018.レイドと手合わせ

 目が覚めたナツミと共にテテを送還したリョウは、慣れない力を使ったことで疲れが溜まったのか眠りについた。
 目覚めて外に出ることもなく、そのまま昏々と眠りつづけ、目覚めたのはいつもと同じ朝の早い時間だった。
 ベッドを抜け出し、リプレを手伝うために早起きしたらしいアヤに挨拶をしてリョウは外へ出た。
 組み手を一通りこなし、リョウは誰かが扉を開く気配に手を止めた。

「おはよう、リョウ」
「おはようございます」
 出てきたのはレイドだった。
 そう言えば一対一でレイドと向き合うのは初めてだと考えながら、リョウは手の甲で汗を拭った。
「本当に朝、早いんだな」
 どうやら誰かに聞いて出てきたようだ。
「昔からの癖なんです。……レイドさんこそ早いんですね」
「私も癖かな」
「そうですか」
 くすくすと笑いながら、リョウはレイドにタオル代わりの布を渡されて受け取る。
「そうやって笑えるのに、ハヤト相手だと喧嘩ばかりだね」
 レイドの言葉にリョウは目を瞬かせた。
「元の世界で仲が悪かったのかな?」
「いえ。ここに来る直前に会ったばかりですよ」
「そうなのかい?仲がよかったからてっきり」
「四人は顔見知りだったみたいなんで」
「そうか」
 レイドは納得したようだ。
「新堂さんは……なんというか、俺ああいう人嫌いで……」
「嫌い?」
「はい」
 レイドは不思議そうにリョウを見つめる。
「何か?」
「リョウ、それは普通苦手って言うんじゃないかな?」
「苦手、ですか?」
 リョウは首を傾げた。
「どうしてそう思ったんですか?」
「うーん、リョウの表情や、今までの二人を見てると"嫌い"と言うより"苦手"と言う気がしたんだけど」
「そうなんですか?」
「私の見解だけどね」
「そう言う見方もあるんですね」
「?」
「なんでもないです。……じゃあ、新堂さんは俺にとって苦手な人ですね」
 リョウは空を仰ぎ見ながらそう呟いた。
 妙な違和感を覚え、レイドは首を傾げそうになったが、考えるのを止めた。
 リョウがなぜか嬉しそうな笑みを浮かべ、それに見惚れてしまったからかもしれない。
「レイドさん、よかったら手合わせしてくれませんか?」
「名前を呼び捨てにして、敬語をなくしてくれたらね」
「!……わかった、レイド」
 ウィンクしたレイドに一瞬リョウは目を見開いたが、すぐに笑みを作り答えた。
 すっとリョウは拳を構え、レイドは腰に下げていた剣を抜いた。










「本当、強いんだな」
 レイドは笑みを浮かべながら呼吸を整える。
 リョウもその隣で同じように呼吸を整えた。
「レイドこそ。しっかりとした型があるよな」
「元は騎士だったからね」
「だと思った。そんな感じだし」
 笑いながら、リョウはよけていたタオルで汗を拭う。
 それはレイドも同じで、二人して笑いながら食堂へと向かった。

 食堂へ入ると、いつも通り寝坊らしいハヤトと、それを起こしているであろうトウヤがまだいないが、全員そろっているようだ。
「おはよう」
「二人ともすごい汗ね」
「手合わせしてたんだよ。な、レイド」
「ああ」
 リプレは頬が上気している二人を見てくすくすと笑い、二人は苦笑しながら席に着いた。
 それと同時にまだ眠たそうなハヤトが、トウヤに引きずられるように入ってきた。
「おはよう、二人とも」
「おはよう。やっぱりリョウみたいに容赦なく起こさないとハヤトは起きないということがよくわかったよ」
 肩をすくめるトウヤにハヤトが怯えたように首を横に振った。
「絶対にんなことすんな!」
「そう言われるとますますやりたくなりますね。大丈夫ですよ、ネタはまだまだありますから」
「やーめーろー!」
 頭を抱えるハヤト。
 一連の会話でようやくしゃきっとしたらしい。
「なにしたんだよ、リョウ」
「家でやってるごく当たり前のことを」
「お前家は鼻や口塞いで起こすのが常識ってか!?」
「少なくともあの家に一般常識と良心って言葉は存在しませんから」
「まぁ、そんな感じだね」
 トウヤが納得を示したことに視線が集まる。
「近所だったんだよ。接点はないけど同じ"道場"だしね」
「トウヤの家は剣道場。俺の家は無差別格闘」
「剣の道を極めた香坂しぐれの道場だし、一応覚えてたんだ」
「ふぇ〜、リョウの家ってすごいんだねぇ」
「ぼろいし、かなり怪しい道場だよ」
「それ僕が言った台詞じゃない?」
「俺も一般常識なんて常識しらない住人ですから」
 苦笑するトウヤにリョウはくすくすと笑ってみせた。
 そうやって盛り上がる二人に、子供たちを除く女性陣が頬を膨らませたのは言うまでも無い。

「そういえば、レイド。ここって釣竿ある?」
 食事の途中、トウヤとリョウは会話を止め、レイドに話を振った。
「釣竿?あるけど……どうして?」
「釣りに行くんだよ。な、トウヤ」
「あぁ」
「どこがどう繋がって釣りに話が行くんだよ」
 レイドと話をしていたガゼルとエドスは首を傾げた。
「俺の家、別荘というか持ち島があって、そこで釣りしてたって話が出たからな」
「釣れるかはわからないけど、行きたいなぁって僕が言ったんだ」
「できるなら大物釣ってきてね!」
「「善処はする」」
 リョウとトウヤは二人よりも意気込むリプレに苦笑しながらそう答えた。



⇒あとがき
 次回、釣り!
 果たして二人の釣果はいかなるものか……
20040511 カズイ
20070525 加筆修正
res

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