024.趣味特技
「君は召喚術を知ってるんだね?」
「一応ね。だから四人にはほんの触りだけ話して実際に数回経験させてる。基礎知識だなんだって言ったところでナツミも新堂さんも逃げ出しそうだからね」
「言えてる」
トウヤに同意され、ナツミは即座に視線を逸らし、ハヤトは苦笑を浮かべる。
「召喚術は四人が教えてあげてよ。あ、でも四人とも詠唱の必要はあまりないよ」
「断言するだけの理由があるっていうことか?」
「まぁね。四人に確実性を求めるために詠唱を教えてみたけど、ナツミと協力召喚してわかった。最初のうちから簡略な詠唱でも事足りるよ」
不審気に問うソルにリョウはこくりと頷き、説明を付け足した。
「一つ聞いておきたいんだけど、君はどうして召喚術を?蒼の派閥は箱庭的に術を教えるし、金の派閥は世襲制。外道召喚師だとかに教えてもらった口なら一緒に習ったほうが……」
「母さんは蒼の派閥のモノだった。子どもの俺がそれを知っていておかしいか?」
「そういうことなら納得できます」
クラレットが纏め、キールも頷く。
今リョウたちがいるのはトウヤの部屋だ。
ペア同士同じ部屋がいいだろうということで、トウヤが部屋を移動し、元々トウヤが使っていたベッドは今はキールが使っている。
だが一日の大半はこの部屋でキールたち四人は固まって集まっている。
「ふあっ……」
「もしかして眠い?」
「眠い」
「病み上がりだししょうがないんじゃない?」
ナツミがフォローする。
どうやら原因不明の病だとでも思っているのだろうか、少々暗い雰囲気と共に皆が口をつぐむ。
「とにかく、俺は召喚術を知ってるから、四人に教えてやって。戦い方は暇なときに俺が教えるからそのときだけ時間教えて」
「ああ」
「じゃあ、戻る」
眠い目を擦りながら立ち上がると、ふらふらとしながら部屋を後にした。
隣である自分の部屋へとたどり着くと、ベッドにぽすん沈み込む。
「……ねむぃ」
重い瞼をゆっくりと落とし、静かに寝息を立てた。
* * *
「リョウ!」
不意に感じた重みに、リョウは眉を顰めた。
「ナツミ、重い」
目を開けてよく見ればナツミだけではなくアヤまでリョウの上に乗っていた。
「……アヤまで乗れば重いよね……たしかに」
リョウの気持ちを代弁するようにトウヤがのんびりと言う。
「もう大丈夫なのか?」
ハヤトの気遣いの言葉にリョウはその体勢のまま思わず目を見開く。
「俺、新堂さんに風邪移してしまいましたか?」
「違う!……心配されてるんだから素直に心配されろよな」
実はレイドに諭されたからだとは口が裂けても言えないハヤトである。
そうとは知らないリョウはアヤとナツミの二人が退くのを待って、上半身を起こした。
「どうかしたのか?」
「クラレットたちの歓迎会をかねて、花見をすることになったんです」
「へぇ……って、もしかしてこれからか?」
「ううん。リョウの体調を見てから決めようと思って」
「まだ身体だるいし、行きたいなら皆で行って来てもいいよ」
「「リョウもいなくちゃだめ(です)!」」
「……んー、じゃあ明日にしてもらえるかな?」
「そうでなくっちゃ!」
喜ぶナツミとアヤに、リョウは口元に小さく笑みを作った。
「そう言えばあたし達、リョウのことあんまり知らないことが今回発覚したんだよね」
「なに?突然」
「だから、少しお話しよう!」
「別にいいけど、なにを話せばいいんだ?」
「ここは妥当に趣味、特技とかじゃないかな」
「ってそれは自己紹介だろう」
にこりと微笑んで言うトウヤにすかさずハヤトが突っ込みを入れた。
「いいんじゃないかな?僕らはそう言う過程をすっとばした付き合いをしていたからさ」
「うんうん。後好みのタイプとかも是非」
「……なんで」
首を傾げるリョウにナツミは笑って誤魔化した。
「じゃあまずは趣味からと言うことで」
「趣味か……喧嘩?」
「もっとまともに答えようよ〜」
それ趣味じゃないよと流石のナツミも突っ込みを入れた。
「う〜ん……じゃあ、読書と彫刻で」
「読書はわかるけど、彫刻ってなんで?」
「うちに住んでる一人に時々教わってるんだ。岬越寺秋雨って言うんだけど知ってるかな?」
「「え!?」」
驚いたのはアヤとトウヤだ。
案の定ナツミとハヤトはなんのことだか判っていないようだった。
「伝説の名工・岬越寺秋雨!?」
「一緒に住んでるって、彼は格闘家なのか?」
「柔術に秀でてる人だよ。多分うちじゃ彼がまともな方……だと思う」
自分を含めて非常識すぎる人たちばかりの中でだと言うことは言うべきか言わざるべきか。
まぁいいかとリョウはそこを省いた。
「次は特技ね」
話がわからなかったのがつまらなかったのか、ナツミがずいっと前に顔を出しながらそう言った。
「特技か……」
「ないの?」
「ないことはないけど……ピアノと雅楽……意外、かな?よく言われるんだけど」
不安そうに言うリョウに四人とも首を横に振った。
「第一印象があれだったし、今までのこと含めたらちょっと想像は出来ないけど」
「そうですね。でも、ピアノですか……私はエレクトーンでしたけど、ナツミは習ってましたよね」
「うん!……ま、すぐやめちゃったんだけどね。トウヤとかは?やったことありそうだけど」
「残念ながら音楽関係は聞く方だよ」
トウヤはわざとらしく肩をすくめて見せる。
「ハヤト……はやってなさそうだよね」
「勝手に決めるなよ」
「ええ!?」
声に出して驚いたのはナツミだけだが、言ったハヤト以外は皆目を丸くした。
「ハヤトがピアノをやってるなんて初耳なんだけど」
「習ってるって言ってもピアノは母さんが教えてくれてるから特にいつがレッスンなんて決めてないからな……発表会とかも出たことないし」
「ピアノはってことは他にも何かしてるんですか?」
「まぁ、かじる程度にな」
ハヤトは曖昧に言葉を濁した。
「って、俺の話よりリョウのことだろ」
「はっ、そうだった!ね、ががくって何?」
「雅楽って言うのは簡単に言ってしまえば日舞のことだよ」
「それならわかる!」
「一般的な日舞じゃなくて宮廷の祭祀に奉納される舞のことをさすんだ」
トウヤの台詞にリョウは補足を加えた。
「ってことは踊るほう?」
「踊りもするし、演奏もするよ」
「へぇ、マルチだね」
「興味が湧いたんだよ」
「演奏はどの楽器を?」
「竜笛だよ」
リョウは枕もとに畳んだまま置いていた学生服のポケットから赤い和柄の布に包まれた竜笛を出した。
「この前も思ったけど、ポケットに色々持ってるんだね」
「まぁ、適当にね」
「ねぇねぇ、これ吹いてもらっていい?」
「花見のときにね」
目を輝かせるナツミに苦笑しながら、リョウは再び竜笛を学生服のポケットへと戻した。
⇒あとがき
ははは、習い事なんてお堅いもの忘れちまったぜよ!
趣味などの設定は私の趣味という意味もあるんですけど、雅楽は後からいろいろ役立つので。
20040513 カズイ
20080809 加筆修正
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