030.エルエル召喚

「ジンガ見なかった?」
 翌日、夜の間にマナを吸収して回復したリョウは昼ごろになってようやく広間に下りた。
 先客はガゼルとフィズ。
 そしてリョウの背後から現れたトウヤとアヤがリョウを含めた三人にそう問うたのだった。
「あいつだったら外に出てったぜ。なんだか知らねえけど『宿代を作ってくる』とか言ってたから、仕事でも探しに行ったんじゃねえか?」
 椅子に座ってくつろぎながらガゼルが言う。
「あのハチマキ小僧だったら、繁華街にいると思うわよ」
 ガゼルの横でフィズが言う。
「ハチマキ小僧?」
 確かにあれはハチマキだが、自分よりも年上の少年に対して小僧はどうだろう。
 リョウは微妙な表情を浮かべながらフィズの言葉の続きを待つ。
「この街で一番賑やかな場所を教えてくれって言われたから、あたし、教えてあげたもん」
「……連れ戻してこなくちゃ!」
「おいおい、慌てるようなことかよ?」
 焦るトウヤに、ガゼルはのんきに言う。
 そう言えばそこまで説明はしていなかったなとリョウは二人を見つめながら思った。
「ジンガは、繁華街でオプテュスと喧嘩してたんです!」
「いっ!?」
 それを聞いて、流石にガゼルは椅子から転げ落ちそうになりながら驚く。
「だから、間違いなくジンガに仕返しに来るに決まってる!」
「あのガキ……そこまで面倒かけさせるかぁっ!?」
 トウヤとアヤが走り出し、ガゼルもそれを追いかける。
「俺はどうしようかな」
「レイドたち連れて行ったら?」
「……それもそうだ。フィズ、ここの守りは頼んだぞ」
「まかせてよ!」
 家にいるほうがいいということが、以前のことでわかったのか、フィズは了解というように頷いた。
 リョウは満足そうに微笑むと、フィズの頭を撫でて広間を出た。



 レイドとエドス。
 そしてトウヤとアヤの相棒であるソルとカシスにも声を掛け、残るハヤトたち四人には念のためフラットを任せて繁華街へと向かった。
「いたよ!」
「あのバカ!」
 カシスとソルが声を発する。
 人垣を掻き分けて、リョウを先頭に五人は進む。
 その先にはジンガの前に三人、ガゼルの前に二人のオプテュスのメンバーが武器をそれぞれ構えており、トウヤとアヤの前にはバノッサが余裕の表情で二振りの剣を手にしていた。
 トウヤはバノッサの剣戟を抑えるかのように長剣で応戦し、アヤはそれを補助するようにシルターンの召喚術を使う。
 ガゼルは軽い身のこなしで二人からの攻撃を避けているが、中々反撃に移れないようだった。
 ジンガは三人を相手にしても引けを取ることはなかったが、本の僅かな油断を彼らが逃すはずがなく、死角から男の一人がジンガに斬りかかる。
 リョウは素早くそれに反応し、男の剣を片手で払い、あいている右手で男の腹部に突きを一発与えた。
「ぐっ」
「リョウ!?」
「気をつけてくださいよ」
「ああ!」
 トウヤとアヤの方を向けば、レイドが援護している。
 ガゼルの方はエドスが応援しているだろうし大丈夫だろうと、リョウはジンガが相手にしていたオプテュスのメンバーに攻撃の手を向けた。
―――ツキンッ
「!?」
 ふいに攻撃もなにも受けていないはずの右腕が痛むのを感じた。
 その一瞬が命取りだった。
「だぁ!」
「ぐっ」
 気絶していた男が起き上がり、リョウの背中に剣を向けた。
 急所は外れているが、大怪我であることに変わりはない。
「リョウ!」
 ソルが慌てた表情で崩れ落ちるリョウに駆け寄る。
 リョウに剣を向けた男はジンガの手によって再び地に落ちた。
「……大、丈夫だ」
 マナを補給しておいて良かったと状況はひどいのに冷静な自分に気づく。
 背中がひどい熱を伴った痛みを訴える。
「あー、もう!なんで俺は機属性なんだ!!」
 苛立ちながらどうすることも出来ずに居るソルに安心させるように笑みを向け、リョウはポケットからサプレスのサモナイト石を取り出した。
「おい、まさか召喚術を使う気じゃないだろうな」
「あー……大丈夫大丈夫」
「大丈夫って……」
 ソルの言葉を最後まで聞かず、リョウはサモナイト石に意識を集中させ、サプレスの門を開いた。
(プラーマ以上の……)
 詠唱するのも面倒くさくなり、意識だけでその存在に呼びかけた。
 光がはじけ、荘厳な天使―――エルエルがその姿を現した。
「……貴様がここまで弱っている姿を見ることになろうとはな」
 エルエルはリョウの姿に憐憫の表情を浮かべ、そっと傷口に触れる。
「……ありがとう」
「お前は……」
「……すー……」
 エルエルは目を見開くが、言葉が紡がれるよりも早くリョウの意識が落ち、エルエルは溜息を吐いた。
 戦いはすでに終止符が打たれており、皆のんきに寝息を立てたリョウに脱力感を覚えた。
「えっと、あなたは何と言う召喚獣さんですか?」
 アヤが首を傾げ、エルエルに問う。
「私は大天使エルエル。この者に呼ばれた眷属だ」
「眷属って、リョウは悪魔なんだろう?」
「確かにこの者は彼の大悪魔の眷属。しかし同時に我らの眷属でもある。今この者を癒していて気づいた。あの異端児に魂が酷似しているので騙されたが」
 苦笑を浮かべたエルエルはそっとリョウの身体を抱きあげた。
「この者を休ませたい。何処へ行けばよい」
 エルエルがそう言うと、はっとして全員が"フラット"と答えたのだった。



⇒あとがき
 ハチマキ小僧……ゲーム進めながらさらっと流しかけました。うふふ。
 ちなみに今回初登場なエルエルはいろいろ長い付き合いになる予定です。
 ある種護衛獣のようなものだけど、護衛獣ではありません。護衛獣は奴らです(笑)
20040516 カズイ
20081007 加筆修正
res

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