022.来客

「悪いけど、先に休む」
 夕食もそこそこにリョウは席を外し、リプレに心配させまいと最後に笑みを浮かべて部屋を後にした。
「どうしたのかしら、リョウ……」
「サプレスの召喚獣らしくマナの補給でもしに行くんじゃないかな」
 さも当たり前のように口にしたトウヤに、キールたちは食事する手を止め、目を見開いた。
「一緒の世界から来たんじゃないのか!?」
「元はリィンバウムの人だったって言ってたよ。ね、アヤ」
「そうですね。なにがあったのかは詳しくは知らないのですが、私たちの世界に避難していたそうですよ」
「僕たちに巻き込まれたとかって言ってたな」
「ま、とにかく俺たちよりこっちお世界に詳しいのは確かだな」
 ナツミたち四人の言葉にキールたちは少し考える様子を見せたが、すぐに食事に戻った。

  *  *  *

「すみません」
 食堂まで届く女性の声と、ドアを叩く音が夕食後話の途切れたフラットに大きく響いた。
「お客さん?」
 首を傾げながら、リプレが立ち上がり、玄関へと急いだ。
 気になるのか、ガゼルがその後を追っていった。
 リプレが玄関をあけると、そこにはオレンジ色の髪の少女が立っていた。
 その一歩後ろには表情を引き締めた金髪の少女見間違ってしまいそうなほどの少年が立っていた。
「夜分遅くに失礼致します」
 ぺこりと頭を下げた少女の、二つに結わえた髪がさらりと肩を滑り落ちる。
 するとその後ろにいた召喚獣がふわふわと飛んでいるのが見えた。
「何者だ、てめぇ」
「私は帝国軍陸戦第四部隊隊長アリーゼ・マルティーニと申します」
 柔らかな笑みを浮かべているが、その肩書きから少女の地位がかなり高いことが伺える。
「こちらは部下のイオスと、私の友達のキユピーと言います」
 軽く頭を下げるが、警戒心を決して解くことは無い。
 反対にキユピーと言う召喚獣は楽しそうに「きゅぴ〜」と鳴いていた。
「帝国の軍人が何の用だよ!」
 ガゼルの大声に子どもたち以外が玄関まで出てきた。
「薬を届けに来たんです」
「薬?」
 リプレは首を傾げ、振り返った。
 この家に薬が必要となるような人はいないはずだし、帝国に知り合いがいるような人もこの中にはいないはずだ。
「えっと、間違いじゃないんですか?薬が必要な人なんてここにはいないし……」
「押し売りかよ」
「こんな汚いところ、誰が来たくて来るか」
「イオス、言葉が過ぎますよ」
「失礼致しました、アリーゼさま」
 やんわりと注意され、イオスと呼ばれた少年は黙り込んだ。
「私はサイジェントの南スラムにあるフラット―――つまりここだと言われてきたのですが、それに間違いはありませんよね」
「確かにここはフラットですけど……」
「では、リョウと言う子はいますか?」
「います。ちょっと待っててくださいね。ガゼル、呼んできて」
「なんで俺が」
「いいから行く!……とりあえず居間にどうぞ」
 リプレはアリーゼたちを中へと招き入れ、席を勧める。
 アリーゼの後ろに立ったイオスもアリーゼに言われて大人しくアリーゼの隣に座った。

「薬ってことはリョウ、どこか悪いんですか?」
 リプレはアリーゼとイオスの前にお茶を出す。
「ありがとうございます。……悪いわけではありませんよ」
「え?じゃあ……」
「おい」
 リプレの言葉を遮るようにガゼルが部屋へと現れた。
「リョウのやつ会いたくないって」
「そうですか。この手だけは使いたくなかったんですけど、しょうがありませんね」
 アリーゼは苦笑を浮かべ、ガゼルへと身体を動かした。
「あなたのお母さんの親友から頼まれたと伝えていただけますか?」
「リョウのお袋の親友な。へいへい」
 ガゼルは再びリョウの部屋へと向かう。
 訝しげな視線がアリーゼに向かうが、アリーゼは気にせずにこにことお茶をすする。
「先生たちに教えてあげたいお茶ですね。何のお茶でしょう?」
「アルサックティーよ」
「アルサック……へぇ……サイジェントの特産かなにかですか?」
「そう言うわけじゃないの。……その、手作りだから」
 リプレはふふっと笑い恥ずかしそうに付け足した。
「分けていただけないでしょうか。あ、その分の御代もきちんとお払いします!」

 女であると言う共通点からだろうか、二人は妙に盛り上がり始めた。
 イオスは少し疲れが出てきた気がして溜息をついて二人を眺めた。
「ん?」
 ふと視線を感じ、斜め後ろを向く。
 そこにはぬいぐるみをしっかりと抱きしめたラミがじっとイオスを見ていた。
「おねえちゃんも「ぐんじん」さん?」
 不意にアリーゼも沈黙した。
「どうかしたの?」
 リプレは不思議そうに首を傾げる。

「僕は女じゃない!」

 びくっとラミが肩を揺らし、アリーゼはすぐさまイオスの頭を軽く叩いて席を立った。
 じわりと瞳を潤ませるラミの傍へと向い、座り込んでラミに視線を合わせて微笑んだ。
「ごめんなさい。イオスはいつも間違えられていて気にしているんです。それに今いろいろあってピリピリしてるんです。許していただけますか?」
「……うん」
「ありがとうございます。お名前を聞いてもよろしいですか?」
「ラミ」
「そう、ラミさんですか。私も昔引っ込み思案でなかなか喋れなかったんです。ラミさんもお話苦手ですか?」
「ちょっと……」
「そうですかぁ」
 ほのぼのとした雰囲気を醸し出しはじめた二人に呆れながら、ガゼルが戻ってきた。

「会うってさ。なんか謝ってたぞ」
「そうなるだろうとは思ってたんです。……はぁ、帰ったらナップに謝らなきゃ。イオスもついてきてください」
「はい」
「それからリプレさん」
「なぁに?」
「水を一杯いただけますか?ついでに薬を飲ませてきますので」
「わかったわ。ちょっと待ってて」
 リプレが台所の方へと消えていくと、今がチャンス!とばかりにナツミが口を開いた。
「その薬、なんなの?」
 アリーゼは困ったように苦笑を浮かべ、そっと腰に下げた剣に手を添えた。
「リョウがいずれ話してくれます。私が告げてはリョウのためになりませんから」
 戻ってきたリプレから水を受け取り、アリーゼはぺこりと頭を下げて



⇒あとがき
 でた!アリーゼ&イオス。
 これです。これがこの作品に登場する超マイナーカップリングです!!
 ちなみに今の時間と2の始まる時間とでは1年と8ヶ月程度の差があるのでその間にイオスvsルヴァイドが入る予定です。
20040512 カズイ
20070709 加筆修正
res

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