021.母さん、ごめんなさい
ガゼル、レイド、ハヤトの三人が殴られ、蹴られる。
トウヤとリョウの二人は何故か殴られることはなくただ黙ってナイフを向けられていた。
まるで憂さ晴らしのような行為にトウヤもリョウも気分が悪い。
「ねえ、バノッサさん。もうここらでやめにしときません?」
フィズを押さえつけていたカノンがおずおずとバノッサに言う。
「あぁ?」
不機嫌そうに、バノッサはカノンを振り返った。
「僕、こういうの好きじゃないですよ。気分悪いです」
なるべく殴られている三人を見ないようにしてカノンが言う。
「何を言ってやがる。これからじゃねぇか」
「でも……」
「レイド……ううっ、ガゼル……ハヤトっ、あたしが言うことを聞かなかったせいだ」
押さえつけられていたフィズが声を出して泣き出した。
「僕、もうイヤですよ。先に帰りますからね」
「……まあいい、好きにしやがれ」
カノンはフィズを傍らの男に渡すと、リョウたちに背を向けた。
一度だけちらりと振り返って、サイジェントの街の方へと歩いていく。
「さて、と。手前ぇには少しばかり聞きたいことがある」
バノッサはリョウとトウヤに向き直った。
どうやら殴るつもりではないようだ。
リョウはすっとトウヤを庇うように半歩前に出ていた。
「手前ぇ、ひょっとして召喚師なのか?」
リョウとトウヤから取り上げたサモナイト石とケースを弄びながら訊ねる。
ハヤトはサモナイト石を一つしか持っていない。それもポケットの奥に入れているのか持って来てないのかはわからないが、取り上げられておらず、召喚師だと思われていないようだ。
トウヤにとってそれはまだそれほど思い入れのあるものではないだろうが、リョウにとってバノッサの手の中にあるケースはとても大切なものだ。
父の唯一の手がかりへと繋がる、母の忘れ形見であるサモナイト石。
それがバノッサの手の中のケースの中にある。
「お前には関係ないだろう!」
思わず前へと出ようとしたリョウをトウヤが押さえた。
「大有りだぜぇ?もしそうなら、手前ぇらには助かる道があるってことになるんだ」
「!」
「?」
「俺様に召喚術を教えろ。そうすりゃ、今までのことは水に流してやる。さぁ!どうなんだっ!!」
「俺は召喚師なんかじゃない」
「何ぃ?」
バノッサの表情が、ぴくりと動く。
「僕も召喚師じゃない。ただ、別の世界から来ただけだ」
「手前ぇ……はぐれだったのか」
トウヤは思わずリョウを見た。
リョウは何も言わず目を逸らした。
「ひゃははっ!仕えるはずの召喚師に捨てられた、役立たずのはぐれ!こいつは傑作だ!」
リョウはバノッサを睨んだ。
「まあいい。手前ぇが召喚師だろうがなかろうが、召喚術を使えるのは確かだ。……もう一度言う。俺様に召喚術を教えろ」
「お前なんかに教えることなんてない!」
リョウはそう叫んだ後、不意に感じた膨れ上がる魔力に気づき、地を蹴った。
「手前ぇ……!?」
ドンと突き飛ばされたバノッサは言葉を続けることが出来なかった。
強い光がバノッサが居た場所―――リョウを打つ。
ガードをしたとは言え、二人分の爆発的な魔力は大きく、リョウは僅かによろめく。
「「リョウ!?」」
魔力の元であるハヤトとトウヤは驚きに目を見開いた。
「手前ぇ、なんで……」
バノッサの問いに答えず、一瞬むせた後、リョウは未誓約のサモナイト石を拾った。
「―――パラ・ダリオ!」
リョウの呼びかけに答え、パラ・ダリオが姿を現す。
それと同時に黒いものがバノッサやオプテュスの面々を捕らえる。
それを横目に、リョウはバノッサの手から離れたケースを拾いぎゅっと抱きしめた。
「ごめんなさい、母さん」
小さな呟きはバノッサにしか届かず、すぐにリョウはいつもの顔に戻り、トウヤのケースと散らばってしまっているいくつかのサモナイト石を拾い上げた。
「トウヤ」
「ああ」
リョウはトウヤの手の中にサモナイト石とケースを置く。
「帰ろう」
レイドたちにも声を掛け、オプテュスたちのいない岩陰を睨んだ。
「そこに隠れている奴らも出て来いよ」
「ボクたちにも気づいてたんだな」
少し驚いたような小枝が、表情は至って冷静な少年が姿を表す。
その後ろを茶色い髪の少年が姿を現す。
「さっきの声、お前の?」
ハヤトが不思議そうに少年に尋ねる。
「そうだよ。ボクは君に」
「オレはそっちのお前に」
どこか投げやりに茶髪の少年は視線でトウヤを示す。
「お前ら、召喚師だろう」
「召喚師だあっ!?」
「なんだよ、その露骨な敵意は」
茶髪の少年はそう言ってガゼルに顰め面を向けた。
「……ソル」
諌められ、茶髪の少年は口を尖らせて顔を背けた。
「結論から言えば事故だった。君たちを呼んだのは」
「事故!?」
「そう。ある召喚の儀式が失敗して、その結果として君たちはこの世界に呼ばれたと言うわけだ」
「それじゃあ、俺たち巻き込まれたってこと?」
「あー……、そうなるかな」
「悪かったな」
簡潔な言葉に怒ったのは話をしていたハヤトでも、傍観していたもう一人の当事者・トウヤでもない。
もちろん、トウヤ同様傍観していたリョウでもない。
「おい!なんだよそれは!?"悪い"で済む話じゃないだろうが!!」
ガゼルがすごい剣幕で怒鳴る。
「事実だから仕方ないだろう」
むっとした様子でソルが返した。
「落ち着け、ガゼル!」
今にも掴みかかろうとするガゼルをレイドが押さえる。
「事故だというのなら、彼らをすぐに元の世界に戻してくれないか?」
「残念だけど、それは無理だよ」
少年は首を横に振った。
「儀式をしていた召喚師は、皆死んでしまった。僕たちは見習いだったから生き残れたが……」
「それじゃあ」
「そう暗くならないでくれないかな。君たちが帰れるように僕が責任を持って最後まで面倒見るから」
安心させるように少年が微笑むと、ハヤトは少し浮上したようだ。
「じゃあ、僕は君に面倒見てもらうわけだ」
どこか楽しんでいるような笑みを浮かべ、トウヤがからかうように言う。
すると茶髪の少年はびくっと肩を揺らして何故か怯えたような様子を見せた。
「帰る帰らないとか、面倒見る見ないはこの際置いておくとして、名前教えてくれてもいいんじゃないかな?」
「そうだったな。ボクはキール」
「オレはソル」
「のんびりしてていいのかよ」
不意にバノッサが口を開いた。
「手前ぇらのアジトにも俺さまの部下が向かってるんだぜ」
「平気だよ。クラレットとカシスの二人がついてるし」
「誰それ?」
「オレの姉さんと妹」
「ボクから見れば二人とも妹だけどね」
「それでも心配だ。早く帰ろう」
リョウの言葉に全員が動き出す。
途中、リョウはパラ・ダリオを送還した。
⇒あとがき
ようやく、ようやく!トウソルの時代が!!(出会っただけだけど!!)
サモカプのなかで一番大好きです、トウソル!!!
20040512 カズイ
20070604 加筆修正
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