036.真実を少しだけ

 傷だらけのハヤトとは正反対にトウヤの方はいたって無傷。
 キールたち召喚師組も比較的無傷ではあったが、少し砂に汚れていた。
 アヤとナツミは多少の擦り傷が見えたがほぼ無傷と言ってもいいだろう。
 しかしハヤトたち、リョウと一緒にこの世界に召喚された四人の雰囲気はどこか落ち込んだものだった。
「カナシイは食いきれないんですけど」
 そう言うと全員がリョウの存在に気付いたらしい。
「……リョウッ!」
 ナツミが泣きそうな顔でリョウの名を呼んだ。
 その真意も、何があったのかもまだリョウには理解できていない。
 だが間違いなくその原因となったのはキールたちだ。
 リョウはキールを睨み、キールはそれに対して苦笑で答えた。
「話したんだ。遅くはなったけど」
「それで、四人が落ち込んでるわけだ。一体どこまで話したかは知らないけど……」
「どういうことです?」
 クラレットは二人の短いやり取りに怒りを表した。
「リョウははじめから僕たちがハヤトたちをつけていたことを知ってたんだよ」
「それで二人がギクシャクしてたってことか?」
 勘のいいソルがキールとリョウを見る。
 キールは苦笑して、リョウは視線を逸らした。
「ずるーい。なんでキールだけ内緒持ってるの〜!?あたしもほしー!」
「……カシス。お願いですから話をずらさないで下さい」
 クラレットは額に手を当てる。
「それで、ハヤトたちはどうするんだ?」
「俺はキールを信じてる。ただ、殺そうと思ってたって話がちょっと……」
「私も」
 アヤもハヤトの言葉に同意する。
「……そう」
「まだ隠してることはあるけど……いいのかい?」
「俺は気にしない」
「僕も」
「私も」
「あたしも」
 四人が頷いたのを見て、キールたちはほっと溜息を吐いた。
「……隠してることがあるのは誰だって一緒だ。四人が信じるって言うんなら俺も信じてやる」
「つまり、リョウは信用してなかったわけだ」
「まぁ、召喚師自体が嫌いだしな」
「初耳だよ」
 僅かに驚いたようにトウヤが瞼をぱちりと瞬かせる。
「まぁ、主にキールたちとは関係なさそうな蒼の派閥の召喚師だけどね」
「どうして限定するの?」
「……黙秘権を行使する」
「秘密主義はリョウも一緒じゃん!」
「そう言われても……知って後悔されるより、知らないままでいた方がいいじゃん」
「後悔するようなことなの?」
「まぁ……蒼の派閥がエルゴの王の時代よりもずっと前から守ってきた秘密だし」
「うぅ、本当にそれだけで十分後悔しそう」
 聞いたナツミは口に手を当て逃げ腰だ。
 その様子に小さく笑みが零れ、カナシイは少し薄れた。





















夜会話:ナツミ☆

「上行こう」

 その日の夜、廊下ですれ違ったリョウは突然私の腕を取ってそう言った。
「上?」
 上って、ここ二階だよね?
「そう、上」
 楽しそうに笑いながら、リョウは私の腕を引っ張った。
 たどり着いたのは屋根の上。
 確かに上だよね……。
「うわ……大きい……」
 経っている場所は二階の屋根の上で、そんなに高くないはずなのに、あっちよりも大きく見える月。
 それはすごく綺麗だった。
「不安、なくなった?」
「……リョウってなんで私の考えてることがわかるの?」
 欲しいときに欲しい優しさを与えてくれる。気遣って頭を撫でてくれたりとか。
 私の不安な心を簡単に癒してくれる。
「ナツミは姉さんに似てるから……。外見じゃなくて、内面がさ」
「そっか」
「ナツミは帰れるよ。そのためにクラレットたちは方法を捜してるんだから」
「……うん」
「大丈夫、帰れる」
 安心させるように、リョウは私の髪を撫でてくれる。
 帰りたいって思うのは、リョウも一緒なのかなぁ……

 ほんの少し、胸に違和感の残った夜。



⇒あとがき
 たとえ異性に憧れを抱いても、やっぱり女の子は女の子。
 ナツミは心優しい子だと思います。
 だから、メイトルパの門に感応して送還術を使う力を、主人公がナツミを介して使うことができたんだろうと思う。
20040523 カズイ
20090825 加筆修正
res

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