013.ハヤト。危機、再び
アレク川の岸辺で一通り組み手を終えたリョウは、リプレに頼まれてハヤトたちを起こすべく部屋へと向かった。
もちろんアヤとナツミの服はすでに早起きしたアヤに渡しているので、持っているのはトウヤとハヤトの服。
それからもう一つ。濡れた布。
これの使用方法はもちろんハヤトを起こすためである。
「おはよう」
部屋に戻ると、トウヤが昨日と同じようにハヤトを起こそうと躍起になっていた。
「おはよう。また起きてない?」
「そう」
トウヤが苦笑するのを見て、梯子へと歩み寄り、トウヤに服を預けて濡れた布だけを手にベッドの上段に上がった。
すやすやと眠っているハヤトの顔に濡れた布をそっと被せた。
待つこと数十秒。
息が出来なくなったハヤトが酸素を求めて勢いよく起き上がった。
「またかよ!!」
「おはようございます新堂さん」
してやったりといった表情で、リョウは梯子からぽんと飛び降りた。
トウヤから服を戻してもらい、片方をトウヤに渡した。
「えっと、これは?」
「トウヤの分。こっちは新堂さんの分です」
リョウはベッドの上段に服を投げた。
「もしかして、昨日言ってたのはこれのこと?」
「そう。俺が作ったのは新堂さんとアヤとナツミの服だけどね」
「僕のはリプレ?」
「そう。それと俺のもリプレが作った」
くるっと回って、にっと笑った。
「似合うだろ」
「ハヤトと似たようなデザインだね」
「それは言わないでほしいなぁ。気がついたらリプレがそういう風に作ってたんだよ」
ため息をついて、リョウはトウヤに背を向けた。
「あ……」
「なに?」
「いや、なんでもない。着替えたら降りてこいよ」
部屋を後にして、そっとため息をついた。
着替えを見てもリョウは平気なのだが、美羽によく怒られていたことを思い出したのだ。
異性と同室という時点で怒られるであろうことは、リョウの頭の中にはなかった。
「リョウ、おはよう……」
眠たそうなナツミが、目を擦りながら現れた。
服はリョウが作ったもので、ナツミの後ろには同じくリョウが作った服を着るアヤがいた。
「おはようございます、リョウ」
「おはよう、ナツミ、アヤ」
「明日のお楽しみって言うのがこの服だってのが驚きだったよ」
「リョウって裁縫も出来るんですね」
「サイズもぴったりだし」
「それはよかった」
「いつの間に図ったの?」
ナツミは頬を僅かに赤らめながら、胸元を両手で隠す。
「それは企業秘密ってことで」
にっと笑って誤魔化し、階段を下った。
アヤとナツミもそれに従って階段を下りる。
「ねぇ、リョウって苦手なことないの?」
「苦手なこと?……そうだなぁ」
ナツミの質問に首を傾げる。
「苦手、というか嫌いな人種を挙げるなら、召喚師かな」
「え?」
「俺の母さん、召喚師に飼い殺しにされてたから。それに連なることは苦手かな。あっちの世界ではそんなことなかったけど」
「ごめん」
「いいよ、気にしてないし。ナツミの優しい気持ちで母さんの心もきっと休まるよ」
リョウは"悪い"と顔に書いてあるようなナツミの頭をぽんぽんと軽く叩くようにして撫でた。
「この世界では、あっちの世界の仏教と同じで輪廻転生が信じられているんだ」
「りんねてんせい?」
「生まれ変わりのことですよね」
「そう。だから、たぶんどこかで生まれ変われる」
「そうなんだ……」
「そうだといいですね」
「ああ」
リョウを先頭に部屋に入ると、すでにレイド、ガゼル、エドス、ラミの姿があった。
「新しい服だな」
「似合ってるじゃないか」
アヤとナツミは嬉しそうにレイドに微笑みかけた。
「まさかリョウが裁縫が得意だったなんてなぁ」
「家事の殆どは姉さんだったけど、裁縫と洗濯は俺の仕事だったから」
「意外に働き者?」
「他の人が皆まともじゃないから」
一風変わった同居人たちを思い出しながら言うと、フィズとアルバと一緒にハヤトとトウヤが入ってくる。
「おはようさん」
「二人もちょうどよかったみたいだな」
「似合ってるじゃねぇか」
ガゼルが笑みを浮かべながら二人を褒めた。
「気のせいか、ハヤトとリョウはお揃いだな」
「リョウの服は、私がリョウの作ってたハヤトの服を真似して作ってみました」
くすくすと笑いながら、リプレが台所から顔を出す。
「おはよう皆。アヤ、ナツミ、ちょっと手伝ってくれない?」
「はい」
「わかったよ!」
二人が一緒に台所へ消えていく。
「約束、覚えてる?」
トウヤがにっこりと微笑んだのを見て、リョウは縦に頷いた。
「午前中に基礎訓練をして、その後召喚術についてもやっておく」
「そこまで教えてくれるのかい?」
「召喚術は使えるみたいだし、制御できたほうがいいだろう?……できたらアヤたちからサモナイト石を借りてきておいてほしいんだけど」
「どうして?」
「適性を調べるんだよ。サプレスの召喚獣を呼んだからといってサプレスの召喚師とは限らない。トウヤ、というか四人の潜在魔力は高いから、どれが本当に相性がいいのか一度ちゃんと調べておいたほうがいいからな」
「潜在魔力?」
レイドが疑問を呟く。
それはエドスとガゼルも同様のようで、首をひねっている。
「魔力には種類があって……これを話すと少し論理的になるから省くけど、これは誰もが持っている生まれながらの才能だ。簡単に言えば、方法さえ知っていれば召喚師じゃなくても召喚術は使えるってことだよ」
「なに!?」
「誓約がすんだらガゼルたちもやってみるか?」
「出来るのか?」
「得手不得手はあるだろうけど、誓約済みのサモナイト石を使っての簡単な召喚なら出来る」
「それはリプレでも、この子たちでも、ということか?」
「もちろん。この中で魔力のランクをつけるとしたら、俺、新堂さん、トウヤ、レイド、ガゼル、ラミ、エドス、フィズ、アルバ……かな?」
「僕よりハヤトのほうが上なんだ」
「俺も信じられないけど、ハヤトは別格だよ。俺と一緒」
「そうなのか?」
「別に信じなくても結構ですけどね」
リョウはハヤトに鋭い瞳を一度向け、視線を元に戻した。
「エドスはどっちかって言うと魔力を練る細かい作業が苦手そうだし、子どもたちには初級程度しか使わせられないけど、三人の中じゃラミが一番かなって感じの順位」
「アヤとナツミとリプレは?」
「新堂さんからレイドの間くらいかな。魔力はあっても使いこなせる力がなければ意味はないけどね」
「たしかにそうだな」
⇒あとがき
召喚術についての話はオリジナル説入ってますので、あまり本気にしないようにお気をつけ下さい。
次回、剣の稽古&トウヤが召喚術を使います。
20040509 カズイ
20070422 加筆修正
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