025.脅迫?
「リョウ、起きてるかい?」
遠慮がちに部屋に戻ってきたキールがリョウにそう聞いてきた。
どうやらあの後また寝入っていたようで、部屋の中にはリョウ一人だった。
入っていたキールも一人だった。
「起きてるけど、どうかした?」
「昼食」
そう言って手に持っていたお盆をキールは軽く持ち上げた。
それを見てリョウは身体を起こしてそれを受け取った。
「あのさ」
昼食に手を伸ばしたリョウに、遠慮がちにキールが話を切り出した。
「ん?」
「花見って何をするんだ?」
「は?」
リョウは思わず千切ったパンを口に入れる手を止めて眉間に皺を寄せた。
思わず首を傾げたくなったが、キールは本気で聞いてきていた。
「なにを、と聞かれても……花を見て風情を楽しむこととしか……」
「なんだ、そんなことなんだ」
「……どんなものだと思ってたんだ?」
「全然想像できなかったよ」
「そうか」
苦笑して肩をすくめるキールに、リョウは適当に返事をして食事を再開した。
「……リョウは、僕たちのこと聞かないんだね」
「聞いてほしいのか?」
「そういうわけじゃないけど……」
「俺は四人よりもこちらの知識がある。だから、あの儀式がなんのために行われたのか、それくらい予想を組み立てることはできる」
キールは視線を落とし、真っ直ぐ射抜くリョウの視線から目を逸らした。
どうやら答える気はなさそうだ。
だが不安がキールの身体に纏わりついているのがよくわかる。
最初にこの世界にたどり着いたときに見たあのおびただしい数の死体。
だがあの死体は確認するため戻ったときには無かった。
おそらくあれを埋葬したのはキールたちだろう。
それを含めての不安は、同時に恐怖と絶望が垣間見える。
「少なくとも、害がないうちは黙認するつもりだ。俺は、召喚師と言う人種が花見もろくにしたことのないようなつまらない人種だと知っているからね」
キールが放つ不の感情はリョウが望もうと望むまいとリョウの元へとやってくる。
弱った身体はこれ幸いとそれを吸収してしまい、リョウはふうとため息をついた。
「悪い。リプレに食べきれなかったって言ってくれるか?」
キールに半分も残してしまった昼食をつき返し、キールに背を向けて布団の中に潜り込んだ。
お盆を持ったままのキールは微動だ時もせずじっとベッドを見つめている。
考え事をしているのか、様々な感情がキールを取り囲んでいる。
視線と共にその感情が嫌でも流れ込んでくる。
リョウはそれに出来るだけ気付かない振りをして目を伏せた。
どれくらいの時間がたったのかは判らないが、しばらくしてキールが意を決して口を開いた。
「君は、悪魔なんだよね」
いきなりそこから来るかと思いながら、リョウは目蓋を上げた。
「四分の一な」
「?」
リョウは再び上半身を起こし、キールの目を真っ直ぐに見詰める。
「俺の祖父がそうだった。だから四分の一だ。……悪魔だからとか言う理由で召喚師、いや、人間を殺すなんてことはしない。俺は人の醜さと同時に温かさも知っているから」
キールはほっと胸を撫で下ろした。
サプレスの召喚師であるが故の恐れがあったのだろうか。
だがそれを汲み取り、優しい言葉をかけるという考えを今のリョウは持っていない。
「キールたちに関しては話は別だ。……妙な動きをするなら、俺が躊躇せず―――殺す」
殺気を孕んだ威圧にキールが目を見開く。
まるで蛇に睨まれた蛙よろしく額に玉のような汗を浮かべ、そのままの状態で硬直する。
「悪魔として人を殺したいとは思わない。だけど、人は人として人を憎み、殺すことは出来る。―――俺は人でもあるということを忘れるな」
終わりだと言うばかりにリョウは布団の中へと再び潜り込んだ。
「……生きている限り、人には不の感情が生まれる。それが生きている証拠でもあるから。……だけど今の俺にとってはそれは苦痛なだけだ。さっさと出て行ってくれないか?」
なんとなくリョウの言葉から察したのか、キールははっとして部屋を出て行った。
その足はようやく動き出したとばかりに早かった。
仲良くしようと考えている皆には悪いと思ったが、自分ひとりは警戒心を持ったままで居たほうがいい。
リョウはそう考えながらゆっくりと目蓋を閉じた。
⇒あとがき
こわーい!!!
でも第一章の間は悪魔&小悪魔な性格って設定があるので!!
20040513 カズイ
20080310 加筆修正
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