029.ストラ

 のんびりとお茶を啜るリョウの目の前では、少年がガツガツと出された食事を端から胃袋に収めていた。
「……名前」
「んあ?」
 口に食べ物が入ったままの状態で少年が顔を上げる。
 ちょうど部屋の外で何か話をしていたフラットの面々が部屋へと入ってきた。
「聞いてませんでしたから。俺はリョウと言います」
「そう言えば自己紹介がまだだったよな。俺っちの名前はジンガ。武者修行の旅をして東から来たんだ」
「武者修行ですか……」
「なぁ、リョウ」
「はい?」
「迷惑ついでって言ったらなんだけどよ……ここに泊めてくれねえかな?」
「はぁ……」
「えへへ。本当言うとさ、俺っちあんまり金を持ってなくて。なあ、頼むよ。掃除でもなんでもするからさぁ」
「最年少の俺に言わないでほしいんですけど」
「そう言う問題じゃねぇだろう!」
 横からガゼルが口を挟む。
「おいチビ、お前にゃ遠慮ってものがないのかよ。金がないのはこっちだって同じなんだ。見りゃわかるだろ!?」
 遠慮なくガゼルがジンガを批難する。
「……ガゼルも十分チビじゃ」
「るせぇ!」
 リョウの呟きにガゼルが吠える。
「いいか!?そう言うことだからさっさと出てけっ!!」
「ちょ、ちょっと。何もそこまで言わなくたって……」
 あまりにもひどいガゼルのもの言いに、リプレが止めに入る。

「……ねえちゃん、ちょっとそこに座ってくれよ」
 ガゼルの不機嫌そうな声音に黙っていたジンガがリプレにそう言う。
「え?」
「おいっ、人の話を聞いてんのか!?」
「わかってるって!だからちょっとだけ待ってろよ」
 ジンガはガゼルを押しとどめ、手近な椅子に座ったリプレに視線を向ける。
「こ、これでいいの?」
 不安そうに尋ねるリプレにジンガはこくりと頷く。
「目を閉じて、息を楽にして……」
 言われたとおりにリプレは目を閉じ、息を楽にする。
 自然と身体の力が抜けるのが傍から見ていてわかる。
「ハアァァァァ……!」
 リプレの両肩に手を当ててジンガが大きく息を吐き出すと、青い輝きがジンガの手から溢れ、リプレの方へと向かう。
「!?」
「……あれ?あれっ、あれれっ!?」
 リプレが驚きの声をあげる。
「肩こりが……治っちゃった……」
 不思議そうに肩に手を当てて、リプレはジンガを振り返る。
「ほう、ストラか」
「ストラ?」
 感心するように呟いたレイドの言葉をリョウは反芻した。
「身体の治癒力を高める医術だよ」
 知らなかったというようにソルがリョウを見る。
 リョウは知らないこともあるのだとソルの視線から逃れるように目を反らした。
「えへへ、うまいメシを作ってくれたお礼さ。金の代わりにならないだろうけど、勘弁してくれよな」
「そんなことないって!ありがとう、すごく楽になったよ」
 リプレのお礼の言葉ににっと笑うと、ジンガは部屋を出て行こうとする。
「そんじゃな!」
「あ、ちょっと……」
 ハヤトが慌ててジンガを引きとめる。
「なあ、ガゼル……?」
 そして恐る恐る願うようにガゼルの名を呼ぶ。
「だめだだめだっ!俺は断固反対だ!」
「せめて今日だけでもさ」
 ハヤトが食い下がる。
 他の四人よりもどこか必死な様子に見えて、リョウは目を瞬かせた。
「いいじゃない、泊めてあげようよ」
「うっ」
 リプレが言うとガゼルは詰まったような唸り声を発した。
「文句ある?」
 やはりガゼルはリプレに勝てないようで、リプレの勝ちが見えた。
 だがそれでもまだ反論したそうなガゼルを横目に、リプレはリョウに声を掛ける。
「ねぇ、リョウはどう思う?」
「別に余裕がないわけじゃないからいいんじゃない?」
「決定ね。ガゼルよりお金を稼げるリョウが言うんだから決定!」
「なにぃ!?」
「なにしたんだ?リョウ」
「ストレス発散を兼ねてちょっと野盗退治にね」
 レイドの言葉に、散歩に行って来たとでも言うようにリョウは軽く言った。
「今日だけで10万バーム以上も稼いだのよ?しかもそれで一部って言うんだから!」
「……お前、本当に強いんだな」
「地の利だよ。それに、バノッサより弱かったしね」
 のんびりと言って、リョウは欠伸を噛み殺した。
「眠いのか?」
「ちょっとね。……昨日寝過ぎたからかな?」
 リョウは首を動かして眠気を取った。



⇒あとがき
 お金を稼ぐとガゼルよりも立場が上になる。
 これフラットの鉄則(笑)
 ゲームプレイし始めても未だに通貨の重みがいまいちわからないので金額適当☆
20040515 カズイ
20081006 加筆修正
res

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