033.遍歴

「……そう、やっぱりそうだったんだ」
 帰ってきたクラレットから話を聞き、リョウは納得したようにそう言った。
 ガレフたちはメイトルパからのはぐれ召喚獣の胞子を浴びてああなった。
 それがショックだったスウォンはフラットの庭の一角にある切り株に無言で腰を下ろしているらしい。
「気づいていたんですか?」
「懐かしい気配がするって言っただろう?」
「懐かしいというならサプレスでしょう?あれはメイトルパの召喚獣だったのよ?」
 カシスの言葉にソルも同意するように頷く。
「まったく……召喚師なんだからそれくらいわかろうよ」
 リョウは溜息を吐き、ポケットからサモナイト石のケースを出す。
 四つを四角になるよな位置に並べ、中心に無色のサモナイト石を置いた。
「これをとりあえずリィンバウムと例えるとして……リィンバウムは除外」
 そう言ってリョウは無色のサモナイト石を再びケースに戻した。
「リィンバウムの外にある世界。サプレス、シルターン、メイトルパ、ロレイラル」
 一つずつ指で指示し、ジンガにもわかりやすいように説明する。
「俺はサプレスの悪魔」
 紫のサモナイト石を手に取り、自分の前に置いた。
「だとしたら残り三つの世界は関係ないわけだ」
「でも懐かしいって言った」
「話はここから。……リィンバウム以外の世界だけの関係性を思い出して欲しい。これは前にハヤトたちには話したけど……」
「輪廻転生!」
 ナツミが片手を上げて元気よく答えた。
「ナツミ正解」
 クラレット達は納得と言った表情で肩の力を抜く。
「でもちょっと違う。今は確かにサプレス。だけど俺の属性はロレイラルでもシルターンでもある」
「どういうこと?」
「そこはまだ内緒。まぁいつかは話すけどね」
 リョウはロレイラル、シルターン、メイトルパ、サプレスと今度はサモナイト石を横一列に並べた。
「これが俺の遍歴。もっと先はよくわからないけど、記憶の中で一番古いのは、人がいた頃のロレイラル、次はシルターン。そこから先はしばらく記憶がなくて、メイトルパ。そして今」
「そう言うのって覚えてるものなのか?」
「普通は覚えてないだろうね。でも俺はそう言う力を持っているから知ることができる。そして同時にその力を利用することができる」
 ガゼルの質問に答えながら、リョウはサモナイト石を元に戻して、ケースをポケットの中へと戻した。
「ねねっ」
「なに?ナツミ」
「リョウの前世ってなんだったの?」
「密林の占い師・フバースだよ」
「フバース?それってどんなの?」
「獣人だから、白い虎と人を足して割った感じだよ」
「うーん、想像出来ないっ」
 頭を抱えるナツミを見て、リョウはくすくすと笑った。
 淀んでいた空気が少しだけ浮上するのを感じた。

「―――と言う訳で、俺は出かけてくるよ」
「何がと言う訳なんだ?」
 曖昧に笑い、リョウは立ち上がって部屋を後にした。
「おい、リョウ……」
「私が追いかけます」
 追いかけようとしたハヤトを止め、クラレットがリョウの後を追いかけた。
 持久力も体力もないが、クラレットはすぐにリョウに追いつくことが出来た。
 リョウが息を切らすクラレットに気付いて足を止めたからだ。
「クラレット?」
「ど、どこに……行くんですか?」
「森だよ」
「なっ!?」
「還りたいって……そう呼んでるんだ」
 誰が、と言うのは分からなくても、誰をと言うのは理解できた。
「……はぐれ召喚獣が、ですか?」
「多分、俺はその召喚獣を知ってるんだと思う」
「どうして、そう思うんですか?」
「俺が前世をきちんと知ったのは、本当につい最近なんだ。ナツミと一緒に召喚したテテ。彼が教えてくれた」
「教えて?」
 人の言葉を使うことのないテテと言葉が通じるのだろうかと首を傾げた。
「俺は人であって人じゃないから……その時に感じた懐かしさと同じ感じがした。だから……助けてあげたいんだ」



⇒あとがき
 遍歴って……あんた……
 前世、とか言えばいいのに(笑)
20040522 カズイ
20081016 加筆修正
res

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