001.よくある日常

 ―――梁山泊。
 それは、スポーツ化した武術になじめない豪傑や、武術を極めてしまった達人たちが共同生活をしている場所。

 そこへ数ヶ月ぶりに道場破りが現れた。
 そこまではまったくもって問題はない。
 ここではそんなことは数ヶ月ぶりとはいえ珍しいことではないのだから。
 問題はこの後である。
 その日、その時。たまたま残っていたのはただ一人、中世的な顔立ちに幼さを残した涼ただ一人であった。

 喧嘩100段の異名を持つ空手家・逆鬼至緒はビールを買いに外出中。

 哲学する柔道家・岬越寺秋雨は接骨院で仕事中。

 あらゆる中国拳法の達人・馬剣星は鍼灸院で岬越寺同様仕事……をちゃんとしているかは怪しいが仕事中。

 最強のじじいこと長老は「戦いがわしを呼んでおる」と手紙を残し、北へふらり。

 裏ムエタイ界の死神・アパチャイ・ホパチャイと、剣と兵器の申し子・香坂しぐれの二人にいたってはいつものようにどこかへ出かけている。
 恐らく近所の子ども達と遊んでいるだろう。

 涼の姉である美羽は高校の部活・新体操部で活動をしている最中だろう。
 帰るのは恐らく夕方。まだまだ先のことだ。

「粗茶ですがどうぞ」
 とりあえず客だからという理由でお茶を出したが、道場破りの男は眉を寄せ、涼を睨んだ。
「馴れ合いに来たんじゃねぇんだぞ」
 涼は殺気の篭った睨みもさして気にせず、美羽から教わった通りにノートを相手に差し出した。
「ここに住所、指名と流派を記入してください。あと、これは長老からの注意書きです」
 それは挑戦料に関してのものだ。
 金額によって一人か、全員でかを選べる。もちろん梁山泊側(こちら)は一人だが。
 男は仕方なさそうに二万円を差し出して来た。

 つまり、一度に全員で襲い掛かるということだ。

「岬越寺を指名できるか?」
「……しばらく待っていてください。呼んで来ます」
 涼は席を立ち、家からそう離れていない接骨院に向かう。
 接骨院が暇ならばいいが、涼の記憶違いでなければ今日は忙しくなるとぼやいていたはずだ。
「岬越寺センセー」
 接骨院の扉を開け、声を掛ける。
 来院している患者が一斉にこちらを見る。
 どうやら珍しく盛況しているようだ。
「ああ、涼か。どうしたんだい?」
「お客さんからご指名」
 患者の手前、道場破りという言葉はあえて伏せておく。
「すまないが、見ての通り今日は忙しくてね。涼、お願いできるかな?」
「わかった。適当に片付けてこっちに持って来ても平気?」
「何人くらいだい?」
「十人くらいじゃなかったっけ」
「それくらいなら平気だよ。遠慮なくやっておいで。ああ、半分くらいは馬の方に回すぐらいにしておいてくれると助かるよ」
「了解。じゃ、とっとと片付けてくるね」
 岬越寺に許可を取り、涼は道場へと再び戻った。
「岬越寺はどうした」
 道場破りたちは涼の後ろに岬越寺が見えないことに眉を寄せる。
「忙しいんで俺がバトンタッチしました」
 扉を閉め、涼はつかつかと中に入った。
「ガキが……俺たちを嘗めてんのか!」
「嘗めてませんよ。俺も列記とした梁山泊の一員、若き獅子の異名を持つ立木涼です。岬越寺先生には及びませんが相手にはなりますよ」
 敬語で喋りながらも表情は相変わらず能面としている。
 机を片付け、学ランの上着を脱いでその上に置き、構えを取った。
「さ、そちらから動かれて結構ですよ」
「き、貴様ぁ!!」
 立ち向かってきた男をなぎ払い、関節を外した。
 それを見て向かってきた男たちも関節を外したりわざと動けなくなるツボをついたりして動けなくさせていく。
 時間としては五分も経っていないだろうか。
「……今日の道場破りは時化てますね」
 涼は思わずため息をついた。

「リョウ〜、今帰ったよ」
「……ただい、ま」
「お帰り、アパチャイ、しぐれ」
「ただいまよ」
 しぐれがこくりと頷き、その頭の上でねずみが軽くただいまとでも言うように鳴いた。
「悪いけどこっちからこっちを岬越寺先生のところに、こっちからこっちを馬師父の所に持って行ってくれるか?」
「わかったよ。アパチャイがんばるよ!」
「……どこか、いくのか……?」
「ちょっと散歩。……行ってきます」
 涼はしぐれに返事をし、道場を後にした。
 しぐれも涼の「行ってきます」の意味がわかっていたのですぐに帰って来いよといつも通りには言えなかった。
 梁山泊は元々そういう所だが、涼はその中でもさらに少し特殊だった。
「しぐれ……」
「どうした?」
「リョウ……かえってくるかな?」
「さぁ……アパチャイわかんないよ。……けど、今日も帰ってくるといいなー」
 寂しそうに涼の立ち去った方向を見て、すぐに背を向けて作業に取り掛かった。

  *  *  *

 涼の本名は立木涼。
 姉である風林寺美羽とは苗字が違う。
 それは、涼が幼い頃に梁山泊の主でもある美羽の祖父こと最強のじじいの長老に引き取られたからである。
 物心つく前から美羽の真似をして武術を学び、極めてしまった涼はこれでも生物学上は女である。
 そんな彼女が学ランを着てすごしているのは、単純に女よりも男の方が得をするからという安直な考えからだった。
 昔から少女ではなく、少年に見られることが多かった。
 転校する先々で間違えられているうちに訂正するのも面倒くさくなり、そのまま通したというものぐさな理由もあるのだが。

「おい立木。ちょっと面貸せよ」
 確かこの声は同じ学校の先輩だったはずだ。
 次の言葉が出るよりも早く涼は深いため息をついた。
 人と余り関わりあわないようとした涼だったが、入学早々恐喝をしていた先輩を喧嘩であっさり倒し、先輩たちに目をつけられたのだった。
 振り返れば声を掛けてきた先輩がいた。
 勿論涼と同じ学ラン姿だ。
 違うのは明らかな体格とその美醜位だろうか。
「余裕じゃねぇか、よ!」
 突き出してきた腕を右手で拳を流し、隙の出来たわき腹に左の拳を打ち込んだ。
 道路の端まで飛んだ先輩を大して気にも止めず、涼は道すがら思いついた目的地の公園を目指し、方向転換をした。
「つれなくするなよー」
「あそぼーぜv」
「そーだよ、な?」
 記憶違いでなければ、さきほどの先輩とよくつるんでいる人たちだった。
 彼らがラグナレクの一員だとは知らない涼はただため息をついて構えるだけだ。



⇒あとがき
 書き直してみると改めて不思議な日本語を発見します(笑)
 『史上最強の弟子 ケンイチ』もアニメ化しご存知の方も増えてくれて本当に嬉しさ一杯です。
 友人も結構はめましたしね。うふふ。
 実はこの作品、1・2未プレイ、3途中までの状況で書いています。
 いや、3は弟にED見せてもらいましたけどね。うん。
 意地と根性と皆様の協力でシナリオを探し出して繋ぎ合わせて〜な状況ですのですし、オリジナル要素満点です。
 こんな作品でも沢山の方に付き合っていただければ幸いです。

 ちなみにクラフトソードとか4とかは無視してます。さすがにそこまで入れる気力はございませんあしからず。
20040425 カズイ
20070401 加筆修正
20071221 あとがき追記
res

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