011.おつむに来ました!
リョウが扉を開けると、病的に色の白い青年が扉の前に立っていた。
時が止まったかのように、リョウはその青年と目があったまま動きを止めた。
殺気を孕んだその瞳にリョウは思った。
この男はレイドよりも強い、と。
「……何のようですか?」
「昼間のことで挨拶しに来てやったぜ?」
嫌味ったらしく笑みを浮かべた青年は、楽しそうにリョウの顔を眺めた。
見た目で自分を判断しなかっただけ、彼は中々に上手である。
リョウは眉を寄せ、青年の力量を測りかねた。
「聞けば、随分と俺様の部下を可愛がってくれたらしいじゃねえか」
あの時気絶させた二人も青年の後ろにいた。
「先に俺らにちょっかいかけてきたのはお前らのほうだろうが!!」
「きっかけなんざ関係ねぇんだよ!!」
後ろから現れたガゼルの反論も軽く流し、青年は歯牙にもかけずに続けた。
「ただ問題なのは、俺様の面子にお前らが泥を塗ったってことよ!」
リョウは唇を噛み、青年を睨んだ。
やはり失敗だった。
「……何が望みだ、バノッサ!!」
リョウを庇うように現れたレイドが低い声で問う。
青年の名にリョウはぴくっと反応し、眉の皺を増やした。
「ことの張本人を俺様に引き渡しな。今ならそいつの始末だけで勘弁してやる」
そう口ではいいながら、顎でリョウを示す。
やはり青年はわかっている。
「断る、と言ったら?」
「クククッ言わなくても手前ならわかるだろう?それなりの覚悟はしてもらうことになるぜぇ」
レイドの身体を横に避け、リョウは前へ出た。
「俺がやった」
「本当か?」
からかいを含んだ言葉で見下され、リョウは頬を引き攣らせた。
「お前、"バノッサ"とか言ったよな」
「は?」
「"バノッサ"なんだな?」
「リョウ、お、落ち着け」
妙な空気に気づいたトウヤがリョウを止めようと近寄った。
だが、リョウはその手を払いのけ、低く呟いた。
「おつむに……おつむに来ました」
リョウはギッバノッサを睨み、明らかな殺気を称えながら構えをとった。
「リョウ!?」
ナツミが止めるのも聞かず、リョウはバノッサへと地を蹴った。
バノッサは細身の日本刀のような剣を引き抜き、にやりと笑う。
左手に剣先に触れないようにカバーし、右手で打つ。
だがギリギリのところでかわされ、一度間合いを取る。
「あのクソ野郎と同じ名前のヤツに絶対負けねぇ」
バノッサノ斜め後ろから向かって来たナイフがリョウの頬を掠った。
「邪魔すんじゃねぇ!」
背後の部下を振りかえる事無く怒鳴り、リョウを見てにやりと笑った。
そしてバノッサが何かを言おうとした瞬間、リョウとバノッサの間に突然光が生まれた。
「な……っ」
小さくはじけると、光から現れたのは霊界に住むと言われるリプシーだった。
「ぴぴっ」
嬉しそうなリプシーは誰に言われるまでもなくリョウの傷を癒した。
リョウは後ろを振り返り、サモナイト石を握り締めているトウヤが呆然とこちらを見ているのを見た。
「てめぇ……召喚師なのか?」
「そ、そんなわけ無いだろう!」
「召喚師!?」
バノッサノ部下たちはその言葉に驚き、ざわめいた。
「うわぁぁ!!」
「おい、てめぇら!……ちっ」
走り去ってしまった部下たちに舌打ちしたバノッサは、リョウを睨んだ。
「お預けってところだな。こっちもいろいろあるし」
「ふんっ、そうだな」
バノッサはそう言って立ち去っていった。
リプシーはリョウに頭を下げた。
「あ、頭下げた」
「君は……トウヤに呼ばれてきたのか?」
「ぴぴ〜」
あっさり肯定され、リョウは頭を抱えた。
「反応しなかったから絶対違うと思ったのに……」
「ぴぴ?」
大丈夫?とでも言うようにリプシーはリョウに近付いた。
「どういうことなんだ?」
トウヤ本人もまだ戸惑っているようだ。
「とりあえず先に送還してやれ」
「送還?」
「ああ、知識がないからだめか」
リョウは肩を落とし、トウヤの近くまで歩いた。
「サポートするよ」
リョウはサモナイト石を握り締めたままのトウヤの手を両手でそっと包み込んだ。
「石に集中して」
「あ、ああ」
「……またな」
リョウが小さくそう言うと、リプシーは再びリョウに頭を下げ、姿を消した。
「送還完了」
「終わり?」
「そう。終わり」
「……なんか、簡単なものなんだね、召喚って」
驚いたようなトウヤにリョウはくすくすと笑った。
柔らかで優しい笑みに、一番仲が悪いと言っても過言ではないハヤトは驚いた。
いや、皆驚いた。
⇒あとがき
夢主と"バノッサ"という名前の関係性はとりあえず次回で。
ちなみに、「おつむに来ました」の台詞は姉・美羽の「おつむに来ましたわ!」にかけてます。
一緒に育った仲ならば、癖とか似るかと思いまして。
天然と言う性格もあながち外れてませんしね♪
20040504 カズイ
20070421 加筆修正
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