032.最強の雑種?
「なるほど、父親の敵討ちか……」
レイドが腕組みをして呟く。
トウヤ、ハヤト、ソル、キールの四人と一緒に外から帰ってくると、ガゼルに連れられ街外れの森に行ったというナツミとアヤから一緒にその話を聞かされた。
朱のガレフと呼ばれるガレフが棲んでおり、人を襲うのだという。
「しかし、あの森にそんな凶暴な獣がいるというのは初耳だぞ」
「ガレフの縄張りは、森のずっと奥なんです。ですから普通の人は、まず出会う事はありません」
エドスの疑問に、当人の一人であるスウォンが答えた。
彼は森で狩りをして生計を立てているらしい。
スウォンの父も狩人であったがその朱のガレフに襲われ、命を奪われたのだと言う。
「でもよ、今もそうとは限らねえんだろ?」
「ええ……」
ガゼルの問いには、自信がなさそうに頷いた。
「まあ、あそこの森には薪とか拾いに行ったりもしてるからな。そんな奴らがうろうろしてたんじゃ困るぜ」
「それじゃ……」
ナツミが嬉しそうに顔を上げ、ガゼルたちの顔を順に見て行く。
「ああ、私たちにできることでいいなら、手を貸すよ」
「はい……ありがとうございます」
スウォンが感極まった表情で頭を下げた。
「……俺はやめとく」
「え?」
「どうせ誰かが残らなきゃいけないし、俺一人行かなくてもそう大差はないだろう?」
「それもそうだな」
ガゼルが納得したことで、リョウが残ることに決まった。
「リョウ、怖いのか?」
不思議そうにジンガが言う。
トウヤたちと違い、兄貴等と呼ばないのは、リョウが年下だと知ったからだ。
「そう言うわけじゃないよ。ただ……いや、いいや。クラレット、気をつけてやって。……懐かしい匂いがするから」
「え?あ、はい?」
クラレットたち召喚師の四人はそろって首を傾げた。
リョウが懐かしいというのならサプレスに対してだと思うからだ。
だがリョウはクラレットに気をつけてやってほしいと言った。
サプレスの召喚師であるキールではなく、メイトルパの召喚師であるクラレットに対して―――
* * *
スウォンを連れた面々を見送って、リョウはリプレの手伝いをすることにした。
昼食に使った食器を片づけ、夕食の下ごしらえ。
あの調子ならおそらくたくさん食べるだろうし、スウォンの分も必要だろうとリプレは張り切っている。
「リプレ、これでいいか?」
「うん。ありがとう」
材料の野菜を切り終え、暇になったリョウは道具を洗って片づけを始める。
「……なぁ、リプレ」
「ん?」
「リプレは復讐したいって思ったことある?」
この家は元々別の人物の持ち物だったという。
その人物にガゼルとリプレは世話になっていたが、その人物は生きているのにここにはいない。
恨んだことはあるのだろうか、とそう思って聞いてみた。
「ないよ。……だって、悲しいもの」
「だよね」
ある程度片付いたところで、リプレはお手製のアルサックティーを準備し始めた。
暖かい湯気を立ち昇らせるカップの一つをリョウに差し出し、「休憩」と微笑んだ。
それを受け取り、リョウはゆっくりと喉の奥に流し込む。
「リョウはあるの?」
「ないよ。でも……母さんはずっとそうしたいと思っていた」
「リョウのお母さんは召喚師、だっけ?」
「ああ。蒼の派閥の召喚師だった。でも、飼い殺しの状態だったんだ。親父と会うまで」
「え?」
「母さんは派閥の中でも異端な存在で、ただ一人の血縁者を守るために……」
目を伏せ、リョウは小さく苦笑した。
「変な話でごめん」
「いいよ。リョウは子どもなんだから、弱音は吐けるときに吐いちゃいなさい。私が聞いてあげる」
「ありがとう、リプレ」
リョウは胸を叩いたリプレに微笑みんだ。
「酷い暴力を受けていたんだ。それには性的なものもあってね……母さんはおかしくなっていったんだ。それを救ったのが親父。親父も復讐したいって思ったことがあったらしいけど、その頃にはもう復讐なんて虚しいくらいつまらないものだって知ってたから……だから母さんも立ち直れたんだと思う」
「お父さんは悪魔なんだよね」
「ああ」
「復讐って、悪魔もするものなの?」
「親父もサプレスでは異端な生まれだから、天使にも悪魔にもどちらにも属せなかったんだ。ほら、エルエルが言ってただろう?高貴なあの方とかって」
「うん」
「あれは女神のことだ。親父は女神と大悪魔の雑種なんだ」
「雑種って言い方はどうかなって思うけど……そうだとしたらすごい雑種だよね。女神と大悪魔なんて」
「俺はもっと最悪だけどね」
驚いているリプレにくすくすと笑いながら、リョウは自分が何者であるかと言うことだけを省いた。
⇒あとがき
エルエルが言っていた高貴なあの方っていうのは女神でしたー。
あうちっ、またスイマセン。無理矢理な設定で(泣)
リプレと夜会話がないからってまるで夜会話のような終わり方をするのはリプレがママだからです!
20040522 カズイ
20081015 加筆修正
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