040.カノンに説明
「あいつらは知ってるのか?」
「何を?」
「てめぇが女だってことだよ」
バノッサの言葉にフラットの面々を思いだしながら、リョウはそう言えばと呟いた。
特に言う必要性を感じなかったために今の今まで誰にも気づかれなかった。
時間帯が合わなかったのもあるが風呂はいつも一人だったし、常に早起きのために着替えを見られる事もなかった。
「皆知らないよ。俺たちが居た世界は服を見れば先入観でもって男女を分けちゃうからさ」
「じゃあ誰も知らないのか」
「そうなるな」
何か考え込んだバノッサの腕に抱かれたまま、リョウは首を傾げる。
「……そのまま黙ってろよ」
「言うつもりないし」
「いいから言うなよ。カノンにもだ」
「なんで」
「黙って聞いてりゃいいんだよ。それともまた襲われてぇのか」
「やだ!」
仕方なくリョウは納得することにしたが、釈然としない。
「で、なんで巫女なのにたぶんなんだ?」
「俺、ハーフって言うか、クウォーターだから」
「クウォーター?」
「カノンみたいに鬼神と人の間じゃなくて、四つの血を引いてるってこと。だから、多分」
「……それもあいつらは知らないとかいうんじゃないだろうな」
「言ってないし、言う必要ないし……言えない。ある意味カノンより化け物だろう?今の居場所は心地よすぎるから、まだ言えない」
「そうか。居られなくなったらここに来いよ」
不意に向けられた柔らかいバノッサの言葉にリョウはバノッサを見上げた。
「……んだよ」
「熱ないよな」
「ねえよ!」
バノッサはリョウの服のチャックを上げると上着を掛けた。
「そろそろ起きるだろう。行くぞ」
「あ、うん」
先に部屋を出ていくバノッサを追いかけて、慌てて部屋を出た。
上着を整えながら先ほどと同じ道を逆戻りしてカノンの部屋の戸を開く。
するとちょうど起きたばかりの様子のカノンがそこに居た。
「本当に起きてる」
「確証無しで言ったってことは誤魔化したな?」
「気にするな」
「気にするだろうが!」
「……?」
二人の間に何があったんだろうとカノンは首を傾げる。
だがそれを素直に聞ける空気ではないためどうしようかとカノンは口を開きかけて閉じた。
それに気付いたリョウがバノッサから視線を外してカノンに向ける。
「あ、ごめん。カノンに説明するんだったよな」
リョウは近くにあった椅子を引っ張ってカノンのベッドの近くに座った。
置き去りにしていた鈴を取り、リョウはカノンに見せた。
「これは?」
「神具。シルターンの鬼神の神職者が使う鈴の一種だよ」
「リョウは、宮司だったんですか?」
「……その血は引いてる」
先ほどのバノッサとの口約束である"カノンにも内緒"ということを思い出して巫女という言葉は伏せた。
「でも、そうとは言い切れない。言っただろう?シルターンの血は四分の一だって」
「そうでしたね」
「正直、カノンを押さえられる自信はなかった。まぁ、結果的にはどうにかなったけど、できることならあまり鬼神の力は使わないほうがいい。自分で制御しきれてないだろう?」
「……はい」
リョウはぽんぽんとカノンの頭を軽く叩いた。
「まぁ、そうならないように気をつけるだけでもいいよ。それと、その鈴は持っておいたほうがいい。それだけでも随分違うから」
「ありがとうございます」
「いいよ。それ、元々もらい物だし、使い辛いしさ」
笑いながらカノンに鈴を渡すとカノンもつられたように笑った。
「なにかあったら俺に言ってよ。大体のことなら説明できるしさ」
「迷惑かけてごめんなさい」
「いいよ。同じシルターンの血を継いだもの同士ってことでさ」
「でも」
「そういう時は謝るんじゃなくてありがとうだってさ」
アリーゼの言葉を思い出し、リョウは苦笑した。
⇒あとがき
カノンと友情を育みます。
なんたってバノッサの後衛に回ってもらわないとならないので……。
ちなみに、鈴のイメージとしてはCCさくらの観月先生の鈴をイメージしてください。あれに近い物体です。
20040530 カズイ
20100608 加筆修正
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