041.カシス大ピンチ!

「……そのリョウとカノンの関係ってのはなんなんだ?」
 カシスに問いかけるガゼルと違い、トウヤたちはおおよその答えにそれぞれ検討が付いていた。
「神職者と神様みたいなもの……かな」
 カシスは不安げな表情で言葉を選びそう答えた。
「カノンは鬼神のハーフ、つまり半分だけ鬼神なの。その力を鎮められるのが宮司や巫女なの」
「なんだ?そのグウジとかミコってのは」
 エドスの問いに言葉を飲み込んだカシスに変わり、アヤが口を開いた。
「宮司や巫女と言うのは神社で神様を祀って鎮める人たちの役職です。そうですよね、カシス」
「なんで知ってるの!?」
「僕たちの文化はシルターンに近いって、前にリョウが教えてくれたんだよ」
「なら少しはわかるんだ……。鬼神の巫女や宮司は鈴を使ってその力を鎮めたり操ったりするの」
 リョウの行動を思い出し、納得したようにアヤとナツミとクラレットはそれぞれ頷いた。
「気になるのは"話したい事"って言ったことなんだよねぇ……」
「何か問題あるんですか?」
「……あんまり言いたくない」
「なんで?」
 にっこりと、顔は笑っているが目が笑っていないトウヤに、カシスはビクッと肩を揺らして隣に座るクラレットに援護を求める。
 だが援護する気はなく、むしろ一緒に怯えてカシスに抱きつき返していた。
「落ちつけよ、トウヤ」
 唯一トウヤの不機嫌な時に纏う空気に慣れているハヤトがトウヤを宥めた。
 その場を誤魔化そうとナツミも何か話題を〜!と必死に思考を巡らせる。
「そ、そう言えばさ!巫女って"せいれん"……なんとかじゃないといけないとかっていう話なかったっけ!」
 そして浮かんだ言葉は場の雰囲気を凍らせるのに十分であった。
「……ナツミ」
「何、アヤ」
「カシスが……」
 場の雰囲気に首を傾げるナツミの袖を引き、アヤがカシスの方をナツミに示した。
 カシスは顔を青くしてすいっと顔を背けた。
 どうやらその話は今回の事に深く関わっているようだ。
「詳しく聞かせて欲しいなぁ……カシス?」
「ひっ」
「……諦めろ、カシス。図星を掘ったお前が悪い」
「だな。こうなったトウヤは俺たちにも止められない」
「キールとソルの裏切り者ぉ!」
 もとよりフラット組は硬直が解けていない状況だ。
 カシスはじとっと二人を睨み、泣きそうに声を絞り出して兄二人を非難した。
 だが「で?」と促すようにさらに笑みを深くしたトウヤに、カシスは再びビクッと肩を揺らし、恐る恐るトウヤの方に向き直る。
 こうなれば素直に白状する他ないとカシスは深く溜息を吐いた。
「……巫女も宮司も清廉潔白じゃないといけないの。それは鬼神の力を封印するために必要なの」
「封印するために必要って?」
「そ、その身を捧げて……するのよ」
 顔を赤くしながらもごもごと口を動かすカシスの声は段々と小さく消えて行きそうだった。
「なにするの?」
 それに気づいてか気付かずか……恐らく後者であろうのんきに問うたハヤトをカシスはキッと睨んだ。
「乙女の口から言わせるなぁ!!!」
「だな」
 くすりと笑い、相づちを打ったのはこの場にいなかったはずのリョウだった。
「リョウ!?お、お帰りなさい」
 おろおろとしながらもそう言ったカシスに歩み寄りながらリョウは「ただいま」と返した。
「どこまで話すかと思えば……そこまで知ってたのか」
「シルターンの召喚師なんだから当たり前でしょう!っていうかヤったの?ねえ、ヤっちゃったの!?」
 心配そうなカシスとは裏腹に、アヤとクラレットの視線はどこか期待を孕んでいて、リョウは首を傾げた。
「何を……って、ああ……俺、未成年だから」
「未成年って理由になるの?」
「じゃあ……バノッサもいたから」
「取ってつけたかのように言うなよ」
 がくりと全員が脱力する。
「……まあ期待しても無駄だぞ。俺、そう言うこと出来ないし」
「え?」
「ん〜……PTSDなんだよ、俺」
「PTSDですか?それはまた……」
「普通はならないだろう……話したくないなら別にいいけど」
「遺伝的なものだから」
 アヤとトウヤにリョウは苦笑で返す。
 ハヤトは「ふうん」とわかっているのかいないのかよくわからない返事を返し、ナツミは「PTSDって何?」と首を傾げていた。
「あんまり心配するほどのものじゃないよ」
 意味を知っている二人を安心させるような微笑みにハヤトの胸が再び高鳴ってハヤトが後で自問自答していたのはここだけの話。






















夜会話:カノン☆

 リョウを見送った時のバノッサさんの顔がどこか優しかった。
 何があったんだろうって考えてみたけど、全然わからなかった。
 ただ、リョウが女の子だったらなって言う風に漠然と思った。
 そしたらバノッサさんの心を埋めてくれるかもしれないってそんな期待が一緒に芽生えていた。
 でもそれはバノッサさんには内緒にしておくことにする。
 ……怒られるかもしれないしね。ふふ。

 明日もリョウに会えるかな。



⇒あとがき
 ハヤトは謎が一杯……にしたいです。←
 その理由はエルゴの試練辺りで解き明かされる予定!
 ……問題は、その前にハヤトに自覚してもらわなきゃならないということ(汗)

 補足:PTSD≫Posut-Traumatic Stress Disoederの略。心的外傷ストレス障害。
20040530 カズイ
20100621 加筆修正
res

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