035.謎の剣士

―――ガタンッ
「……?」
「あ、悪い。起こしたか?」
 気だるい身体を起こすと、ジンガがそこにいた。
 どうやら椅子を倒してしまったらしい。
 同室であるキールとハヤトの姿は見当たらなかった。
「まだ眠いなら寝てたほうがいいぜ」
「大丈夫。それより……」
 リョウのお腹が空腹を告げる。
「はは!人を心配させておいてそれか!リョウは大物だな」
 ジンガは笑いながら椅子を起こす。
「俺っちリプレに言ってくるな」
「あ……」
 ジンガはリョウが何か言うよりも早く部屋を出て行ってしまった。
 リョウは思わずため息を吐きながら、ゆっくりと布団から抜けだした。
 上着だけ脱いだ状態で、近くに畳んで置いてあった服を掴むと、少しふらつく足で部屋を出る。
 壁に手を添えながら廊下を歩き、階段を下りる途中でリプレがリョウの前に現れた。
「リョウ!」
「おはよう、リプレ」
「よかった!本当に目が覚めたんだね」
「?」
「お前、三日間も眠りっぱなしだったんだよ」
 事情がわかっていないと気づいたガゼルがリョウに手を貸しながら付け加える。
「心配掛けてごめん」
「ううん。それよりお腹空いてるんだよね。すぐに用意するから!」
「ありがとう」
 安堵の笑みを浮かべて離れて行くリプレの背を見ながら、ガゼルの手を借りながら広間へと入った。
「あれ?ジンガは?」
 先にここに来たはずの赤い髪の主は見当たらない。
 変わりに最初からいたらしいエドスが椅子に座っている姿があった。
「子どもたちの相手をしに行ったぞ」
「そう」
 リプレが持ってきてくれたパンを一口齧ると、それをスープで流し込むようにして食べた。
 即席で量は少なかったが、久しぶりの食事にはこれくらいがちょうど良い分量だった。
「ごちそうさまでした」
 いつもよりもおいしいと感じた食事を平らげ、ふとキールたちのことを思い出した。
 そう言えばその姿を目覚めてから一度も見ていない。
 どこにいるとも聞くのを忘れていた。
「そう言えば、キールとハヤトは何処言ったんだ?」
 召喚術の練習をしているのなら、門が開く気配や魔法の名残で気付くことが出来るが、今はそれがない。
 基礎を勉強するときは大抵この部屋か自室でするので違う気がする。
 もしかしたらフリーバトルか賞金稼ぎに出かけたのだろうかと考えたが、アヤやナツミの姿も見えない。
「二人ならトウヤやソルたちと一緒に荒野に言ったわよ」
「トウヤやソルたちって、もしかして八人で?」
「あいつらなら大丈夫だろ。キールたちもいるし」
「それにそろそろ帰ってくるだろうよ」
 エドスとガゼルの大丈夫だろうという雰囲気を信じたいが、荒野という場所がよくない。
 リョウはキールたちを完全に信用したわけではないのだ。
 荒野は荒野でもはじまりのあの場所に行っているかもしれない。
「……俺、ちょっと行ってくる」
 ポケットの中のサモナイト石がそのままであることを確認し、広間を後にした。

  *  *  *

 荒野へとひとりで駆け抜けてもはぐれすら現れなかったのは偶然だろうか。
 その代わりとでも言うように一人の男がゆっくりとこちらに向かって歩いてきていた。
 遠目にも見える大きな剣を背負った剣士だった。
「……オプテュス……じゃ、なさそうだな」
 大きな鎧を身に纏い、長めの前髪で片目を隠した剣士は、リョウを見つめ嫌そうに眉間に皺を寄せた。
「男女四人ずつの俺と同じ年くらいに見える人たちを見ませんでしたか?」
「大穴の方に居たが、仲間か?」
「四人は仲間。四人は品定め中です」
「……そうか。では、お前も召喚師なのか?」
 そう問いかけるということは、この剣士はハヤトたちと戦ったのか、それともそれを目撃したのか……。
 推測することしか出来ないが、それほど警戒するものでもないだろう。
「俺は召喚師じゃないです。彼らも半分は召喚師ですけど、半分は召喚師じゃありません」
「半端だな」
「半端者ですよ。リィンバウムの人間だって、そんなのばっかりじゃないですか。変わりませんよ」
「召喚獣なのか?」
「まぁ、そんなところですけど一緒くたにしないでほしいですね」
 リョウはそこまで言って、ふっと剣士の腕をつかんだ。
「!」
「怪我……してますよね」
 小さな仕返しとばかりにそのまま触れていたが、手を離してサモナイト石を取り出す。
「リプシー、頼む」
 現れた小さな召喚獣は剣士の傷を癒すとすぐに還った。
「情報料ってことで。じゃあ」
 剣士の横を通り過ぎ、大穴のほうへと走り出した。
「半端者……か」
 剣士の呟きは風に飲まれ、剣士も再び歩き出した。



⇒あとがき
 半端モノ。大好きな言葉です。
 高潔よりも、下賎よりも半端モノが好きです。
 だからCP前提ドリームなんてものに手を伸ばすんだ(笑)
20040523 カズイ
20090822 加筆修正
res

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