015.ポワソ召喚

「そうだ、その前に誓約(エンゲージ)の話をしておかないとな」
「エンゲージ?」
「結婚で交わす?」
「それはエンゲージリング。まぁ、あながち間違いではないよ。エンゲージは誓約。たとえばトウヤはこの石を使ってライザーを召喚した。このライザーはこの石を使えばまたこの世界に来てくれる。逆に言えば、この石でライザー以外を召喚することは出来ない」
「一つの石につき一つの召喚獣ってこと?」
「基本的にはそうなる。若干の例外はあるけど」
「へぇ……」
 トウヤはじっと手の中のサモナイト石を見つけた。
「召喚と対となるのが送還。元の世界に返すこと。ただし、他人が召喚した召喚獣を送り返すことは出来ない」
「その送還って言うのはどうすればできるんだ?」
「来てくれてありがとうって感謝の気持ちを持って、お願いしたらいい」
「ライザー、ありがとう」
「ヴォンッ」
 音を立てながら手をぐるぐると回し、リョウに一度頭を下げてからライザーは姿を消した。

「次、アヤ、やってみる?」
 突っ込まれる前に、リョウは誤魔化すようにアヤに振った。
 咄嗟のことだったためか、アヤは反射的に頷いた。
「トウヤ、サモナイト石をアヤに渡して」
「あ、うん」
 トウヤから渡されたサモナイト石をアヤが受け取り、じっと覗き込む。
「なにか書いてありますね」
「それが誓約の証だよ。読める?」
「いいえ」
 アヤは残念そうに首を横に振った。
「ナツミと新堂さんは?」
「「さっぱり」」
 二人ともが首を横に振った。
「ライザー。だよね」
 トウヤは確認するようにリョウに問うた。
「トウヤ正解。……この様子だと機属性はトウヤだけかな?」
「そういうのってわかるものなの?」
「四人とも魔力が高いし、トウヤが読めるってことは召喚主との誓約の中に文字を読むということが前提にされているのは確実だ。だとしたら他の皆にも読めるはずなんだろうけど、読めないって事は違う属性だと思う。使うことはできないかもしれないけど、今すぐには無理だな。とりあえず、俺が霊属性の誓約をするよ」
 リョウは紫のサモナイト石だけを持って、残りをトウヤに預けた。
 紫のサモナイト石は昨日の召喚が突発的なものであった証に誓約の跡が無かった。

「古き英知の術と、我が声によって今ここに召喚の門を開かん。我が魔力に応えて異界より来たれ。新たなる誓約者、リョウが願う。呼びかけに応えよ。―――ポワソ!」

 昨日見た、ポワソを思い出しながら唱えた詠唱に応え、ポワソが姿を現す。
「か、可愛いです」
「ぴう?」
「本当、可愛い!……ねぇリョウ、さっきの長い呪文みたいなのってなに?」
「詠唱と言って、誓約の際に言葉に乗せることで安全で正確に門を開くことができる」
「じゃあなんでトウヤには詠唱を教えなかったの?」
「皆もそうだけど、トウヤは魔力が高いし、機界の門を開けるって確信があったからね。それに、俺が導くのに詠唱は邪魔だろう?」
「まぁ、確かに」
 納得したところで、リョウはポワソに手を伸ばした。
「昨日はありがとう」
 ポワソは嬉しそうにリョウの手に擦り寄った。
「いいなぁ」
「どっちが?」
 羨ましがるようなナツミにトウヤがくすくすと笑っていった。
「どっちもー」
「……なんの話?」
 ポワソを送還したリョウは眉間に皺を寄せ、ナツミとトウヤに問うた。

「はい」
 リョウは送還したポワソの名前が記されたサモナイト石を三人の前に突き出した。
「読める人。トウヤ以外」
「……読めない」
「読めません」
 ナツミとアヤは肩を落とし、リョウはハヤトに目を向けた。
「読める……なんでだ?」
「そう、やっぱり……」
「リョウ?」
 目を伏せたリョウにトウヤは首を傾げた。
「なんでもないよ、トウヤ。……新堂さん、どうぞ」
「え?」
「あなたが持つべきサモナイト石ですから」
「あ、うん」
 ハヤトはサモナイト石を受け取り、戸惑ったような表情のままサモナイト石を見つめている。
「ポワソ、試しに呼んでみますか?」
「いいのか?」
「一応、そのために渡したんで」
 リョウはハヤトの前に立ち、サモナイト石を持った手に手を伸ばした。
「へ?」
「導きます」
「あ、ああ!」
「……何焦ってるんですか」
「べ、別に!?」
 リョウは暖かくなっていくハヤトの手に首を傾げながらも目を伏せた。
「最初だし、目を閉じてください。……ゆっくりと深呼吸して……そう、リラックスして……」
 ハヤトの体を淡い紫の光が包み込む。
「トウヤのときと違う?」
 ナツミの呟きも耳に入らず、ハヤトはゆっくりと呼吸を整えつづける。
「門を開いて、そう……呼んで」
「ポワソ」
 ハヤトの呟きと共にポワソが現れる。
 現れたポワソはハヤトの頬に擦り寄った。
「はは、できた……」
 ハヤトは驚いたような、嬉しいような、複雑な顔で擦り寄るポワソを見つめる。

「さあ、今度は送還です」
「ああ。ありがとう、ポワソ」
 くるくると回って、ポワソはリョウにまた頭を下げ、戻っていった。



⇒あとがき
 ハヤトだけ違うのには理由があります。
 その理由は想像できるかと思いますが、判明するのはまだ先のことなんで胸のうちにとどめて置いてください。
20040509 カズイ
20070521 加筆修正
res

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