017.異界の友
ナツミの体をベッドに横たえ、リョウは自ら看病を申し出た。
テテも一緒に居るからとアヤをリプレのところへ送り、ベッドの枠に背を預けて座り込んだ。
「なぁ、テテ」
『なんだ?』
音なき声をリョウは理解することが出来た。
発しているのは腕の中のテテ。
これが"魂の記憶"によるもんかとリョウは改めて実感していた。
「俺のこと……知ってる?」
擦り寄るテテの背を撫でながら、リョウは目を細めた。
「知ってるわけないか」
例え前世がメイトルパの召喚獣であっても、必ずしもリョウを知っているとは限らない。
メイトルパだって広いのだろうから。
『サファンだろう?』
当たり前のようにテテは名を紡いだ。
自分の名のようで違う名前にどこかくすぐったさを覚えながらも、リョウは質問を続けた。
「知り合いだった?」
『メイトルパの住人なら誰だって知ってるぞ。今のお前が俺の声が聞こえるほど、サファンの魂は高潔な輝きを持っていたから』
「そっか……」
テテの体を抱きしめ、リョウは目を瞑った。
時折夢見る広い草原の夢。
その夢に限らず、世界は優しくリョウを包み込む。
今この時もそうだ。誰かに抱きしめられているような感覚を覚える。
『今の名前、聞いてないぞ?』
「リョウだよ」
『リョウ。また友達になってくれるか?』
「なる。友達だよ」
リョウはさらに強く抱きしめ、テテに文句を言われながらも涙を堪えるように抱きしめた。
『アモンの力を持っているなら見ていいぞ。俺の過去を』
伸ばされた短い手を躊躇いがちに握り、リョウは意識を集中させるためにもそっと目を閉じた。
――
――――
―――――――
「大丈夫?」
その獣人の女は太陽のような笑みを浮かべ、テテを覗き込んでいた。
濃い灰色の髪を邪魔にならないようにオレンジ色の大きなバンダナで巻いている。
虎型の獣人。テテはその種族を思い出す。
確かフバースだ。
『どうして……?』
「罠にテテがかってるってうちのなまけものが教えてくれたからさ。ちょっとおとなしくしててね?」
女はテテに両手を差し出し、目を閉じた。
彼女が小さく何かを呟くと、金色の淡い光がテテを優しく包み込んだ。
光が収まると、痛かったはずの傷は一切痛まず、テテは不思議がりながらも起き上がった。
あったはずの傷が一切見当たらなかった。
『もしかして、フバースのサファン?』
治癒能力を持つフバースはメイトルパ広しと言えど彼女だけだ。
メイトルパ中の誰もが知っている。
奇跡の力。そして同時に忌むべき異界の力。
テテもその耳に噂を入れたことがあった。
「私たちの村にはサファンは私一人だよ」
笑みを浮かべ、サファンはテテの背に手を伸ばし、その体を起こした。
「群れに帰る前に、あなたを見つけたなまけものに会っていく?」
『なまけもの?』
「あったらわかるわよ」
くすくすと笑うサファンは立ち上がって歩き出す。
どうやら案内してくれるようで、テテはその後を追いかけた。
「なまけものって言うのは私たちの村でのそいつのあだ名。根はいいやつだし、強いんだよ?けどさ働かなくってそれがちょっとね」
肩をすくめ、苦笑すしたサファンの足取りがゆっくりしたものに変わる。
「……寝てる」
呆れたような顔でサファンが見下ろすのは一人のフバース。
なんとなく予想はついていたが、男だった。
「ヤッファ、起きてよ。あんたが拾ってきたテテが目を覚ましたわよ」
「ああ?」
面倒くさそうに、布団を剥ぎ取られたことで転がされたフバースの男は右目を開き、テテに視線を向けた。
「お〜、おやすみ」
「寝るないでよ!」
頬を膨らませ、サファンはその傍らにしゃがみこんだ。
「ごめんね、テテ。ヤッファ―――あ、彼のことね?ヤッファったらいつもこうなの」
『気にしないけど……』
ヤッファと呼ぶ男を力いっぱい抓り上げながら、サファンはすまなさそうにテテに謝った。
「惚れてるやつにこんなことするのこいつくらいだぜ?」
「うるさい!」
顔を真っ赤にしながら、サファンは男の背をぴしゃりと叩く。
「サファンさま〜!」
「あ、呼ばれてる。またあとでね、テテ」
『あ、うん』
手を振って、サファンがその場を離れていく。
『二人は夫婦なの?』
「ちげぇよ。あいつは族長の娘、俺はその幼馴染」
面倒くさそうだったが、男はちゃんと説明してくれた。
『でも二人は好き合ってるんだろ?』
「……あいつには相応の相手がいるさ」
男の顔はどこか寂しそうだった。
⇒あとがき
ヤッファを出しました。
明らかに3への複線をここでちら見せいたしました(笑)
このことがきっかけでテテはヤッファと夢主(前世)とお友達になりました。と今更補足してみる。
20040510 カズイ
20070524 加筆修正
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