027.お金稼ぎ
午後から武術指南と決めて、リョウはフラットを後にしたのは太陽がある程度昇ってからだった。
そしてそろそろ太陽が真上に昇ろうとしていた頃には、見つけた野盗のアジトを壊滅させていた。
この野盗のグループはこの辺りでもそれなりに古株だったらしく、大きなアジトにはコレでもかというほどの宝を蓄えていた。
しかしボスの強さはバノッサほどでもなく、リョウはあまりのつまらなさにため息を最後には吐く嵌めとなった。
ちなみに召喚術は一切使っておらず、素手であっさり気絶させられた野盗たちを動けないように、でも面倒なので数人ずつ縛ってからリョウは宝を漁っていた。
「押収した方が賞金貰うよりも絶対高いよなぁ」
そうぼやきながらものんびりと現金だけを集めて袋に詰める。
ふと、外からの気配を感じ、リョウは袋の紐を縛り、顔を上げた。
壊滅させられたアジトを歩くにしてはやけに悠然とした足音の主たちは、野盗の仲間ではなさそうだ。
騎士団が野盗の討伐に来たと考える西手はあまりにも数が少なく、統率性にやや欠ける。
「―――おいおい、こいつはどうなってんだ?」
宝物庫の入り口から発せられた声の主をリョウはじっと見る。
「俺が潰した」
強そうではあるが、彼もまたリョウの敵ではなさそうだ。
金もある程度は手に入ったし、これ以上の欲は必要ないだろう。
「お前みたいなひょろっこいガキがか?」
「ガキで悪かったな。あんたたちは?」
「俺はローカス。サイジェントで活動している義賊のリーダーだ。こいつらはその仲間」
ローカスと名乗った男は後ろの男たちを簡単にそう説明した。
「今日はこのアジトに狙いを定めてたんだが、お前に先を越されたって訳だ」
「あぁ、野盗の賞金目当てなら勝手に持って行っていいぞ」
「いいのか?」
「必要な分は現金で頂いた。コレくらいあれば当分は養っていけるはず」
「スラムのガキか」
「世話になってるだけだよ。仕事もないし、賞金ででも稼げればどうにかなるかと思ってね。あんたたちが義賊って言った言葉を信じて野盗は任せる。ってことでこれは持って帰るよ」
袋を抱え、リョウはローカスの横をすり抜けた。
「おい、お前……名前は?」
「―――リョウ」
振りかえらずに告げ、リョウは一旦止めた足を進めた。
* * *
「ただいま」
フラットに戻ると、机の上にはリョウの分の昼食がよけられて置かれているだけで、後は綺麗に片づけられていた。
「……遅い」
「ごめん」
麺棒を片手にリョウを睨んでいるリプレにリョウは冷や汗をかきながらも部屋へと入った。
「まったく、どこに行ってたの?」
「ストレス発散と金稼ぎ」
現金の詰まった袋を机の上に置くと、リプレはその中身を確かめる。
「ええ!?」
「いただきます」
大きな声で驚くリプレを横目に、リョウは両手を合わせて昼食に手をつけ始めた。
「ちょっと、なにしてきたの?」
「賞金がかかってる野盗のアジトに乗り込んできた。ちなみに賞金首たちは一緒にいたやつらと山分けってことであげた」
パンを千切って口の中に放り込む。
「それにしても……また……すごい金額」
「俺も驚いた。バノッサよりも弱い奴らばっかりなのに金は結構集めてたみたいだから」
「ふえぇ……」
「使い道はリプレに任せるよ」
リプレは力なく頷いてもう一度袋の中身を確認する。
しばらく固まったままのリプレの横で、リョウは再び両手を合わせた。
「ごちそうさまでした」
「あ、リョウ、おかえり!」
「リョウだ!」
「……おかえり」
「ただいま。アルバ、フィズ、ラミ」
子どもたちに声を掛けると、リョウは重ねた食べ終わった食器を片手に頭を抱えたままのリプレの肩をポンと叩いた。
「がんばれ、リプレママ」
くすくす笑いながら台所のほうへと向かうと、はっとしたリプレが慌てて子どもたちに袋を隠しながら何かを話し始めていた。
そのまま部屋を後にしてリョウは自分の部屋へと向かった。
部屋に入ると隣の部屋にいると思っていたキールとソルの二人が部屋で本を読んでいた。
「トウヤたちは?」
「買い物に行ってるよ。……お前の帰りが遅いから」
キールは視線を反らすように本へと視線を戻し、変わりにソルがそれに応えてくれた。
一昨日のことをソルには話していないのか、ソルは不思議そうにキールをちらりと一瞥していた。
おそらくあの話は自分の胸の中に留めておく気なのだろう。
自分がトウヤたちに何も言わないのと同じように―――
「そっか。……じゃあ少し散歩してこようかな」
「あんまり遅くなるなよ」
「わかってるよ。四人が先に帰ってきたら素振りしててって伝言よろしく」
「わかったよ」
ソルが頷くのを見てから、リョウは再びフラットを後にした。
⇒あとがき
押収したとはっきり言わないのはリプレママが怖いからですかねぇ……
とりあえずローカス登場です☆
20040515 カズイ
20080810 加筆修正
→