005.盗賊登場!
五人は高い壁にぽっかり開いている人が通れるほどの大きな穴から街の中へと入り、歩いていた。
「此処はスラムって奴かな」
「教科書に載っているのを見たことがあります」
トウヤの言葉にアヤが頷く。
空から空へと、煙突からは煙が吐き出され溢れている。
工業都市かそれとも廃棄の街か、リョウは考えながら歩いていたが、ふと足を止めた。
「リョウ?」
訝しげな声をあげたナツミを背に庇うようにして、リョウはトウヤに視線を向けた。
トウヤもどうやら気づいていたようだ。
「隠れてないで出て来いよ」
リョウの言葉にハヤトが慌てて剣をしっかりと握り締めた。
「……へぇ、いいカンしてるじゃねぇか、あんた」
建物の陰から一人の少年が姿を現した。
ハヤトたちと同じか、少し年上くらいの少年だ。
ちなみにハヤトとは身長も同じ位だろう。
腰には探検を下げ、一言で表すならば盗賊風だ。
「ついでにワシらの目的もわかってくれると手間が省けていいんだがなぁ」
その後ろから現れたのは見上げるような巨漢の青年。
手には小ぶりの斧を持っている。
「有り金全部俺たちに渡すんだ。そうすりゃあ命だけは助けてやる」
少年が短剣をちらつかせる。
「お金だったら……」
リョウはアヤを制した。
「通過が違う。意味ないよ」
「え?」
「じゃあ、さっきの石は?」
「あれは金には代えられない」
ナツミに注意してから石を仕舞わせる。
「おい、そいつは!?」
だが遅かったようで、少年の表情が驚きのものに変わる。
「お前さん、もしかして召喚師なのか?」
「しょうかんし?」
ナツミが首を傾げ、青年の口にした単語を反芻する。
「とぼけるんじゃねぇ!そのサモナイト石はお前らが化け物を呼ぶ道具だろうが!」
少年の視線が途端に敵意を含んだものに変わった。
「お前さん、運が悪いぜ。こいつは召喚師ってのがダイキライなんだよ」
リョウはため息をつき、両手をしっかりとかまえた。
「ちょっと、リョウ!?」
「日ごろの恨み、たっぷり返させてもらうぜ!」
揺らぐ銀の煌きは、リョウへと向かう。
リョウはその腕をすっと避け、少年の腕を掴んで、向かって来た勢いのまま投げた。
それもただ投げるのではなく、器用にもその関節を外しながらの流れるような作業だった。
「なっ!」
少年が驚いているのを見下ろし、リョウは舌打ちをした。
関節を外すつもりはなかったのだが、道場破りたちをそれで倒したためについやってしまったようだ。
「「「「リョウ!!」」」」
四人の言葉にリョウは後ろからの攻撃に気づき、それを流して少しで遠くへ投げ飛ばした。
今度は関節は外していない。
一人その場に残ったリョウは同時に感じた魔力を全身に受け、リョウは防御体制のまま後ろに吹き飛ばされた。
「ぐっ」
四人は何が起こったのかわからないらしいが、身動きの取れなかった少年と、投げ飛ばされた青年は唖然としてリョウを凝視している。
「てめぇ、エドスを庇ったのか?」
「はっ……偶然だよ」
強張った身体を僅かな動作でほぐし、リョウは鼻で笑って見せた。
「それより、いつまで見てるつもりだ?騎士さん?」
「気づいていたのか」
鎧らしいものを着込んだ挑発の男が現れる。
まるで中世の騎士のような男は、不思議そうに掠り傷を作ってしまったリョウを少年たちと同じように凝視した。
「れ、レイド……」
少年がうめく。
どうやら少年の知り合いのようだ。
「……ずっと、見てたのかよ」
苦い顔で少年が尋ねる。
「まあ、な」
レイドと呼ばれた騎士は、リョウの元へと近寄る。
「大丈夫か?」
「ツバつけとけば治るだろうさ。俺よりもあいつのほうが重症だよ」
「ガゼルが?」
とくに外傷は見えないと思っていたのだろうが、よくみればガゼルの右手からは短剣が落ちており、ぶらぶらと力なく動く。
それを見て関節が外れていることに気づいたのだろう。
「げっ!?」
自分で自覚したガゼルと呼ばれた少年は自分の腕を見て驚いている。
「悪いな。つい癖で」
ガゼルにゆっくりと歩み寄り、岬越寺に習ったとおりに関節を戻す。
資格はもっていないが、外すのなら戻し方も覚えておけと岬越寺が教えてくれたことだ。
「うわっ!」
「これで治ったはず」
「お、本当だ」
ガゼルは治った手で短剣を拾い上げた。
調子も悪くないようだ。
「見かけない顔だが、君たちはどこから来たんだ?」
「あっちのほうの荒野」
「はぐれか?」
「わるかったな。はぐれで」
「はぐれ?」
「はぐれってなに?」
「さぁ」
「文字通りはぐれているってことでしょうか」
トウヤ、ナツミ、ハヤト、アヤはそれぞれ首を傾げる。
「……とりあえず、事情がわかってるのは君だけ、ということなのかな?」
「とりあえずはそうみたいだ」
リョウは四人の疑惑の視線を気にせず、頷いた。
⇒あとがき
レイドの話し方がいまいちわかんなーい。
ま、気にしない気にしない。
ちなみに、夢主が平気だったのは魔力に耐久性があるからです。
20040502 カズイ
20070413 加筆修正
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