010.オプテュスが絡んできた

 こまごまとした雑貨品と食料品も買い、荷物は男性陣とリョウが持った。
 朝も向かったアレク川。
 商店街に行く途中に見たサイジェントの市民公園。
 灰色の煙突が並ぶ工場。
 繁華街。
 領主の住む城。
 北スラムを横目に召喚獣鉄道を見て、上級階級区を見て歩いた。

 そして今、何故か目の前には青っぽい髪の男とサングラスをかけた男が道を塞いでいる。
「おう、そこのお前ら、ここじゃ見かけねぇツラだなぁ?」
 青い髪の男がリョウたちに目を止める。
 リョウは眉を寄せるのを見て、ガゼルが小声で話し掛けた。
「……無視しろ」
「なんで」
「こいつらがさっき話したオプテュスの連中なんだよ。関わるとろくなことにはならねえ。無視するんだ」
 商店街に来る途中でガゼルが話してくれたオプテュスの話を思い出し、リョウはそう言うことかと納得した。
 オプテュスはガゼルたちの暮らす南スラムとは反対の北スラムに拠点を置くいわば不良集団だ。
「なに黙ってんだよ。オラ!口がきけねえのか?」
 サングラスの男が、リョウの胸倉を掴むが、リョウはガゼルに言われた通りにそれを無視した。
 男の手はガゼルによって素早く払われた。
「お前らと関わってる暇はねえんだ。わかったらとっととそこをどけよ」
 ガゼルは低く脅しを含んだ声を発した。
「おお、誰かと思えばコソ泥のガゼルじゃねえか?」
 大して動じず、青い髪の男が、始めてガゼルに気がついたと言うように声をかけた。
 明らかに見下していることがわかる。
「女と子分をはべらせて、いいご身分じゃねえあ」
 ふんと、サングラスの男が鼻で嘲け笑った。
「こいつらはそんなんじゃねえ」
「そうだ。なんで俺より弱いヤツの子分にならなくちゃいけないんだ」
「リョウ、余計なことを言うんじゃねぇ!」
 声を荒げたガゼルが、恥ずかしさからか顔を赤くし、拳を握っている。
「悪い」

「やる気か?」
「望むところだぜ」
 青い髪の男がナイフを抜き、そのままリョウに斬りかかった。
 リョウはそのナイフをすっと避け、関節を外さずさないようにくるりと回して地面に叩き落した。
「なっ!?」
 あまりにもあっさりとした流れるような投げ方に、サングラスをかけた男が驚く。
「手を出してきたんだから文句言うなよ」
「てめぇ……」
「俺はリョウ。梁山泊に名を連ねる者だ」
 念を押すように良い、向かってくるサングラスの男の拳を掴み、勢いを利用してそのまま投げ飛ばした。
 片手には荷物を持ったまま、余裕の反撃に、オプテュスの二人は成す術を持たなかった。
「梁山泊だ。じゃあな」
 起き上がろうとした青い髪の男の背後に回り、とんと軽く一突き。
 すると男はかくっと気絶した。

「さて、帰ろうか」
「……本当強いな」
 トウヤが感嘆のため息を漏らす。
「"何を持って強となすか、何を持って弱となすか。それはすべて己の心次第"」
「え?」
「長老……俺の育ての親が俺にくれた言葉だ。強さなんて人それぞれ、人の心がそれを……その真価を左右する」
「リョウはどっち?」
「今は強いんじゃない?」
 リョウはナツミの問にそう答え、スラムの方へと先に歩き出した。
「あ、リョウ!」
 呆然とする皆を残し、リョウは先へと進む。
 はっとして全員が追いかけるときにはかなり走らなくてはいけなかった。







「……悪かった」
 夕食後、片付けも終わったリプレを加えた席で、リョウは突然そう言った。
「なにがだよ」
「昼間のこと。……"梁山泊の"って名乗ったけど、ガゼルもリプレもいただろう?……だから、悪かった」
「なんだ。そのことか。……気にするなよ」
「でも……因縁とかつけられたりしたら」
「あいつらが俺らを目の敵にしてるのは今に始まったことじゃねえ」
「だが、今まではそれで済んでいたが、おそらく連中は今日のことを口実に直接手を出してくるだろう」
 レイドの言葉に、リョウはコップに口をつけていた手を止めた。
「悪い、君を責めているわけじゃない。ただ……」
 レイドの言いたいことはわかる。
「リプレたちには迷惑をかけたくなかったんだ」
「それって……どういうこと?」
「あいつらは女子どもであろうと容赦はしない。そういう連中なんだ」
 エドスの言葉に、ガゼルがテーブルを叩く。
 リョウはコップの水をぐっと飲むと、椅子から立ち上がった。
「リョウ?」
 アヤが心配そうにリョウを見た。

「……来た」
 リョウはテーブルに背を向け、部屋を後にした。
「リョウ!?」



⇒あとがき
 最後の「来た」って台詞を書いてて思ったんです。
 来てなかったらどうするんだ、と。
20040504 カズイ
20070421 加筆修正
res

×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -