020.ナツミとアヤはお留守番

「にしても、よくアヤとナツミを納得させたよな」
 荒涼とした荒野を歩きながら、隣を歩くガゼルがリョウに話し掛ける。
「簡単だよ。今度釣りに行くときはトウヤの代わりに連れて行くって約束したんだ」
「それだけ?」
「それだけ。保身にシルターンの誓約済みのサモナイト石をナガレ以外に二つ持たせたしな」
「新しく誓約したんだ」
「一応ね。ミョージンとムジナっていう子。効果も簡単に説明して……まぁ、ナツミには怒られたけどね」
「なんで?」
「"あたしにはないの"ってさ」
「あぁ、ありえる」
 トウヤが納得したように頷いた。
 同じ学校だったと言うだけあって、一応ナツミのことをわかっているようだ。

「そろそろ、だな」
 のんびりとリョウが呟くと、見覚えのある岩陰がトウヤとハヤトの目にも映った。
 止めるまもなくハヤトが走り出し、リョウは足を止めた。
「ハヤト!」
 足を止めたリョウに気づかずに、トウヤはハヤトを追いかける。
「……半分か」
 小さな呟きに気づくことができたのはおそらくレイドくらいだろう。
 再び歩き出したリョウは、リョウの呟きに足を止めていたレイドを追い越し、穴の縁で立ち止まった。
 クレーターと魔方陣らしきものの跡。そして燭台。
「ここだ……」
 乾いた風が砂埃をあげ、呆然とするハヤトの髪を揺らす。
「ひゃあ〜でっかい穴ぼこだなぁ」
 ガゼルが呆れたように呟く。
「これだけの地面を抉り取るなんて、人の力じゃまず無理だな」
 レイドが辺りを見回してぽつりともらす。
「これは召喚の術式だ」
 リョウは地面を眺め、眉を寄せた。
 魔方陣らしき図式に使われているのはサプレスの文字だ。
 リィンバウムの文字ではないそれが示すのは、魔王の召喚。大悪魔などではなく、文字通り魔王。
「知っているのか?」
「あ……いや、どうだろうな」
 リョウは込み上げてくる怒りのような感覚を押し殺し、胸ポケットの中にある両親のサモナイト石を生地の上から握り締めた。
「これだけ穴ができる爆発が起きたって割に街の連中が気づかなかったのは妙だよな。振動とか音とか聞こえてきてもいいのによ」
 穴の底を除き見ながらガゼルが呟いた。

「調査のための時間はないみたいだな」

 リョウはため息を吐き出しながら、昨日ポケットへ入れたサモナイト石を取り出した。
「リョウ?」
「なぁ、バノッサ」
「やっぱり気づいてやがったか。だが、手遅れなんだよ」
 バノッサが前方の岩の陰から姿を現し、周りの岩の陰からはオプテュスのメンバーらしい男たちが姿を現す。
 この前のサングラスの男と、青い髪の男も見える。
「わざわざ逃げ場のないところにやってくるとはありがたい話だ。まとめてぶっ潰す!!……と言いたいところだが、この前のこともあるしな。―――カノン!」
「あ、出番ですか?バノッサさん」
 呼ばれて出てきた少年にリョウは目を見開いた。
「そっちの四人のお兄さんには、はじめましてかな?僕はカノンっていいます。一応バノッサさんとは義兄弟なんですよ」
「カノン……」
「また会えましたね、リョウ」
 苦笑を浮かべるカノンにリョウは眉間の皺を寄せた。

「何してるカノン!さっき捕まえたあいつを見せてやれ!!」

 バノッサがカノンに怒鳴った。
「はいはい……。ほら、いい子にしてね」
「いやあぁっ!離してえぇっ!!」
 カノンは後ろ手に縛った一人の少女を連れてきた。
 必死にもがくものの、手を縛られている上、カノンに捕まれて身動きが取れない。
「フィズ!?どうしてここに……」
 少女とは、アジトで留守番をしているはずのフィズだった。
「どうしたもこうしたもねぇよ。お前らの後ろをつけていたのさ、こいつは」
 トウヤとハヤトが目を見開く。
 出かける前に、フィズと話をしていたおは二人だったはずだ。
 おそらくついてくるなと言って失敗したのだろう。
「親切に俺さまたちが保護してやったってわけだ。お礼の言葉一つもねぇのか?」
「保護?てめぇらは、保護した奴を縛り上げるのか?」
「子供を人質にするとは……恥を知れ!」
 ガゼルとレイドが怒りを露にする。
「おいおい、なんだその態度は?カノンはああ見えて力は滅法強いんだ。ちょいっと加減を間違えりゃあ……クククッ」
 バノッサは愉快そうに笑い、カノンを見た。
 フィズの肩がびくりと跳ねたのがわかる。
「そうして欲しくねぇのなら、さっさと武器を捨てやがれ!!」
「……くそっ」
 悔しそうに各々がバノッサにせっつかれながら地面に武器を落とした。
「てめぇもとっととしねぇか」
 リョウも手にしていた未誓約のサモナイト石を足元へ転がした。



⇒あとがき
 サプレスの血が混じってるから難しい文字も読める……よね?
20040512 カズイ
20070603 加筆修正
res

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