからなくて……ナツミの顔にドキッとして」
「え?」
「あ……はは、は……」
「ははは……」
二人とも顔を赤くし、結局笑って誤魔化すことにした。
⇒あとがき
トウソルばっかりじゃかわいそうだということで、話の流れをフラットの日常編として番外編にせず、本編で出してみる。
ちなみに読んでわかるようにキルナツ。ナツミにエルゴの王と魔王とメルギドスのことを知識として手に入れてほしかったし。
20040530 カズイ
20101123 加筆修正
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