031.ジンガ、フラット参入!

「私たち、本当にリョウのこと全然知らないんですね」
 淋しそうにアヤがぽつりと零した。
 フラットに戻ってすぐにリョウは部屋へと運ばれ、今もまだ眠っている。
 アヤたちは帰りを待っていたリプレに淹れてもらったお茶を飲みながら一息ついていた。
 リョウが眠っているため送還されず残っていたエルエルもその席についていた。
「何もかも知ることは不可能だろう」
「それでもあたしたちリョウのこと少しは知ったと思ってたんだよ」
「病気のこととか、本当に人から聞くばっかりで」
「病気?」
 トウヤの言葉にエルエルが目を瞬かせた。
「サプレスで生きるものが病気にかかることなどあり得ない」
「まぁ、人間でもあるって言ってたから、たぶんそれだと……」
「人間?……主がそう言っていたのか?あの気は人ならざるものばかりだったが?」
「え?」
「それに高貴なるあの方のま―――」
 エルエルが何か言うよりも早く、その背後から現れたリョウがエルエルの口を塞ぐ。
「還っていいよ」
 リョウがそう言うと、エルエルはあっさりと送還されてしまった。
「……まったく、お喋りめ」
 エルエルが座っていた席に座り、リョウは欠伸を噛みしめる。
「で、どういう話してたんだ?」
「とりあえずリョウの事だけだな」
「俺の話だけ?……ジンガさんはどうするんですか?」
「あんたみたいな強い奴を前にして戦わないのは格闘家の名折れだぜ!」
 リョウは室内を見回し、レイドとトウヤの姿を探した。
「だそうですよ」
「違うってお前だよ、お前!」
 指まで差され、リョウは溜息を吐いた。
「……なんでですか」
「あんたみたいに不思議な力を使う相手は初めてだ。なんとしてでも勝負してもらうぜ」
「いやです」
「なんでだよ!?俺っちが怖いのか!」
「全然。……俺は強くなんてありません。そう言う理由からです」
 ありがとうとお茶を出してくれたリプレに笑みを浮かべ、のんびり啜る。
「強くない!?強くないって、あんなに強かったじゃないか!」
「……何を持って"強"となすか、何を持って"弱"となすか。それは己の心で決まる」
「は?」
「俺を育ててくれた長老の言葉です。……強いか弱いかは自分の心のあり方で決まる。だから俺は弱いでいいんです」
 お茶を一気に飲み干し、机の上に湯飲みを置く。
「で、結局ここに居つくのか居つかないのかを聞いたつもりだったんですけど」
「居つく!」
「てめぇ、少しは遠慮を……」
「ガゼルは黙ってなさい」
 リプレが麺棒を構えるとガゼルは慌てて口を噤む。
「リョウはどう思う?」
「別にいいよ。ただ……」
「ただ?」
「ストラを教えてくれますか?その代わりでなら組み手くらい相手しますよ」
「本当か!?教える教える!」
「……これからもお金稼いだりするからいいよね」
 一応年長者であるレイドの方を向いて問えば、苦笑しながらもレイドは縦に頷いた。






























夜会話:ソル☆

 キールはハヤトと、クラレットはナツミと、カシスはアヤと。
 オレは、何故か俺のベッドに背を預けて本を読んでいるトウヤだ。
 お前のベッドは向こうだろと心の中で突っ込み、ふうと溜息を零す。
 監視対象のはずの彼はオレを好きだと言った。
 こんなオレを―――
「トウヤ」
「ん〜?」
「……なんでもない」
 本人にその理由を聞いても意味はない。
 トウヤはオレのすべてを知っているわけじゃないし、表面上ですら知らないことが多い……まぁ、それはオレも同じことかもしれないけど。
 オレは監視者であって情を交わすなんてあの人が許すはずがない。
 それに……オレはあの女とは違う。
「……ソル」
 俯いていたオレの顔の前でひらひらとトウヤの手が動く。
「悩みがあるなら屋根の上に行ってごらん」
 優しく微笑んで、トウヤは言う。
 トウヤはどうしてこんなにもオレに優しいのだろう。
 無理にオレに聞こうとしないなんて……
「屋根の上?」
「リョウがいるんだよ。リョウって結構相談しやすいんだよ。あ、でもこれは他の皆には内緒だよ。リョウの負担になるといけないから」
「……なんで俺に教えるんだよ」
「悩んでるって顔してるし、俺に相談したくないみたいだから?……リョウでもだめならキールのところに行けばいいかもしれないけど、今の時間ならトウヤとジンガもいるだろう?」
 そう言えばそうだった。
 オレたちが来た時にパートナーは一緒にいた方がいいだろうとトウヤが提案し、トウヤとキールが入れ替わり、オレとトウヤは別の部屋を二人で使っている。
 ジンガの部屋割の時はジンガ自身が望んだこともありリョウと同じ部屋になった。
 バランスは悪いがトウヤが都合よく言ったなぁと笑っていた。
 ……いやいやそんな昔の話じゃなくて今日の夕飯の時の話だったな、これ。
「じゃあ、行ってみる」
「ああ、行ってらっしゃい」
 くすくすと笑うトウヤに見送られ、オレは屋根の上へと昇った。
 外に梯子が掛けられているが、そっちは怖いので、屋根裏部屋の窓から出ることにした。
 ……高いって。



 屋根の上ではリョウが屋根に背を預けて転寝をしていた。
 上着は戦いで破られたためにリプレが修繕するからと奪われたままらしく、ノースリーブのセーターとその上にベストを着たままのちょっと寒そうな格好だ。
「……色白なんだな」
「ん〜……ソル?」
「起こしたか?」
「別に」
 上半身を腹筋を使って起こし、目を擦る。
 なんだか子どもっぽい動作で見ていてなんか和んだ。
「目、瞑ってただけだし。……なにかあった?」
「あったわけじゃなくて……ちょっと」
「ちょっと?」
「あのさ……トウヤってどんな奴?」
「……自分のパートナーのことを何で俺に聞くんだ?」
「いや、やっぱ忘れてくれ」
「忘れてって……なんでもないって顔はしてないけど?」
 隣に座るように促され、オレはリョウの隣に座った。
「本人には言わないでほしいんだけど、俺、トウヤの腹黒いところ結構気に入ってる」
「……腹黒?」
「結構策士だよね。誘導尋問とかそう言うの得意そうだし」
 それって、うれしそうに笑って言うことなのか!?
「でももっと気に入ってるのは……お父さんみたいなところ」
「トウヤが?」
「落ち着いてどーんって構えてるところがあるだろう?……俺、親父嫌いだから、理想のお父さん像だけどね。トウヤみたいなお父さんが欲しかったな」
「オレだったらヤダな」
「そう。……あ、ソルはね、お母さんって感じだよ」
「は?……誰がなんだと?」
「女々しい」
「めめっ!?」
「言いたいことははっきり言った方がいいと思う。トウヤ、判っててソルが何か言ってくれるの待ってると思うよ」
「だよな。あいつ絶対人の心見透かしてるぜ」
「トウヤには心見透かす能力はないから察してるだけだって。……分かりあえるなら、トウヤとソルは一番いいパートナーになれると俺は思うな」
「……あ、ありがとう」

 リョウって何か……いや、かなり変だ。
 ……んでもって、鈍い。



⇒あとがき
 あー、大好きだー!!トウソル!!!
 ヒロインは天然です。ていうか絶対天然だー!!!!! 
20040516 カズイ
20081015 加筆修正
res

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